2.両親
「おい、筋肉なんて才能知ってるか?」
「知らねえ、初めてみたぜ。けど、才能が筋肉て……ぷふっぎゃははは!」
筋肉の才能がツボに入ったのか周りから笑いが起こる。
クソッ! 他人事だと思って笑いやがって!
しかし、才能については事前に調べていたから割と詳しい方だと思うが、俺も知らないし初めて見た。
才能は剣士とか魔法使いとか商人みたいな職業のような名前が付くものなんだが、筋肉は職業じゃないだろ。
「凄いねテイン! みんな初めて見る才能だって言ってるよ!」
「ありがとう。でも、エルカの剣鬼の方が凄いと思うぞ」
何しろ剣鬼はAランクで筋肉はCランクだからランクに二つも差がある。
今はLv1だからステータスにあまり差はないが、Lvが上がってくるとランクの差で開きが出てくるんだ。
剣鬼の才能を持つエルカのスカウトは確実だろうが俺はどうかな?
Cランクはそこそこ高いランクだからスカウトも来るかも知れないが、筋肉なんて得体の知れない才能をスカウトするか?
「これで全員の鑑定が終わりましたね。では、創造神ブラフマーよ。十歳の子供たちに祝福を!」
神官が祈りを捧げると神殿が光りに包まれた。
創造神ブラフマーは祝福の光によって十歳の子供たちに才能を与える。
これで俺も今日から筋肉か、何それ?
鑑定式が終わり、その場でスカウトされるのかと思っていたが、騎士団なんかの戦闘の才能を求めている団体は、十二歳になるまで入れない規則がありスカウトはなかった。
神官によると才能とステータスは国に報告するので、後日個別にスカウトがやってくるそうだ。
今はエルカと別れて家の前にいるんだが入りずらいな。
父さんも俺に剣士系の才能を期待してるだろうし……。
いつまでも帰らな訳にいかないので、意を決して帰宅した。
「ただいま戻りました!」
「おう、おかえりテイン。才能はどうだったんだ?」
うっ、早速聞かれたか。
気になるのはわかるがせっかちな親父だ。
「筋肉……」
「ん、何だって?」
「筋肉だよ筋肉! 俺の才能は筋肉なんだよ! 剣士系の才能じゃなくてごめん父さん!」
「ぷはっ、筋肉ってお前。ひゃはっ、どんな才能だよ。ぷふふっ」
めっちゃ笑ってるこの親父はバルク・アイソレート、俺の父さんだ。
良く笑う人だから絶対笑うと思ってた。
だから言いたくなかったんだよ……。
「まあ、あれだ。男なら細かいことは気にすんじゃねえ。良いじゃねえか筋肉、お前はまだ十歳なんだ。満ちてるんだよ、可能性って奴にな」
「父さん……」
朗らかに笑う父さんを見ていると、筋肉の才能も悪い物じゃないんじゃないかと思えてくる。
そんな気にさせる不思議な魅力を持った父さんを俺は尊敬している。
それから俺は鑑定式であったこと、エルカが剣鬼の才能を貰ったことなどを話した。
「エルカちゃんが剣鬼とは驚いたな。俺の剣豪の一つ上じゃねえか」
「才能を貰ったから、もう父さんより強いの?」
「バカ言っちゃいけねえ。才能も大事だが、強さってのはそれだけで決まるもんじゃねえんだ。Lv1なら下位才能と大差ねえよ」
そうか、俺たちは才能を貰ったばかりだからまだLv1なんだよな。
Lvを上げることによりステータスが上昇するんだが、上位才能ほどステータスが高くなるしスキルも強力な物が手に入る。
もちろんステータスだけで戦いに勝てるかと言えば、有利にはなるが絶対ではない。
ステータスだけではなく、駆け引きだったりの戦闘技術が必要になってくるので、父さんはまだ自分の方が強いと言ったのだろう。
事実剣豪の才能を持つ父さんは強い。
昔騎士団に所属してたって聞いたことがあるが、母さんと結婚してこの町に引っ越してきたそうだ。
「筋肉の才能か、俺も知らない才能を貰ってくるとは、さすが俺の息子だ! 明日からは筋肉の才能調査だな。剣鬼のエルカちゃんは間違いなくスカウトされる。テインも強くなれば二年後のスカウトに引っ掛かるかもしれねえぞ。エルカちゃんと離れたくないんだろ?」
「えっ、ちょっ、父さん知ってたの!?」
「テインがエルカちゃんを好きなんてのはバレバレだっての。あの子は良い女になるぜ、離すんじゃねえぞ」
父さんに言われるまでもなく、エルカを誰かに譲る気なんてサラサラないのだ。
二年後にエルカは国にスカウトされこの町を出て行くだろう。
戦闘系の才能だからたぶん騎士団かな?
だったら俺もスカウトされるくらい強くなって一緒に行くんだ!
父さんと話していると母さんが帰ってきた。
母さんはクレア・アイソレート、父さんはどうやって引っかけたのか、二十代後半の若くて美人の母さんだ。
俺の中性的な母さん譲りの顔は気に入っている。
父さんに似たら強面になりそうだもんな。
「聞いたよテイン、才能が筋肉だったらしいじゃない」
「もしかして噂になってる?」
「エルカちゃんにばったり会って聞いたのよ。テインはエルカちゃんと騎士団に入りたいんでしょ? 惚れた女と一緒にいたいなら強くならないとね。筋肉がつく食事は私に任せなさい。いっぱい作ってあげるから!」
母さんにもバレバレだったのか!
バレたものはしょうがない、二人とも味方になってくれそうだしいいか。
これで俺の目標は決まった。
十二歳になるまでにスカウトを受けて、エルカと一緒に騎士団に入ることだ。