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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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トライスターの街 ④

「……よし、これで依頼は成立だな」


「ありがとうございます! ありがとうございますぅ!!」


 受領印が押下された依頼書を確認し、控えを懐にしまう。

この街の滞在期間は長くなるが、報酬を考えれば悪くない内容だ。 なにより甘味……いや、収入が多いのは良いことだ。


「いいんですか師匠ぉー、あんなに渋ってたのに安請け合いしちゃって」


「なんだモモ君、僕が菓子に釣られただけと思ってたのか」


「はい」


「ははは即答したなこのやろう、他のメリットも考えている。 とくに図書館の自由閲覧は大きいぞ」


 忌々しいが、現代のリゲルはかなりの規模を誇る街だ。

その中でも知識の蒐集に余念がないとなれば、当然学園に集まる書物の質も高くなる。

アルデバランでは叶わなかったが、この街でならバベルの謎やモモ君の身に起きた異常について調べられるかもしれない。


「そもそもだ、君の目的は元の世界に戻ることだろ。 渡来人について書かれた本もきっとある、君も君なりに調べておけよ」


「ですが師匠、私は文字がいっぱい書いてある本を読むと3分で眠くなる不治の病にかかっています」


「そうか、3分で読破しろ」


「はい……」


「というわけだがギルドマスター、学園への立ち入りはいつから可能かな?」


「はっ! 正式な雇用は明日からになりますが、本日よりライカ様を招く準備は整っております! 」


 さすがギルドマスターを務めるだけはある、もろもろの手回しが迅速だ。

……いや、むしろ早すぎる。 さてはアクシオの入れ知恵で、僕が引き受ける前提の準備が進んでいたんじゃなかろうか。


「……念のための確認だが、僕は新しい人材が見つかるまでのつなぎだからな。 この街にも長く滞在できるわけじゃない」


「もちろんです、そちらのご都合は最大限尊重いたしますが……」


「こちらも契約がある、最低雇用日数までは務めるつもりだ。 反故にする場合は違約金を払おう」


 口頭での確認も終わり、互いに内容の不満はない。

業務内容もここまでスムーズに進むのが理想だが、そう上手い具合に事は進まないはずだ。


「ちなみに、モモセ様も臨時の清掃員として雇い入れる手筈が整っております」


「はい、精一杯務めさせていただきます!!」


「絶対に高価な品には指一本触れるなよ」


「なぜか師匠からの信用がマイナスからのスタートですね!?」


 自分の胸に手を当てて心当たりがないのなら、大した鳥頭だと感心する。

もし物損事故を起こそうものなら当人の責任だ、こちらは一切関与しないと今のうちに釘を刺しておかねば。


「ライカ様、このあとお時間ありますかな? よろしければ早速学園の方を案内させていただきますが……」


「むっ……モモ君、どうする?」


「いいんじゃないですか? 私のことなら急ぎの用事じゃないですし」


「速やかに解決したい案件ではあるんだよ。 ……だがまあ、少し寄り道しても悪くはないか」


 魔術を教える教育機関、というのは自分の時代には存在しなかった概念だ。

気にならないといえばウソになる、それに現代魔術のレベルも推し量れるだろう。


「というわけだ、案内を頼む」


「はっ、では馬車を用意いたしましょう」


「よかったですね師匠、そろそろ歩くのもしんどかったでしょう?」


「黙秘する」


 実際そろそろ体力的に徒歩移動がつらいタイミングだったが、なぜわかったんだこの弟子は。


――――――――…………

――――……

――…


「着きましたぞ、ここが我がリゲル魔術区域が誇るユーリィ学園です」


「思ったよりでかいな……」


「歩くだけで師匠が力尽きる広さですねー」


 馬車に揺られてしばらくすると、目的の学園へと到着する。

ウムラヴォルフ家の屋敷も相当な大きさだったが、あれを何個敷き詰めても足りないほどの敷地だ。

おそらく魔術区域の3割以上がこの学園に使われている、それほど後進の育成に力を入れているという事か。


「しかしユーリィか……まさかな」


「師匠? 学園の名前がどうかしました?」


「名前の由来ですか、よくぞ聞いてくださいましたな!」


 別に名前を聞いたわけではないのに、突如ギルドマスターが張り切って躍り出る。

どうやらこの学園の名前に相当誇りがあるらしいが、個人的にあまり良い予感がしない。


「紹介したいのは山々なのですが、まずは正門をくぐってしまいましょう。 見てもらった方が話も早いでしょうから」


「へー、なんだろう。 ワクワクしますね師匠!」


「帰っていいか?」


「どうしたんですか急にやる気失せちゃって」


 こちらの抵抗も伝わることなく、馬車は大きく開かれた正門をくぐる。

学園入り口までの間に作られた庭はよく手入れが行き届き、景観の中央には大きな噴水が鎮座していた。

庭作業用のゴーレムも何台か稼働しているのが見える、人の手では届かない高さの木まで楽々ハサミを入れて便利なものだ。


「わー、テーマパークみたい! 見てください師匠、でっかい人が働いてます!」


「ゴーレムだよ、煌帝と同じだ。 あれよりはかなり性能も劣る土人形だがな」


「へー、なんかちょっと可愛いですね。 ……あっ、あっちには大きな像もありますよ!」


「よくぞ気づきになられた、あれこそがかつてリゲルを救ったとされる英雄の像でございます」


 そしてギルドマスターが自慢げに髭をさすりながら、噴水の向こう側に鎮座する銅像を指し示す。

片手に不思議な形の杖を持ち、空いた片手に小さな球を108個通した妙なブレスレットを構えた、いけ好かない顔の像。

美化こそされているが、モチーフとなった英雄とやらには思い当たる節があった。


「……ユウリ・リン」


「ほお! さすがライカ様、ご存じでしたか」


「知らないはずがないさ。 ……まさか、1000年過ぎてもこのバカ面を拝むことになるとは思わなかったがな」


「1000年って、もしかして師匠のお知り合いですか?」


「知ってるも何も、僕に魔術を教えた人だよ。 半ば無理やりにな」


「ほえー……………………え? えぇー!?」


 ユウリ・リン。 本人はこの世界の発音に合わせてユーリィと名乗っていた。

竜を素手で殴り倒し、悪魔を説き伏せ、吸血鬼と酒を酌み交わし……最後は人間の悪性によって死んだ、ただの愚かなお人好しの名だ。

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