ランタン
田舎の古い2階建ての一回に見たことない親戚が沢山。お酒を飲み話し合うおじさん、おばさん達、キャッキャと広い室内走る子供達、それを叱るいとこ達。
毎年の夏の恒例の親戚の集まり。だけど今年は主役は箱の中。もう目の前に来ても喋ることはない。それなのに一部の親戚の笑い声も聞こえたりして。久々に会える親戚も多く近況を話し合ったりして盛り上がってしまうのもわかる。だけどじいちゃんが大好きだった私にこの騒音は耐え難かった。
「母さん、二階行ってくる。」
一声かけて私は二階のじいちゃんが宝物庫と呼んでいた部屋に行く。中にはスチール棚か4つ並んであり中にはキャンプ用品がびっしり並んでいる。テントとわかるものだけで3つ、シュラフは4つ、折りたたみテーブルも4つ、ランタンに関しては8個もある。
「じいちゃん、こんなにいっぱいランタン眩しくなかったのかな?………エレクトリカルパレード?」
あ、このランタン達は電気使わないからエレクトはなんか違う気がする。などと考えていたら一つのランタンを見つける。傘は黒で土台は青っぽい色。ガラスはひし形が書いてあってかわいいやつ。
「これ、じいちゃんが自慢してたやつだ。」
ランタンを、手に取り当時のことを思い出す。小学生の夏休み、私はじいちゃんの家に帰省すると必ず一日は近くの河原に二人でキャンプにいっていた。ばあちゃんと両親はは足腰が辛いと言って来なかたし要領の良い親戚はにげまわっていたからだ。
二人でテントを張ってカエル探しに行って少し暗くなった頃、じいちゃんは嬉しそうにニヤニヤしていた。
「朝日、見てみろ!ジャジャーン!」
そう言って青いランタンを見せびらかす。
「すごいだろ!?」
「何が?」
「何がって………そうか、朝日は知らないんだもんな……。」
「むぅ!朝日は何でも知ってるもん!」
頬を膨らませあのときは地団駄を踏んだ。じいちゃんはそんな私を見て笑う。
「ほら朝日、そんな怒るなよ!かわいい顔がへちゃむくれるぞ?」
「じいちゃんがそんな顔させてるんでしょ!」
「だからごめんって?ほらこのランタン朝日が高校生になったらやるから許せ!」
「ホント?約束だからね!」
そんな約束をしてその日は楽しく過ごしたっけ………。でも中学生になってから部活が忙しくて帰省できなかったり、じいちゃんが足を悪くしたりですっかりランタンのことを忘れていた。じいちゃんの事大好きだったのに薄情な孫なのかな、私は。
でもランタンを見ていたら楽しかった思い出がどんどん出てくる。
「私にくれるって言ってたし………。」
私はランタンを持ち昔キャンプをよくしていた河原に向かっていた。
「来たはいいが………どうやってつけるんだっけ?」
河原に来たはいいが呆然とする。なんとなくやり方は見ていたが実際灯りをつけたことはないのだ。夕暮れ時、夏で日が高いがゆっくりしていたらすぐ暗くなる気がする。田舎は暗くなると本当に真っ暗になるので危険。早く灯りをつけたいがいったいどうしたら………。
「あ、あの、具合悪いんですか?大丈夫ですか?」
いきなり声をかけられ振り向く今にも不安そうな男の子がいた。確かにランタンが見えなかったらしゃがみこんで丸まって具合悪そうに見えるだろう。とりあえず男の子を落ち着かせなければ。
「けんこうだよ。」
「ほ、ほんとうですか?」
「本当。今だって生きる為に灯りを灯そうと四苦八苦してたし。」
「灯り?」
「コレにだよ。」
私はランタンを男の子に見せる。
「こ、これって!?メーカー限定のランタンじゃないですか!?」
「限定のランタン?」
「はい、毎年抽選販売されているランタンでコレクターがいるくらい有名なんです!この色は初めて見ました!うわぁ!すごい!触っていいですか!?」
「うん、どうぞ。」
「ありがとうございます!」
男の子はピカピカした目でランタンを見つめる。あぁ、じいちゃんだから自慢してたんだ。限定ならあのとき教えてくれれば良かったのに。
「見せていただきありがとうございます!あのコレから火をつけるの見ていてもいいですか?」
男の子はキラキラした目で私のことも見る。
「………火?」
「はい!マントルもまだついてないみたいですが空焼きからですか?あっ、その前にポンピングか!」
「ポンピング……?」
知らない単語がポンポン出てきて混乱する。火とか使ってたっけ?キャンプには言ってたけど全部じいちゃん任せだったんだな、私………。
「あ、あの……。」
男の子が困った顔をしていた。
「あぁ、ごめんね。コレじいちゃんので明かりの灯し方わからないんだ………。」
なんか………恥ずかしくなってきた。私何もできないんだ。
二人で気まずくて黙っていたら男の子がいきなり立ち上がった。
「ちょっと待っていてください!」
そう言って男の子は走ってどこかに行った。なんだったんだろう?待つって何時まで?それにしても………私キャンプやってたつもりになってたんだなぁ。全部じいちゃん任せでただ与えられていただけ。じいちゃんはそれで良かったのかな?なんか何もできない自分が嫌になる。じいちゃん………一人で行ったほうが楽しかったんじゃないかな……。
「お、お待たせしました!」
自己否定の海にどっぷり浸かっていたが男の子の声で引き上げられる。男の子は汗だくで息を切らしていた。
「フューエルファネルとマントルとホワイトガソリンとチャッカマン持ってきました。」
「え?なんで?」
「なんでって………灯りつけるんじゃないんですか?」
「えと………私つけかたわからなくて………。」
「なるほど………じゃあ僕が教えますよ!まずガソリン入れてください!」
「は、はい!」
勢いに負けて灯りをつけることになった。えっとまずガソリン入れるのは………ふた開けて……ジョウゴセットして………。
「待ってください。」
「へ?」
「確かにガソリンの口下からでも入れられますが………。」
そう言って男の子は私の手にしていたらガソリンをクルリと回し手の平側にガソリンの口を持ってきた。
「豆乳とかと同じです。注ぎ口の方を上にしてあげると注ぎ口から空気が入りスムーズに注げて跳ね返りもなく安全に注げますよ。」
確かに言われたとおりに入れてみたらトプトプすることなくスムーズに入れられた。たったそれだけのことなのに全然違った。
「フューエルファネル……えっとこのジョウゴを抜くとき注ぎ口の下に拭くものを添えとくといいですよ。すぐに拭けますから。次はポンピングです。燃料バルブはオフになってますね……。さぁ、どうぞ!」
ポンピングはわかる。シュコシュコ何回か空気を入れるやつだ!Closeと書いてあるノズルを引っ張った、そして押す。
押す……押す……が動かない。
「押せないですよね!わかります!僕も初めてランタンを自分でつけたときやりました!やりますよね!ポンプノブを反時計回りに2回、回してから押してみてください。」
言われたとおり通り2回回してから押すとすんなり押せた。え?なんで?
「不思議ですよね。ポンプノブを左にまわすことで、空気の入口となるチェックバルブが開くんです。入口を開けないと、空気圧が入らない構造なんですよ。ではノブにある穴をしっかり押さえ往復運動してください。回数は力の加減にもよりますので、何回というよりも固くなったところを目安にしてください。」
固くなるまでポンピング……固くなるまでポンピング……固く……ならない………。え?こんなにならないもんなの?
顔色を読んだのか男の子は笑顔で教えてくれる。
「あるあるあですよね。最初は慣れないとやめるタイミングわからないですよね。ポンプノブが押し込めなくなるまで行うことをオススメします。ポンピングの目的は、タンク内を高圧にして、燃料を点火部から吹き出させるためなんです。だからタンク内にできるだけ多くの空気を入れてあげたいんです。だから………頑張りましょう!」
男の子の応援に励まされなんどもポンピングする。そうすると自転車の空気を入れるように固くなってきた。そして押せなくなった。
「ポンプを押せなくなったら、穴から指を外してOKです。指を外すと簡単にノブを押し込むことができるので、押し込んだ状態で回転が止まるまで右に回してポンプノブを閉じたら、ポンピング完了です。頑張りましたね!さぁ、ここまで来たらあとちょっとで明かりが灯せますよ!次はマントルです。バーナーチューブ先端の溝に取り付けて、ひもを引いてマントルを固定します。」
男の子は傘の上のネジを回し傘とガラス部分を取り外した。
「このホースみたいなとこにマントル結んでください。」
「マントルってなに?」
「これのことです。」
そう言うと男の子は白いあみの小さな袋を取り出した。
「化学繊維の袋なんです。紐を引っ張りシワが均等になるようにしてから結んでください。」
言われたとおりに結んでみるが細かい作業でなかなかうまく結べない。やっとの事で結べたら男の子は自分のことのように嬉しそうに笑った。
「上手に結べましたね!余分な紐は触れたらマントルの破損につながるので切っちゃいましょう。次はではマントルを空焼きをします。」
「空焼き?」
「はい。燃料バルブをオフにしたままでマントルに火をつけます。マントルは、ガソリンの熱が光を作るように手助けする役割をしてます。マントルは化学繊維でできていてそのまま使用してもマントルはガソリンの熱を光にすることができないんです。だからマントルは、空焼きすることによってはじめてガソリンの熱を光に変えることが出来るんです。不思議ですよね!ではきれいに光ってもらうため丁寧に空焼きしましょう!」
「はい。」
少しおっかなびっくりで火を付けていく。すると燃え広がったところからキュウッとマントルが縮んでいく。………なんか生き物みたいだ。
「まんべんなく、キレイな空焼きですね。今回はぼくがやりますがガラスグローブとベンチレーターを取り付けるときはマントル破けないように注意です。それじゃあ灯りをともしましょう。フレームの下の穴から火のついたチャッカマンを入れて燃料バルブをハイに回してみてください。」
あぁ、やっと明かりが灯る。私頑張ったなぁ。と思いながら火を灯す。するとブァッと炎があがる。
「ひゃっ!?」
ど、どうしよう、火が………。じいちゃんのランタンを燃やしてしまう。私はとっさにバルブをオフにしようとする。
「焦らないでください、大丈夫。ランタンはそんなかんたんに燃えません。灯りを安定させるため固くなるまでポンピングしてみてください。ベンチレーター………えっと傘は熱くなってるので気を付けてくださいね。」
「は、はい。」
ガソリンタンクを左手で支え右手でポンプノブを抑えポンピングする。すると上がっていた炎は小さくなっていきマントルにすっぽりとおさまった。
………出来た。明かりを灯すことが出来た………。
「お疲れ様です。はぁ、ガソリンランタンはやっぱりいいですね。ガスより光が柔らかい気がします。今の時期は熱いですが秋口とか暖かさも魅力的ですよね。」
「そうなんだ………私小学生の夏にしかつけた……違うか、つけてもらったことしかないからわからなかった。」
「そうなんですね。今日はランタンをつけてくれる方はいらっしゃらなかったんですか?」
「うん、死んじゃったから……。今日お葬式だったんだ……。」
「え?今日お葬式………じゃあ………あなたは………輝さんのお孫さんの朝日さんですか?」
「え………?」
輝さん………友利輝夫、じいちゃんの名前の頭文字。なんでこんな若い子がじいちゃんのこと知ってるんだろう?
「あの、輝さんはお客さんで……友達だったんです。」
「友達?じいちゃんと?」
「はい!僕の親がキャンプ場経営していてよく来ていただいてたんです。近くにある藤の森キャンプ場です!あ、名乗るのが遅くなりました。僕、藤の森キャンプ場のオーナーの息子で藤森岳と申します。」
「えっと………輝じいちゃんの孫の川原朝日です。」
「やっぱり朝日さん!輝さんは嬉しそうに話してくださいました。唯一孫の中でキャンプを一緒にしたのが朝日さんだったって。もうそれは何度も何度も………。」
藤森君はちょっとぐったりした顔をした。じいちゃん話長いからなぁ。
「じいちゃん話長いから大変だったでしょ……ごめんね……。」
「いえ、楽しい話もありましたから。」
「そっか。なら良かった。あ、少し訂正キャンプを一緒にしたは違うかな?私何もしてないし。ほら、ランタンだってつけられなかったし。じいちゃん任せだったから。私はキャンプはしてないよ。」
「え?」
「ただ与えられたものを頂いていただけ。キャンプとは程遠いんだよ。だからじいちゃんのキャンプについていっただけなんだ。」
じいちゃんがテントを立ててくれて、ランタンをつけてくれて、料理を作ってくれて………。私は何もしていない。カエルとったり、セミを探したり、花をつんだりしていただけ。
それはキャンプをしたことではない気がした。
「えっと………何をしたらキャンプなんですかね?」
「え?」
「僕はキャンプって自然を楽しんだらキャンプだと思うんですよね。なんかしなきゃキャンプじゃないと定義とかないですし!」
「自然を楽しんだらキャンプ?」
「はい!僕の中ではそういうことになってます。でもキャンプは自由なんで朝日さんのキャンプを見つけるのも良いと思います。」
「私のキャンプ……。」
「はい!せっかくランタンもつけられるようになりましたしね。」
「私のキャンプかぁ……ちょっとやってみようかな?」
「是非!その際は藤の森キャンプ場にお越し下さい!」
「おぉ!接客上手だね。」
私と藤森君は二人で顔を合わせて笑いあったのだった。
引用:
https://ec.coleman.co.jp/item/IS00060N01042.html
https://www.coleman.co.jp/customersupport/faq/02/
https://hyakkei-me.cdn.ampproject.org/v/s/hyakkei.me/articles-338/amp?amp_js_v=a3&_gsa=1&usqp=mq331AQFKAGwASA%3D#aoh=15834696263722&_ct=1583469628707&csi=1&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com&_tf=%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B9%3A%20%251%24s&share=https%3A%2F%2Fhyakkei.me%2Farticles-338
https://camphack.nap-camp.com/939
https://hinata.me/article/887567745791531194?page=2
http://campeople.jp/cap0002009-post/