008『茅葺屋根の家の中で……』
青木は体中を泥と砂で覆われた状態で穴からはい出てきた。泥と砂によってコーティングされた青木はエビフライのように見える。泥という、卵でコーティングされた、下地に砂という、パン粉が付いているのだ。
これほど滑稽な格好もないと、黒田は思った。笑いをかみ殺し、黒田は、
「どうしたんだよ?、貞子みたいに現れて、俺がいくらビビりだからってそんなんじゃビビんないぜ」
という。
穴からようやく、はい出ることができた青木は、「ライトが消えかかって、はぁー、はぁー、はぁー、マジビビった」と肩まで大きく上下させながら震える声でいった。
「悪い、電池がなかったんだと思うは、もうかれこれ二年は替えてなかったから」
「ふざけんじゃねーよ!、いくらお化けを信じない俺でも出るんじゃないかって死ぬ思いしたんだぞ!」
黒田に向かって青木は叫んだ、黒くなった顔に鬼気迫る血走った目、黒田はお化けはお前だろと思いながら上辺だけ謝った。
「悪かったって、で中はどうだった?」
「暗くて何も見えなかったよ、かなり広いのは分かったけど」
「どういう感じで、広がってるんだよ?」
「だから分かんねーて言ってんだろ!」
「そうムキになんなって」
黒田は青木をなだめながら慎重に聞いてくる。
「縄があったぐらいしか、分かんなかったよ」
「何でこんな穴の中に縄があるんだよ?」
「分かんねーよ、ここに住んでた奴らが置いてたんじゃねーの」
「洞窟に住んでた奴がいたのか?」、という疑問が残ったが黒田はこれ以上い言わなかった。これ以上追及すると青木にじゃあお前が入って見てこいよと言われかねない、それだけはごめんだ。
「ここの調査は後回しにしよう、ライトだけじゃどうしようもない」
「ああ、そうだな————次はどこを調査する?」
今は危険な場所は避けたかった、青木は家の中を調査しようと言い出す。家の中なら洞窟より安全だからだ。
「そうだな、だけどホコリがすごいじゃないか」
「いいんだよこの際、この手じゃろくに何もできやしないんだから」
青木は手を激しく振った、手を振れば痛みが和らぐのであろう、振った手から血液があたりに飛びちり土や岩に飛び散る。
黒田は岩に染み込んでいく血を無心に見入って、
「どうしたんだよ?、行くぞ」
と、ボーとして固まったままの、黒田に、青木は言った。
「あ、ああ行こう」
擦った時に空いたであろう、穴が青木の服に空いていた。その五百円玉大の穴を一瞥して、黒田は青木の
*
「ゲホゲホ」
蚊を追い払うように顔の前で手を振りながら黒田はせき込んでいる黒田と青木はこの村で一番大きな家だと思われる茅葺屋根の立派な家に入っていた。
他の家よりも一回り頭が出ていて、家の作りが今まで見た中では一番立派な家だ、この村の村長の家だったのだろうと青木は考える。
「タオルを巻いておけ」
そう言い青木が持っていたハンドタオルを黒田に投げた。しかしキャッチしそこねた黒田はタオルに付いたホコリを払うべく、服のしわを伸ばすようにして激しく払った。
「ゴホゴホ、やめろよ!、ホコリがたってるだろ!」
黒田がタオルを振ったことにより、余計にホコリが舞う始末となった。
「わるい、わるい――――ハハハハハ」
そう言いながら青木の顔を見た時、突然黒田は笑い出す。
「どうしたんだよ? 突然笑い出して」
「いやな、お前のその恰好○○の巨人に出てくるお掃除兵長の恰好そのまんまだぞ」
黒田は最近○○の巨人にはまっていて、何でもかんでも○○の巨人にそっくりなシチュエーションがあると○○の巨人に例えてくる。
どんな話かというと、壁の中の人類を謎の巨人たちが捕食するというストーリーで大ヒットした漫画、ちなみに最近の黒田の口癖は○○の巨人の主人公がいう『駆逐してやる』だ、いい加減聞き飽きた。
青木は頭に乗った頭巾を抑えながら黒田にいった。
「何でもかんでも○○の巨人で例えるのやめろよ」
「いいじゃん!、面白いんだから」
これ以上言うのがアホらしくなった青木は黙って家の中を調査を再開しする。これといって目を引くものは見当たらない、家の中は必要最低限の物しかなく中央に囲炉裏があり、部屋の横には大きな和箪笥があった。
「薄気味わりいよな、無人の家って」
「何が薄気味わりいんだよ?」
「言い表せないけど、何か気味わりいんだよ」
黒田を一瞥したのち青木は奥の部屋に入っていった。
和箪笥の引き出しを一段一段黒田は開けて、中身を確認する。しかしどの引き出しにも、何も入っていない、まるで自分が泥棒をしている様に黒田は感じた。
だけどここまで何も入っていないということは荷物を片付けた証拠だと黒田は思う、だとしたらこの村の人は突如消えたのではなく計画的にいなくなった、つまり引っ越したということではないか。
黒田はそんな事を思いながら、引き出しを開けたのだった。
「おい!、黒田ちょっと来いよ」
その時奥の部屋から青木の呼ぶ声が聞こえた。
「なんだ、何かあったのか?」
黒田が奥の部屋に入ってみると青木はホコリの被った、古そうな書物を持って立っている。その書物をなるべく触りたくないのか、人差し指と親指でつまんでいる、アニメ好きの黒田はまるで○○ノートのLみたいな持ち方をするなーと思った。
「何なんだよその本は?」
「ノートか日記だなこれは、だけど何書いているのかまったく分からん」
「この村の真実が書いてるんじゃないか。○○の巨人みたいに」
黒田は面白くなってきたと、ばかりに声音を上げながらいうのだった。何でもかんでも、漫画やアニメに例える奴だ。青木は呆れて言い返す、気力も残っていない。