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異世界ベテラン幼女師匠  作者: 赤しゃり
本編

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トライスターの街 ②

「はい……我々は炉端の石以下です……」


「虫けら同然の私どもに何なりとご命令を……」


「師匠、なんだかすごいしょぼくれちゃってます!」


「いやあ、人体ってあんな勢いで吹っ飛ぶんだな」


 モモ君とトゥールー信徒の腕相撲は、ほぼ瞬殺で幕を閉じた。

ずいぶん鍛えた肉体なのであるいは苦戦するかとも思ったが、神の恩寵とはなんと残酷なものだろうか。

そして見た目は非力な少女に負けた2人は大いにプライドを傷つけられ、見てのとおり従順な態度を示しているわけだ。


「ありがとうございます、モモさん。 では早速質問ですが」


「否ッッ!!! 我々は確かに敗北したがそれはアスクレスにあらずッッッ!!!」


「我々に銘ずる資格があるのは強き者のみ!!! 控えていただこうッッッ!!!」


「ロッシュさん! どこから取り出したんですかそのごつい籠手!?」


「離してくださいモモさん、痛みと癒しを同時にねじ込まれる感覚をとくと味わせてやりましょう」


「モモ君、話が進まないから君が聞いた方が早い。 聖女が聞きたいのはあのラグナという少女のことだろ」


「ぬぅッ! ラグナとな!?」


 その名を聞いた途端、2人の巨漢は無駄なポージングをやめ、襟を正す。

どうやら心当たりはあるらしい、彼らの背からは若干だが怒気を感じる。


「し、知っているんですか? えっと……」


「我の名はウィリアム・シュセーと申します……兄でございます……」


「弟のウィリアム・バンセーと申します……ご紹介が遅れ大変申し訳ない……」


「モモ君、いちいち君に対してテンションが変わるのは面倒だからやめるように言ってくれ」


「はい、やめてください2人とも! そしてラグナちゃんについて知っているなら教えてください!」


「賜ったッッッ!!! 彼奴はトゥールー様の雷を使い、各地で暴れる悪ガキよッッッ!!!」


「しかしてあの剛力無双、そして電光雷轟ッッ!!! 彼奴は間違いなく高位のトゥールー信徒に等しい力を持っている!!!!」


「教会に属していないわりに魔法を扱えるわけか、奇怪だな」


 鬱陶しいポージングを交えて話す2人の言葉を読み取るのは疲れるが、言いたいことはなんとなく理解できる。

しかしラグナという少女の素性に関してはトゥールー信徒の中でも知らないというならば、いったいあの少女はどこであれだけの力を身に着けたのか。


「あの少女を匿っているという可能性はあるか?」


「嘘をつける方々とは思えません。 それに敬虔なトゥールー信徒ほど勝者であるモモさんは敬うはず、なおさら虚偽でごまかすような真似はしないかと」


「なるほど、しかし教会にも属さずあの若さで高位神官級の力か……」


「師匠が年齢の話します?」


「うるさいな、実際おかしい話なんだよ。 神から力を借りるには教会に入るのが一番手っ取り早いんだ、なのに彼女はその過程を無視している」


「そうですね……こちらでもう少し詳しく調べてみます。 お二人はお二人の用事があるでしょう、魔術区域へ向かってください」


「なんだ、手伝えと言われると思ったがいいのか?」


「ええ、腕っぷしでしかいう事を聞かないというなら煌帝がいます」


『えっ』


「そうか、それじゃ任せたぞ」


 トゥールーとアスクレスの対立を見るに、本当にやりかねない……というか実際にやるだろうが、僕らには関係のない話だ。

せいぜいあのゴーレムには人身御供となってもらおう、いやゴーレム御供か?


「い、いいんですかね……?」


「彼の犠牲を無駄にしてはならない、僕らはすみやかに魔術区域へ向かおう」


――――――――…………

――――……

――…


「はいよー、こちら国境ならぬ()()管理署。 こりゃ別嬪さんがきたもんだ」


「やあこんにちは。 こう見えても冒険者2人だ、通ってもいいかな?」


 リゲルを三等分にする壁の手前。 そこには小さな関門と、扉を守る無精ひげの魔術師の姿があった。

立ち振る舞いからしてそれなりの腕前と見受ける、ざっと見てノヴァ0.8人分ほどの実力だろうか。


「おっと、冒険者さんか。 ギルドカードを拝見……ほお、その年で三ツ星とはやるねえ」


「私の師匠はすごい人なんですよ!」


「ええい君は口をはさむな、 知り合いからギルドカードを提示すれば通れると聞いたが、これだけでいいのか?」


「そりゃね、いちいち街を行き来するのに厳正な審査なんかしてらんないさ。 三ツ星ならギルドから信用も担保されてる、通っていいよ」


「ほとんどお飾りみたいなものだな、意味があるのか?」


「ないよ、お嬢ちゃんの言う通りただの飾りさ。 三つ巴のトップが皆仲が悪くてね」


「話は聞いていたが街を切り分けるなんて相当根が深いな、理由は?」


「あー……たしか、痴情のもつれ?」


「辞任させろそんな連中」


 いつの時代も、惚れた晴れたを仕事に持ち込む阿呆はいるらしい。

壁を建てるのもただではないだろうに、行う連中も行う連中だが、リゲルの住民はよくもまあ納得しているものだ。


「まあこれはこれで悪かないさ。 街境越えは多少手間だがな、トップが皆負けん気が強いから切磋琢磨しあえる」


「なるほど、さんけんぶんりつ?ってやつですね!」


「どうしたモモ君、難しい言葉使いたがる年ごろか」


「師匠、私だって泣くときは泣きますよ?」


「あっはっは、面白いねお嬢ちゃんたち! 昼飯に困ったら冒険者ギルドの向かいを訪ねな、あそこの香草焼きはうんまいぞぉ」


「それはいい情報を聞いた、ありがとう」


 門番の魔術師と別れ、木組みの関門をくぐる。 壁一枚で隔てた向こう側の街並みは、魔法区域とまるで違う景色だ。

当たり前だが魔法区域では教会や礼拝堂が多く、全体的に静謐な雰囲気を漂わせていた。

だが魔術区域では様々な店や建物がマス目で区切られたかのように整然と並び、魔術師らしい合理的な美しさを感じさせる。


「わー、京都の街みたい! 高い建物がほとんどない!」


「屋根が高いのはギルドや医院……それにあれは学び舎か? 需要や緊急性の高い建物は目立つように配置してあるな」


「考えられているんですねえ、それでこれからどうします?」


「まずはギルドに顔を出そう、何かと世話になるだろうしな。 昼食をとってから君の体を調べられるところを探して尋ねてみるぞ」


「香草焼きのお店ですね!!」


「そういう記憶だけ覚えがいいな君は、転ぶなよ」


 浮足立つモモ君を連れ、まずはギルドを目指して歩きだす。

どうやらマス目上の道路は人の流れも分散させる目的もあるらしい、おかげで大した人ごみにもまれることもなく、目的地へは難なく到着した。



――――――――…………

――――……

――…



「お願いしますアルデバランの救世主様ー!! どうか我らの学園をお救いください!!!」


「………………は?」


 そしてギルドマスターの見事な土下座を拝んだのは、到着してからわずか3分後のことだった。

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