009『勇気の中で……』
「お前ホントにそういう話好きだよな」
あきれ加減に青木はいった。
黒田は負けじと、子供のように目を輝かせ、
「だって面白いだろ、そういう話!」
と、迫り寄ってくる。
青木は気圧されながら、
「まあ、面白いちゃ面白いがな」
と、引き気味に答えた。
「だろ、そのノート俺にも見してくれよ」
黒田はそういうなりホコリの被った、本をお構いなしに青木の手からもぎとった。無理やりとったものだから、本についていたホコリが舞い青木はせき込んでしまう。
「ゴホゴホ、無理やり取るなよホコリ立つだろうが!」
しかし黒田の耳には入っていない様子で本のページをめくっている、パラパラめくっていくもののまったく読めていないのが一目でわかる顔をしながら落胆していった。
「全然読めねーわ、何でこんなに昔の人はぐにゃぐにゃな字を書くんだ」
「は? そりゃあ、こういう字が昔の美文字だったんだろうよ」
「そうなのか、こんな字で本当に昔の人は読めていたのかよ。信じられねーな」
「読めていたんだろうよ、でないとどうやって昔の人は記録を残したり、手紙のやり取りをしてきたんだ?」
「……だな!」
納得できた顔で、黒田は本の文字を見つめた。
「この本以外は何にもないな、ここまで何にもないと計画的に引っ越したか何かだな」
「俺もそう思ったんだよ、突如いなくなったんじゃなくて、どこかほかに引っ越したんだと思うわ、でないとここまで物は無くならないぜ」
「お前にしては的を射た推理だな」
青木は感心しているのか、馬鹿にしているのか、どちらとも取れる、物言いでいった。
「馬鹿にしてもらちゃあぁ困るぜ」
そういいながら馬鹿みたいに黒田は人差し指で鼻をこすった。
「これ以上探しても何も見つからないと思うから、ひとまず、赤瀬と黄上に合流しよう。」
「そうだな、だけど落ち合う場所決めてねーんじゃないか?」
「バカ、電話すればいいことだろうが」
「あ、ああそうだったそうだった」
青木は家の外に出て黄上のスマートフォンに電話した。着信が五回ほどなったとき、「そっちの調子はどうだ」と黄上の声がスピーカーから聞こえて来た。
電波に障害があるのだろうか、少し音が遠いい気がするが問題なく聞き取れる。
「家の中とかにも入ってみたんだがな、何にも物が無いんだよ、ここまで何もないと計画的に村人がいなくなったんじゃないかって黒田と話してたんだ。あ! だけど本は見つけたぞ」
「ホント何にも無いよな、これじゃ突如いなくなったんじゃなくて夜逃げしたんじゃねーか!」
黄上は分かる、分かると言いたげに答えた。
「調べに来たっていう職員は何をしに来たんだろうな?」
「まったくだぜ、まあ都市伝説なんてほとんどが話を盛ってるってことだな」
「まったくだ、その話はあとにして今どこにいるんだよ?」
黄上は一瞬の沈黙したのち、「どこいるって言われてもな……村の真ん中としか言えねーなぁ、そこにテントを張ってんだけど」
「そうなのか、位置的には村の真ん中であってるんだな?」
すぐに答えないことをみると辺りを見回しているのだろうか。
「そ、そうだと思うぞ」
「そうか、今からそっちは行く。じゃあ、切るぞ」
電話を切った青木はスマートフォンをパーカのポケットにしまった、丁寧にチャックまでして、しまう。以前スマートフォンを落として壊してしまったことがあるようで、それ以来ポケットにしまう時はチャックをするようになったのだと青木はいっていた。
「黄上たちを捜しに行くぞ」
「で、どこいるって?」
「はっきりとした場所までは分からんが、村の真ん中ぐらいだと」
青木はそういい、村の真ん中に続くであろう道を歩き出した。
*
一方青木は洞窟に入り、怪我をした頃、赤瀬と黄上は昔話に花を咲かせていた。
「そうだったな! そんなこともあった」
黄上はその頃のことを思い出して、はち切れんばかりの笑顔で笑った。
「ああ、あの時は何であんなに再生回数が伸びたんだと思っていたら、お前が仕掛けてたのかよ」
「そりゃあ、その方が面白いだろうが」
「俺には話しといてくれよ、あの時は本当に何か出たと思って、しばらくの間トイレいけなかったんだぞ」
こんなに笑ったのはいつぶりだろう、あのことを考えるといつも根暗になってしまうから。
「ハハハハハ、悪い悪い、敵をだますには見方からっていうだろ」
「フフフ、お前にしては知略的だな」
「たまには俺も頭を使うぜ」
黄上は黄色と茶色が混ざったような髪を人差し指でトントンしながら誇らしげにいった。
「たまには、な」
「なんだよその、た・ま・に・は・なって言い方頭に来るな」
子供に戻ったように黄上はほっぺたを少し膨らました。
「悪い、悪い、お前もやる時はやるよな」
「あたぼーよ」
「ハハハハハ」
二人は一斉に笑った。黄上といると嫌なことなんて忘れてしまう、本当にあのとき、こいつに出会ってなかったら今の自分はいないだろう、と赤瀬は思う。
「黄上、本当にありがとな!」
「なんだよ、急に改まって、気色悪りーな」
「何でもないただ何となく」
「何となくって?・・・」
そのとき黄上の持っていたスマートフォンが鳴った。
最近流行りの曲を着信に使っているから、誰の電話がなってるかすぐに分かるようになっている。相手は青木だったらしい、「そ、そうだと思うぞ」黄上はいった、いまいる場所を聞かれているようで村の周辺を首が回る限界まで回して見渡している。
「青木たちは何だって?」
「今どこにいるんだって聞いてきて、村の真ん中辺りだって答えた」
「……ふぅーん……あのな黄上」
「何だよ?」
「あのな……青木たちが来るまでに話したいことがあるんだ……聞いてくれるか……?」
赤瀬は影を深くして、黄上にいったのだった。