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○○県の○○村で……  作者: 物部がたり
前編 ○○県の・・・ 一日目
7/20

007『洞窟の中で……』

「山が見えてきたぞ!」


さっきまでぐずっていた黒田が元気を取り戻しいう、現金な奴だ。


「ああ、行ってみよう」


 青木は速足で歩きだし、後ろから黒田が、「だから、置いていくなって!」と青木にすがりつき後を追った。黒田は足が遅い、亀にも勝てないのではないかと思うぐらいに、遅いのだ。 

 いや、言い過ぎた、さすがに亀には勝てるだろう。


「たく! さっさとしろよ」


 青木は山をバックに立ち止まる、「しょうがねーだろうが、走るのは苦手なんだから」青木に追いついた黒田は肩で息をしながらいった。


「もう少しだ、行くぞ」


「おう」


 山のふもとはショベルカーで削られたのではないと思うほど、断崖絶壁になっていた。


「高っけーな、○○の巨人に出てくる壁か!」


 黒田は人気漫画にたとえて青木に語りかけた。


「そうだな、まあよく見ると上に上がれる坂もあるがな」


 青木は絶壁の周辺を歩きながらいう。山の斜面にそって、階段のような坂があった。ミルフィーユのように積み重ねられた地層がむき出しになっていて、専門家が見れば、地層の年齢が分かるのだろうか。

 こういうところに化石が埋まっているのかもしれない、と青木は思った。村を囲うようにして絶壁が広がっている、崖の上には杉の木が綺麗に並んでいるのが見えた。

 

 絶壁の周辺を歩いて行くと、土砂崩れが起きている一角に行きついた。地震か雨で崩れたのか三、四件の家を巻き込んで崩れている。


「ひでーことになってるな」


 黒田がいった。


「雨か地震で崩れたんだろう」

 

 崩れた土から樹が生えていて、崩れてからかなりの年月が経っている事が分かる。崩れた絶壁の壁面を見てみると、人がようやく入れるほどの穴が開いているように見える。

 まるで人の目から隠しているように、不自然に穴だけを塞いでいた。


「おい! あそこ見てみろよ」


 青木があごで穴の方を見るようにしむけ、


「どこだ?」


 と、黒田はスマートフォンのカメラを山のようになった土に向けながらいった。

 あごで示すだけでは分からなかったらしい、「あそこの壁と土の間」と黒田にも分かるように人差し指で指示した。

 そう言われようやくわかった様子で、「ああ、本当だな」青木と黒田はその穴らしき場所に駆け寄って行く。


「奥に続いてるぞ!」


 青木は土壁のすき間から穴を覗き込みいった。

 少し遅れ黒田も慌てて駆け寄ってきた。


「深いのか?」


「暗くて見えないけど、深いと思うぞ」


 そう青木が言うと黒田はバックの中からライトを取り出し青木の手に渡した。


「サンキュー、———かなり深そうだぞ」

 

 ライトで照らした穴の中は真っすぐに奥まで続いている様子だ。光は奥まで届かず壁にでもさえぎられたように綺麗に途切れている。


「ダメだ、こっからじゃ奥まで見えない」


 青木は馬ばいになり胴体のあたりまで体を入れた。


「おい! 崩れたらどうする」


 黒田は青木の足首をつかみ引きずり出した。

 青木は砂利に体を擦ったらしく顔が歪んでいる、「痛ってーな! 急に引っ張るなよ」ひじをさすりながら青木はいった。


「悪りいー力入れすぎた・・・」


 仏にでも拝むかのように黒田はうつむき頭の上で両手を合わせて、上辺だけ謝る。

 二、三秒黒田を見てから、「この穴に入ってみようと思う!」


「だれが?」


「俺が」


 と、黒田に行けと言っても、こいつは絶対行かないだろう。だから、自分が行くしかないのだ、と青木は思う。


「危なくねーか、壁が崩れたりしたら……」


 そういわれると怖気づいてしまう、だが動画うけはいいだろう。数秒間の沈黙の後、


「俺が様子を見てくるから、お前はここで待っててくれ」


 青木は意を決していった。


「ああ、気お付けろよ―――」


 こいつはノリ突っ込み、というものを知らないのか。ここは、「いや、俺が行く」というのがルールだろう。仕方なく、青木は匍匐前進(ほふくぜんしん)で穴の中へと入っていった。

 人二人がやっと通ることができる広さしかなく、ライトで片手がふさがっているため壁に体を擦りつけながら進むしかなかった。


 後ろを振り返りたくとも体が硬いため容易ではない、外からの光が入ってこないため、ライトで照らされ見える前方は冥府に続く一本道のように青木は思った。

 二十メートルほど進んだあたりで穴が広くなったように感じいったんその場で様子をうかがう。今周辺はどうなっているのか暗い中を手探りで確かめる、すると壁であろうところには何もなく青木の手は空を切るのであった。


 上面にライトの光を当ててみるが天井が見えないほど広い空間であることが分かった。青木は頭を打たないように亀の様に慎重に頭をあげる、何メートルの高さがあるのか一向にぶつかる気がしなかった。

 立ち上がることができ青木はライトであたりを慎重に照らしていく、分かったことは一つだけだった。この洞窟は青木が思っていた以上に広いということ。

 ライトで足元照らし、前へ一歩一歩進む。


 青木は自分の歩数を数えていた、十三、十四、十五その時前方の足元に物凄く細長い何かがあった。バッタン! 腰を抜かした青木は逃げる事ができず、派手に尻もちをつく。

 少しでもその長い何かから離れようと、尻を引きずり後ろにさがる。ライトが転がり長い何かを照らした。よく見るとそれは縄だった。


 太く長い縄が蛇のように蜷局(とぐろ)巻いているように青木には見えたのだ。


「何だよ、縄か」


 安心したのか青くゆっくり立ち上がり、もう少し前に進んでみようとした時、ライトの明かりが弱くなり空間は一段階暗くなる。今落とした衝撃で傷んだのだろうか。


「嘘だろ、きれるんじゃないぞ!」


 青木は恐怖に顔が引きつった、空間には今自分が言った言葉が反響して得体の知れない声になってこだまする。その不気味な音が青木の恐怖をますます引きたてた。

 今ライトにきれられたら、方向を失ってしまう、そうなれば生き埋めも同然にここから出られない。青木は慌てて入ってきた穴に引き返そうとした、しかし恐怖からくる筋肉の緊張と湿気をふくんだ足場で滑り青木はフィギュアスケート選手がこけるときのように綺麗に地面に手をついた。


 しかし青木は一秒もかからぬうちに起き上がり、滑り込むように冥府の出口へと引き返していったのだった……。

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