006『思い出の中で……』
一方、赤瀬たちと別行動をしている、青木と黒田はそのころ村を一周していた。一周するのに一時間もかかっていないと思うが、村の真ん中には井戸があった、ほかはこれといってネタになることもない村だと青木は思った。
井戸は一つしかなかったからここの村人共同の井戸なのだろう。どこもかしこも、同じ家が並んで、自分たちが今どこを歩いているのかも分からない。
自分たちがどっちから来たのかさえ分からない始末だ、まるで迷路に迷い込んだような錯覚におちいった。
「なあぁ、青木ぃ何をしたらいんだよ?」けだるげに黒田はいう、この男はすぐに飽きる性格なのだ、ルックスがいいだけで、女にもてる。
そして遊ぶだけ遊んだら何らかの理由を付けて女を捨てる、そういう性格だが女は懲りずに寄ってくる、黒田は生まれてこの方、女には困ったことはないだろう。
「何するって、霊の出そうな場所を探すんだよ」
「探すつっても、何にもねーじゃん」そう言いながら黒田はその場に座り込んだ。駄々をこねだしたのだ。
「まだ、見てねーとこあるだろうが」
「そうだけどよ、こんなにも何にもねーと、飽きてくるよなー」グダグダ言いながら、黒田はガキのようにその場に大の字で寝転ぶ。
まるでスーパーのおもちゃコーナでおもちゃをねだっている子供のように。
「家の中もみてねーし、山の付近も見てないだろうが」
青木はそう言いながら、黒田の腕をつかみ、力ずくで起こした。眉根にしわを刻みながら黒田はいやいや立ち上がり、小言で何か言ってるが声が小さすぎて聞こえない、きっと罵り言葉を吐いているのだろう。
つくづくむかつく奴だと思いながら青木は、「家の中を調査してみるぞ」と、いった。
手始めに目の前に見える家の中に入ってみることにした。青木は動画の撮影を再開した、霊が出なくてもいいが、視聴数が伸びないのは困る、以前のようにやらせをするかと青木は考えた。
過去に高再生回数を稼いだ動画もやらせを使ったからだ。人の影が映ったり、突然気分が悪いふりをしたり、奇妙な音を入れたり、もちろん赤瀬と黄上は知らない、あいつらが知ったら激怒するだろうから知らせるつもりはない。
あいつらが思うほど動画を撮ることは甘いことではない、視聴数を伸ばすためならやらせをしている奴らもかなりいる、所詮今どきの視聴者は面白くて、くだらない中身がスカスカの作品を喜んで観るものだ。
だから視聴数を稼ぐためには何か面白い話題を作らなければ、と青木は考えた。
「何かあったか?」
「いんや、何もねーな」黒田は家の中の物をブランドのロゴマークが目立つスニーカーで蹴飛ばしている、青木はその光景をカメラに収めようと家の中にレンズを向けたが、外よりも中の方が暗いため、レンズ越しには見えない。
しばらくした時、突然視界が明けた、ホコリが天井まで舞っているのをレンズはとらえた。家の中に砂嵐が起きたのではないかと思えるぐらいに、ホコリが舞っている。
「スゲーホコリだな、俺は外いるは」と青木はいって、逃げるように外に出た。
こんな所にいたら、体調を崩すことは目に見えている。
「おい! 汚ねーぞ」黒田も青木を追うようにして外に出た。
服についたホコリを手で払いながら黒田は、「てめーだけズルいぞ」と、言いながら蛇のような目で睨んだ。
「悪かった、家の中はあいつらに任せて、俺たちは山の方を調査しよう」青木は悪いなんて思ってないが、黒田があまりにも怒っているので適当に誤魔化すのだった。
*
青木と黒田は山に向かうため、家々が連なる道を歩いていた、青木は霊など信じていないが、こういう心霊スポットを巡っていると、確かに独特の空気があるとは思う。
家々のすき間から何かが覗いているのではないかと思わせる、不気味な想像を働かせながらこのような道を歩いていれば、枯れ尾花さえ霊に見えるだろう。
「ゆっくり歩いてくれよ」そういいながら、青木の横から離れようとしない黒田。
黒田は昔からこうだった――青木が黒田と初めて出会ったのは中学の時だった。その頃から黒田はクラスの女子にいつも囲まれていた。そういう、タイプの男は気に食わなかったが不思議に黒田とは気が合ったのだ。
性格が似ているわけでも、趣味が同じ訳でもないが昔からよくつるんだ。青木は頭はそこそこ良かったから、よく黒田に勉強を教えてやった。その見返りと言っては何だがそのたびに女を紹介してもらった。
黒田のおかげで高校に上がるまでには女を知ることができた。クラスの中ではイケてる方だったのだろう、青木や黒田が命令すれば大抵の生徒は何でもやったし。パシリに使ってた男もいた。
はたから見ればイジメと言われるかもしれないがそこまで酷いことはしていない。中学の頃は黒田と青木で悪さもかなりしたものだ。あの頃は何でも黒田と自分の思い道理になると、天狗になっていたと思う。
しかしそんな時代も長くは続かないものだ、高校は別々の道になった。まあ、休みの日にはちょくちょく会っていたが、学校では青木の存在感は薄くなったのだ……。