002『村の中で……』
最初に声を発したのは、黄上だった。
「ホントにあったぞ、おいみんな、本当にあったんだ!」
今までの疲れが嘘だったかのように、黄上は飛び跳ねている。
「視聴者の皆さん!、本当に○○村は実在しました!」
興奮を抑えられない、黄上はレンズの向こうの誰かに今の思いをぶつけているかのように言い放った。
赤瀬も気が高まっているらしく、高い声で「向かってみよう!」と、いった。速足でなだらかな、坂を駆け降りる。赤瀬を先頭にして、黄上、青木、黒田が後に続いた。
長い年月無人だった割りには、その村は荒れ果ててはいなかった。何かに使うつもりで貯めておいたのか、薪などはきれいに積み上げられている。
大きさ、などは揃えられている様で、山の様にも見える。この村の人、皆で使う薪なのだろう。村を見渡してみると、茅葺屋根の家が連なっている。
そこそこの人が住む集落だったのだろうということが分かる。村の面積は赤瀬の見立てでは、甲子園よりも少し大きいぐらいらしい。
草はそこら中に生えてはいるが、雑草畑にはなっていない。長い間人が住んでいなかった割りには綺麗な状態を保っている。不思議な村だった。
「俺と黄上で家を回ってみるから、青木と黒田は村の周辺を見てくれ」そう言い残し、赤瀬は目の前に見える、家に入っていった。
「待ってくれよ!、一人行動は危ないぞ…」黄上はそう言いながら赤瀬に付いて行く。
「俺たちも見て回ろう、黒田撮影を頼む」
「ああ、分かった」黒田は青木の後ろに付いていく。
「スゲー、ホコリだな」赤瀬は靴のまま家に上がり込んだ。
「そりゃそうだろう、何十年も人が住んでないんだから」
外から入ってくる光で、家の中は薄暗く照らされていた。家の真ん中に置いている火鉢の中はホコリであふれかえっていた。
黄上はスマートフォンで家の中を撮影している。
「ここだけ、ホコリがないぞ!」ホコリがない一角を指しながら赤瀬はいう。
「ホントだ、動物でもいたのか?」黄上はその場所を撮影しながらいう。
「バカいえ、何でここまで来た足跡がないんだよ」自分たちの通ってきた足跡を指しながら赤瀬はいった。
「それもそうだな!」黄上は思い至らなかったという様な顔でいった。
「奥の部屋に行ってみよう」
赤瀬は自分のスマートフォンのライトを使い前方を照らす。奥の部屋に入ってみたが、これと言って目を引くような物はない。
今までこの家の住人が使っていたと思われる、せんべい布団がひかれっぱなしで、ホコリをかぶっている。なぜ、赤瀬がせんべい布団という、名前を知っているのか昔、祖母の家に遊びに言った時「これはな、せんべい布団と言うんだよ」と祖母に教えてもらったのだ。
「何で、布団がひかれっぱなしなんだろうな?」
「何だか気味悪いな…」黄上は赤瀬の服を引っ張りながら外に出ようと訴える。
今まで入っていた、家の中を見てみるとホコリが部屋全体を待っているのが目に入った。
「マスクでも持ってくるんだったな…」赤瀬は体に着いたホコリを払いながら黄上にいう。
「ああ、そうするんだったな」頭に付いた蜘蛛の巣を取りながら黄上はいった。
それからでも、続けて三軒の家に赤瀬と黄上は入った。どの家も砂の様なホコリが積もっている、他には最初の家と同じ様なものだった。
しかし、どの家もせんべい布団が敷かれていることから、この村の住人が本当に消えたのなら、夜遅くということになるのだろう。
赤瀬は探偵ではないが、そのぐらいの予想はたてられる。
「なあぁ、赤瀬、動画を更新するか?」何をするにも、黄上は赤瀬に尋ねてくるのだ。
「ああ、そろそろ更新しよう」
黄上は持ってきたパソコンを開いた、表には少しかじられたりんごのデザインが載っている。キーボードを打つ音を赤瀬は無心に聞いていた。
―――――黄上と知り合ったのは、高校時代のことだ。小さい頃から人前に出て注目を集める事が苦手だった、赤瀬は高校でも目立たない人間だった。
友達がいなかったわけではない、ただ関わるのが苦手だったのだ。誰からも好かれず、疎まれずの人生を送れたらいいと思っていた。
そう思いながら、二年になった頃、黄上がとなりの席にやって来たのだ。当然こちらからは、話かけるはずはない。
しかし向こうは違った。 黄上が一方的に毎回、話かけてくるのである。それが授業中だったとしても、横から「ここ、教えてくれよ」と声を潜ませ聞いてくる。
始めは疎ましく思っていた赤瀬だが毎回、聞かされていれば情もわくもので、少しずつ黄上と話す機会が多くなった。
仲良くなりつつある日のこと、黄上は動画の撮影を持ち掛けてきた。それは、大手動画サイトに一緒に動画投稿しないかというもので、最初はそんな目立つことなどしたくはなかった赤瀬だが、黄上の押しに負け一回だけ一緒に撮ってやることにした。
一回撮って、再生回数が伸びなければ、次から誘われないと思ったからだ。そして、赤瀬たちが住む町で霊がでると有名な、とある廃ビルに忍び込んだのである。
文庫本一冊書くことがこんなにも、大変だとは…。
二千文字を書くだけでも、何時間もかかってしまいました。
本当に作家の皆様は凄い!!。