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○○県の○○村で……  作者: 物部がたり
後編 ○○村の・・・二日目
16/20

016『暗黒の中で……』

 意識が覚醒した。後味の悪い夢を見ていたと思うがまったく思い出せない。最近よく、同じような夢を見ているが内容を憶えていない。

 憶えてないだけで、寝れば必ず夢を見るというがここ何年か、見た夢を思い出せないのだ。思い出せないだけで夢を見たという感覚は残っている。


「起きたか」


 どれだけ寝ていたのか、周辺は真っ暗になっている。確か、ラーメンを食べてから急に眠くなって……。となりから聞こえる声。聞き覚えのある声。しかし頭が回らない。何が起きているのか分からない。


 辺りは真っ暗で何も見えない。手足を動かそうとしたがびくともしない。意識が戻るにつれ、両手足を縛られていることが分かった。


「黒田なのか?」


「ああ……」


「何なんだいったい! 何でこんなことになってるんだよ!」


「知れねーよ、俺もさっき起きたんだから」


 言葉が反響しているのを聞くと、ここは建物の中だろう。

 そしてもたれている壁面を手で撫でてみるとひんやりとした岩だと分かった。湿った岩の表面を撫でると、壁面についた汚れが手のひらにサラサラとついた。

 目が闇に慣れ、黒田の顔が識別できるほどには何とか見える。


 青木と同じように黒田も後ろ手に縛られている。暗くて色彩が見えないにも関わらず、黒田の手首が紫色(ししょく)色になっているのが想像できた。

 周辺の状況が把握(はあく)できてくると、少し落ち着いて青木はいった。


「ああ、そうだよな悪かった……動転してたんだ」


「・・・・・・」


 黒田との会話が続かない、静寂が続くと精神がおかしくなってくる。

 何でもいいので会話を続けようと青木は考えった。


「何でこんなことになったと思う?」


「分かんねーよ……」


「こんなことできるのは、あいつらしかいないだろうが」


「あいつらって誰だよ?」


「赤瀬と黄上だよ」


 青木は声をその部分だけひそめていった。


「赤……」

青木は黒田の言葉をさえぎった。手が使えないのでつま先で軽くつつくことしかできない。それでも青木が伝えたいことは、黒田に伝わった。

 良く見えないのに、大きく首を上下させているのが分かった。


「赤瀬と黄上がか?」


 さっきよりは低音だが興奮しているせいかまだ大きかった。


「あいつら、お前を拉致ってここに幽閉したんだよ。俺が急に眠くなったのも多分睡眠薬を盛られてたからだ」


「何で俺を拉致るんだよ?」


「動画を面白くしようとしたんじゃねーか」


「そうだったとしても、これはやり過ぎだろ。俺たちに相談なしに……」


「俺たちも、同じようにヤラセをしてたけどな。だけど今回は警察まで巻き込んだ一大事になってんだよ」


 赤瀬と黄上が見ているはづだと思い青木は大声で叫んだ。


「もうやめようぜ! 今やめれば怒らないから。俺が警察に説明するから!」


 青木の声が反響して響く。

 いま思い出したが昨日は入った洞窟ではないかここは。この岩肌の湿り気から反響音そして今青木と黒田の手足を縛っている縄。パズルのピースがはまっていくように青木の頭が透き通る感覚が広がった。


「・・・・・・」


 しかし帰ってくるのは原型をとどめない、青木の言葉だけだった。


「腹減ったよ」


 黒田が場違いな素っとん狂な声音でいった。


「……何も食べてないんだったな」


「ああ、喉も乾いたし」


 もう一度、青木は、「本当にやめよう! このままじゃあ脱水になっちまうよ!」とさっきよりも強くいった。三回反響してまたも意味のつかめない言葉になって帰ってくるのみであった。


「小便したいんだけどどうすればいい……?」


 黒田はもぞもぞしながらいった。


「どうすればいいって、俺に聞くなよ」


「この縄をほどいてくれよ」


 黒田は手首に巻かれている縄を青木に差し向けた。


「始めからそうしてればよかったんだ! 全く考えなかったぜ」


 青木は黒田の手首を縛っている縄を後ろ手にほどきだした。どうなっているのか、全く見えない。

 何重にも固く縛っているらしくまったくほどける気がしない。


「早くしてくれよ、もう我慢できない―――」


「動くな」


 黒田は下半身をもぞもぞさせながら青木は急かした。どう縛っているのか分からないのではほどきようがない。映画とかだと刃物か鋭利な何かを持っていて、それで縄を切るという展開になるのだろうがそんなご都合主義にはいかない。

 どういう縛り方をしているのか知らないが、ほどこうとすればするほど締め付ける力が増している気もする。


「いて―――ほどけそうか?」


「だめだ、余計強く締め付けられるだけだ」


「どうすんだよ?」


「このままだったら、ズボンの中にするしかないだろう」


「何とかしてくれよ……」


 涙をこらえた子供のように声を震わせ黒田はいった。


「おい! 黒田が漏らしちまうぞ!」


 返事が返ってこないのを前提で青木はいったのだが、


「すまないが、縄をほどくわけにはいかないんだ」

 

 と返事が返ってきた。一瞬、誰の声か分からなかったが。確かに赤瀬の声だと分かる。

 しかしいつもの赤瀬の声とは思えない圧迫感のある声が洞窟内にこだました……。

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