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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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ようこそエルナトへ ③

「ま、書類はこんなもんで良いね。 それじゃ次は適性を見ていくよ!」


「適性……ですか?」


 ひとしきり書類を書き終えると、着いてこいとばかりに別室へと案内される。

訓練場だろうか、広い空間には刃引き済みの剣や皮盾などが立てかけられており、部屋の中央には木と粘土で形造られた人型の人形が佇んでいた。


「あんたらの適性を見ないとこっちもどんな仕事紹介?すりゃいいか分からないからね、剣は振れるかい?」


「師匠は駄目だと思います」


「おいコラ待て、勝手に決めつけるんじゃない。 この程度のなまくら僕の力でだってふんぎぎぎ……!」


「ほらー、危ないから無茶しないでください」


 壁に立てかけられた剣を一本手に取り、持ち上げようと踏ん張るが剣先をずるずる引きずるだけで終わった。

ははーんさては僕が投獄されている間に生み出された新種の超重量金属かなにかが使われているな?


「試験用の軽量剣でもダメかい、あんたは後回しだね。 とりあえずそっちの渡来人からやってみな」


「はい! ……ってステラさん、やるって何をですか?」


「簡単だよ、壁の武器は好きに使っていいからあの人形を攻撃してみな」


 そう言って彼女が指し示したのは、部屋の中央に佇んだ例の粘土人形だった。

見た限りではそこまで頑丈な造りには見えない、刃引きしてあるとはいえ用意されてある武器で殴れば簡単に壊れてしまいそうだ。


「えっと、壊しても大丈夫ですか?」


「まあ破壊出来たら上出来さ、それじゃ動かすよ」


「動かすって何を……ってええ!?」


 ステラがポケットから宝石のようなものを取り出すと、それに反応した粘土人形がビクリと顔を上げる。

続いて四肢を滅茶苦茶な方向に動かしたかと思えば、広い室内を縦横無尽に飛び跳ね始めた。


「うわー!? ななな何ですかあれ!?」


「試験用のゴーレムさ、動きは気持ち悪いけどあんたに捉えられるかい?」


「なるほど、戦闘能力の有無をこいつで見ている訳か」


 動作こそ奇天烈だが、たしかに素人がこの不規則な動きを捕まえるのは難しい。

モモ君にろくな戦闘経験があるとは思えない、下手に突っ込んで衝突すれば軽い怪我じゃすまないだろう。

それにしても興味深い機構をしている、あの宝石で制御しているのか? 魔術とも魔法とも違う体系に見えるが……


「えーと、それなら……この剣借りますね」


「無理するなよモモ君、先に僕が片付けようか?」


「大丈夫です、動きは激しいですけどタイミングを合わせて……今っ!!」


 ゴーレムが着地した一瞬の硬直を突き、モモ君が地を蹴った。

10歩以上はありそうな間合いを一息で詰め、構えた剣を横凪に一閃。 躱す暇など微塵もない早業だ。

そしてゴーレムの首から上は見事に吹き飛び、壁にぶつかり粉みじんとなった。


「わぁー!? ごめんなさい!」


「何を驚いているんだ、壊しても構わないと言われたろ」


「いや、そうなんですけど……これ」


 真っ青な顔でモモ君が差し出した剣は、持ち手の部分がまるで雑巾のようにねじれていた。

おそるおそる(つか)をノックしてみるが、当然金属製だ。 


「ご、ごごごごごめんなさい……べ、弁償しますんで」


「どうせ武器屋の見習いが打ったなまくらさ、気にしなくてもいいよ! しっかしとんでもない力だねえ」


 ステラがモモ君から回収した剣をしげしげと眺める。

幸い刀身の部分は無事だ、柄を外せば再利用もできなくはないが、そこまで費用を掛ける剣でもあるまい。


「神の寵愛ってやつかい、強力だけど戦闘に駆り出すには危なっかしいね」


「味方が巻き込まれてはたまらないからね、それとゴーレムも壊れているが代わりはあるのかい?」


「そりゃスペアはあるけど、おチビちゃんもやるのかい?」


「チビではないさ、将来性の塊と呼んでくれ」


 モモ君が難なく攻略した手前、対抗心というものがある。

それに相手の挙動は一度見た、あの程度の速度ならいくらでも対処法はある。


「悪いが用意してくれ、時間は掛けないさ」


「まあ良いけどさ、無理だと思ったら早めに諦めるんだよ」


 ステラが宝石に魔力を注ぐと、部屋に奥に置かれた木箱から同じ形のゴーレムが勢いよく飛び出す。

やはり動きこそ激しいが、モモ君が狩ったように着地の際などの隙が見える。

いや、むしろ初心者が倒しやすいようにあえて大きな隙を残しているのか。


「……師匠、見てるだけでいいんですか?」


「いや、もう倒したよ」


「へっ?」


 観察も終わった、これ以上時間を掛けても彼女達に悪い。

というわけで合図として指を鳴らすと、動き回るゴーレムは瞬時にして爆発四散した。


「…………な、なにしたんですか師匠?」


「関節の隙間から内部に空気弾を送り込んで炸裂させた、この程度の操作なら無詠唱でも出来る」


 哀れゴーレムは上半身が木っ端みじん、核と思われるものごと砕いたから再起は不可能だ。

武器も破損することなくこの結果、モモ君の前で面目は立ったはずだ。


「おチビちゃん、あんた……魔法が使えるのかい?」


「魔法じゃない、魔術師だ。 それにチビではなくこれから無限の可能性を秘めている……」


「あーはいはい、その話は後にしましょうねー師匠」


「こら、人の事を勝手に担ぎ上げるんじゃない! 大事な話だ、大事な話なんだぞこれは! いいか、本当は僕だってもっと身長は高いし体力だってあるんだからなー!!」


――――――――…………

――――……

――…


「ま、あんたら二人とも戦える力はあるって事だね。 合格だよ!」


 受付に戻り、豪快に笑うステラから渡されたのは黒い金属質のプレートだった。

表面には自分の名前が掘られ、裏面にはひし形の宝石が2つ埋め込まれている。

見た目こそシンプルだが、中身には複雑に絡んだ魔力の波動も感じる。 ただの名札という訳ではなさそうだ。


「これがギルドカードですか?」


「そうだよ、それを持っている限りあんたらはギルドの一員だ。 無くすんじゃないよ」


「あとで鎖でも通して首にかけておくか、この裏面の宝石は何だい?」


「その星はあんたらのランクさ、今は10段階評価で2つ星ってことだね」


 実力上位の者が下位が受けるべき依頼を食いつぶさないための処置というところか。

納得は出来る話だが、それなら一つ解せないところがある。


「なんで最初から2つ星なんだ? 新人なら1から始まると思うんだが……」


「あんたら随分動けるみたいだからおまけだよ、2つ星程度の実力はあるってあたしが保証しておくさ!」


「わー、ありがとうございます!」


 モモ君は素直に喜んではいるが、ランクが上がれば危険な依頼だって受けなければならないはずだ。

そう考えると星の増加は良い事ばかりではない、まだ2つ程度ならそこまで警戒することでもないかもしれないが……


「というわけで改めてようこそエルナトへ……それとあんたら、今日の宿はあるのかい?」


「「………………あっ」」


 窓の外を見ると、すでに日は傾いて空は橙色から夜の闇へ変わろうとしている。

今から走ったところで空いた宿が見つかるか、いやそれよりそもそも僕たちには金がない。


「……仕方ないなモモ君、今日は野宿だ」


「い、いやだー!?」


 1000年後の世界に落とされて数日、僕らは改めて衣食住の大切さを噛み締める事になった。

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