大惨事対戦 ②
『ガガガガガガ!!!!』
「モモ君、ゴーレムは君に任せる。 壊すことをためらうなよ、自分が生き残ることを優先しろ」
「わ、わかりました……! 師匠も気を付けてください!」
目の前の少女を相手にしつつ、寝返ったゴーレムの面倒までは見ていられない。 ダイゴロウの対処はモモ君へ押し付ける。
これでこちらは目の前に相手に集中できるが、モモ君に背中を任せるのは非常に不安が残る。 できればあまり時間を掛けずに処理できればいいのだが……
「聖人、君はどうする? 子どもを切り捨てるのが良心に響くならモモ君の手伝いをしてもらうが」
「バカいえ、それをいうなら子どもを見捨てられねえよ。 それにどう考えてもこっちの方が厄介だ」
「子ども扱いするなよ、僕もあの子もどうせろくな素性じゃない」
「心外なのですよ、こんなか弱い乙女を捕まえてなんてこと言うのです」
「面白い冗談だな、か弱い乙女は天井に風穴を開けねえよ」
唸るダイゴロウの背から、僕たちを睨む少女の視線が突き刺さる。
彼女の手には無数の石礫も握られている。 最初のものよりは小さいが、まとめて放り投げられたら避けるのは至難の業だ。
「ふんっ、まあいいのです。 ……それよりもお前、今のは固有魔術ってやつなのですか」
「だとしたらどうする? 種明かしをする気はないぞ」
「結構、力づくで暴くのですよ―――――“すなわち、これは兵器である”」
三度目の文言とともに、少女は握りしめた石礫をまとめて投擲する。
どれも直撃すれば致命傷になりかねない、しかも同時に弾幕の隙間を埋めるようにダイゴロウをけしかける徹底ぶりだ。
「モモ君、言ったとおりだ。 そっちはまかせた」
「はい、任せてください!」
被弾しないように飛来する礫の軌道をすべて逸らすと、その隙間に差し込むように、モモ君が前方に躍り出る。
そのままダイゴロウの口に拾った瓦礫を突っ込むと、腕の力だけで無理やり真横へぶん投げた。
『グガガガガガガガ!!!?』
「ごめん、大五郎! すぐに止めるから!」
「マジかよあの子、パワフルだな……」
「モモ君のことは気にするな、前に集中しろ!」
「戦闘中によそ見とは、いい気なものなのですよ」
壁を突き破って消えていったダイゴロウとモモ君には目も向けず、次に少女は足元の石を器用に蹴り上げる。
見た目にそぐわぬ威力の石礫は、たやすく直上の天井を粉砕し、部屋に大量の瓦礫を振り注がせた。
物量だけならば問題ない、すべて受け流せる。 だが問題は視界を遮る大量の土埃だ。
「チッ、“疾風の……」
「待て、目くらましは好都合だ。 正面やや右、1時方向!」
「……信じるぞ、“疾風の一番”!」
土煙を吹き飛ばそうと構えた術を、青年の指示に合わせて前方に射出する。
回転しながら放った風の弾丸は、視界を遮る煙のカーテンに穴を開け、息をひそめて接近していた少女の腕を弾き飛ばす。
その手に握られたナイフは衝撃で吹き飛び、綺麗な弧を描きながら部屋の壁に突き刺さった。
「っ……気配は消していたはずなのですよ、渡来人」
「悪いな、俺の画面ならばっちり見える。 スキルコール、“縮地”!」
空気弾を受け、体勢が崩れた少女の懐に青年が素早く潜り込む。
一歩には遠いはずの間合いを一瞬で詰め、横一文字に振るわれたカタナは、気づく隙も与えず少女の腹をとらえた―――――はずだった。
「……この期に及んで峰打ちとは、優しさを通り越して間抜けなのですよ」
「な……に……!?」
青年が振るった刃は、振り抜かれることなく少女の腹で止まった。
彼が過剰に手加減をしているわけではない、まるで見えない何かに阻まれるようにそれ以上刀が進まないのだ。
「くっ……動かねえ……!?」
「カタナ、間近で見れば美しいものなのです。 しかしそんなものは、人を殺す道具には不要」
「バカ、武器を捨てて離れろ!!」
少女は自分の腹に食いつくカタナを指で摘み、ほんの少し力を籠める。
紙細工を潰さぬようなその所作に、「ピシリ」と嫌な音が響いた。
「―――――“すなわち、これは兵器に非ず”」
少女が断言したその瞬間、刃こぼれ一つなかったはずのカタナは、音を立てて砕け散った。
「嘘だろおまっ―――――ガッ!?」
驚愕する青年の体が埃のように吹き飛び、壁を突き破って部屋の外へ消えていく。
彼を吹き飛ばしたのは、少女が指で弾き撃った小石ほどの礫だ。
「さて、残るはそこのホワイトと……」
「うわーっ! 師匠、加賀瀬さん飛んできましたけど!?」
『クゥーン……』
「そっちのピンクなのですね」
吹っ飛んだ青年とダイゴロウを担ぎ、モモ君が壁の穴から顔を覗かせる。
ダイゴロウは両手足が完全に破壊され、胴体ももはやまともに動かないほどベコベコにへこんでいた。
それでも鳴ける余裕がある当たり、コアは無事なようだがずいぶん容赦なくやったらしい。
「モモ君、そのバカブラックは任せた。 内臓をやられた可能性が高い、急いで聖女に診せないとまずいかもしれないぞ」
「だ、だったら2人で戦った方が……」
「来るな! 君が接触する方が危険なんだ!!」
「今気づいても、遅いのです」
たった今目の前にいたはずの少女が、なぜかモモ君の目前に現れる。
それはまるでさきほど青年が見せたような、一瞬で距離を詰める技だ。
「わっ!? ウォーちゃ……」
「ずいぶん手ひどくゴーレムを破壊してくれたのですね? その膂力、耐久性、体力、どれも人のものとは思えない」
詠唱は間に合わない、完全に出し抜かれた。
無詠唱で放つ空気弾よりも早く、少女の手がモモ君の肩に触れた。
「――――“すなわち、お前は兵器である”のですよ」




