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○○県の○○村で……  作者: 物部がたり
前編 ○○県の・・・ 一日目
3/20

003『廃ビルの中で……』

 廃ビルの中を今でも覚えている。じめっとした重い空気、本当に出るのではないかと思っていたことまでも鮮明に覚えている。


 窓ガラスは割れ、どこから入って来たのか、苔まで生えていた。ここだけは時間の流れから、置いて行かれた様に時が止まっていた。


「うへぇ、ホントにでそうだな?」スマートフォンを構えながら黄上はいう。


 この時代のスマートフォンはカメラの性能がまだ、高くなく動いたりしようものならピントが、すぐ合わなくなる。


「ああ、ほんとだな」くぐもった、声で答える。


 赤瀬と黄上は有名なアニメキャラのお面をかぶっている。日本人なら大抵の人は知っている国民的なアニメの、青い猫のお面だ。黄上はその猫の妹のお面を付けている。


 始めはお面をかぶらづに、撮ろうと黄上は言っていたが、赤瀬が許可しなかった。


 動画なんだから、何かしゃべらないとまずいと思ったのか、黄上は急に話し始めた。このビルに出るという霊の話から、このビルがなぜ潰れたのかまで、撮影するにあたって調べてきたのだろう。 


 長年この町に住んでいる赤瀬ですら、知らないことも多々あった。どうやら、好きなことは徹底的に調べ上げるタイプらしい。


 黄上の話に相づちを打つぐらいしか、赤瀬はできなかった。怖いと思える場面にも出会えず、ただ廃ビルを散策しているだけの動画になってしまっている。


「オオォ、見てみろよ!」興奮しながら、黄上は壁のシミを指さした。


 赤瀬は黄上の指さす、シミを見た。赤瀬からしたら、何の変哲のないシミにしか見えない、しいていうなら水が滝から落ちている様にも見えなくはなかった。


「オオォ」何の活躍もしていないのを引け目に思い、赤瀬はおうげさに、驚いたふりをする。


「皆さん見てください、これがこの町に古くから伝わる、動く女のシルエットです!」そんなに古くから伝わってないと思うが、劇的な演出をしたいのだろう、世界のミステリーを発見する番組の真似をするかのように黄上はいった。


「夜になると、この女のシルエットが一人でに動くんですよ!」


「このシミには悲しい話があるんです、昔ここで働いていた女子社員がある男と恋に落ちたんです、しかしその恋は報われなかった、そしてこの壁にもたれかかって泣いていた時にこのシミができたって言われています」


 小さい声で最後に付け加えるように言った「諸説あり」。赤瀬はただ横に突っ立ってるだけで何もしゃべらない。赤瀬は馬鹿馬鹿しくなり始めていた(やっぱり、断っておくんだった)と心の中で思った。


 黄上はその場を動こうとしない「どうしたんだよ? 次行こう」動かない黄上にしびれを切らし赤瀬はいった。


「このシルエットが、動くまで撮影しよう」三脚をセットしながらいった。


「動くまでって、動かなかったら?」


「動かなかったらその時だ」


「もうすぐ、暗くなる…」怖じ気づいた様に低い声で赤瀬はいった。


 赤瀬が怖がっているのを察したのか、黄上は「あと、十分だけまってくれ」といった。


 それぐらいならと思い、赤瀬はうなづいた。それから十分間、待ったが何も起こらない、場の空気は変わったような気もするが、この場に慣れてきたからだろう。


 もう外は日が暮れる手前の様で、不思議な色に染まっている。こういう空を黄昏時(たそがれどき)ということを赤瀬は知っていた。


 人の顔も識別できないくらい、日が沈み、誰ぞ彼が訛って、たそがれ、黄昏時になったという。本当に黄上の顔も見えなかった。


 これが黄昏時かと、赤瀬はやっと意味を理解することができた。


「帰ろうか」顔は見えないが、笑っているのが分かった。


 それから、数日後に黄上が興奮しながら「赤瀬!、動画の視聴数を見てみろよ!」と急かしてきた。動画を見ろといっても、一瞬なんのことか分からなかった。


「動画って?」考えた末で、分からなかったので黄上に聞き返した。


「何、言ってんだよ、俺たちが撮った動画だよ!」


 そう言われてようやく思い出した。あの日以来、動画のことなどすっかり忘れていた。赤瀬は自分のスマートフォンを操作し、例の動画を見た。


 別の動画と間違えたのかと赤瀬はもう一度ひとつ前のページに戻って、タイトルを確かめた。ただ【幽霊のでる廃ビルに入ってみた】なんていうタイトルなどありふれているから、違う動画かと思ったのだ。


 どうやら、間違ってはいなかったらしい、「何でこんなに、伸びてるんだ?!」、伸びたというのは動画の視聴数のことである、伸びないだろうと決めつけていた赤瀬は予想以上に驚いた様子でいった。


「本当に霊が映ったらしんだよ!」そういいながら、黄上は霊が映ったというところまで動画を早送りした。


 そこには、確かに何かが映っていた、しかしこの時代のスマートフォンのカメラは性能がそれほど良くないのだ。だから、この霊らしき影もただゴミが映っただけか、カメラのピントがずれただけかもしれない。


「まだ、他にもあるんだよ!」そういいながら黄上はあの、壁の女のシミの所に動画をもっていった。


 確かに、言われてみれば女のシルエットが動いたような気もしないではないが、シミというのは光のあたり方、その場の湿度でも変わってくるのではないか。そう思ったが言わなかった。


「最後のは凄いぞ!」まだあったのかと思ったが言わない。


 そういい、黄上は最後のシーンを見せた…。

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