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○○県の○○村で……  作者: 物部がたり
後編 ○○村の・・・二日目
13/20

013『薄れゆく意識の中で……』

 警察に連絡を取ってから、十五分が過ぎた。ここにかけ着くまで五、六時間はかかるといわれた。

 ここまで何に乗って来るというんだろうか。ここに来る道すがらに寄った町からでも三時間はかかった覚えがある。

 つまりそこの町の警察が来るのだろうか。そうだとしても五、六時間はかかりすぎじゃないかと青木は思った。


 このまま警察が来るまで、何もしなくていいのだろうか……。

 今思えば何でこんなに黒田ことを心配しているのだろう。昔から他人のことなんて心配したことないのに。

 青木は黒田との思い出を頭の奥から引っ張り出した。しかし思い出すのは犯してしまった罪の、忘れたい記憶ばかり。


 忘れようとすればするほどその記憶が存在を主張する。記憶というものはよくできていると青木は思う、忘れたい記憶ほど深く強く記憶に刻みこまれて忘れられなくなる。

 あれは中学生の時だった。何であんなことをしだしたのか憶えていない、本当に些細なことが原因だったんだろう。


 中学時代の青木と黒田はそれなりにカーストの上位に入っていた。何をしても許されるなんて思っていたわけではないが、そう、そんなことは思っていなかった。

 しかし、おごっていたのは事実だ。自分の地位に自信をもって、自分よりもしたのカーストの生徒をこき使っただろう。


 中でも一人の生徒を必要以上に虐げたかもしれない。いうことを聞かなければ暴力も振るってしまった。他の生徒は見て見ぬふりをかましていた、先生でさえ青木と黒田がその生徒に酷いことをしているのは知っていただろう。

 しかし、教師たちは深く関わろうとしない。黒田と青木からしたら、そのことでさらにおごる。


 あの頃は、そんなシカトを決め込むのは、この学校だけだろうと思っていたが。大きくなるにつれて分かってきた。どこの学校も同じなんだと。

 教師側からすれば、生徒のいざこざにはできるだけ関わりたくないものだ。やられている、生徒は教師に相談にいくだろう、しかし関わったとしても給料が上がる訳でもない、いや下手すれば、関わってしまったがためにとばっちりを受けることになる。


 だから、教師たちはそんなことに関わらない。そうすれば生徒が自殺しようと学校が謝るだけでいいのだから。以後気を付けますで済まされる。教師個人には責任はない。

 その証拠にニュースなどで報じている、いじめを受けていた生徒が自殺しても、学校側は知らなかったで通しているではないか。


 先生とは学校だけでの付き合いなのだから、耳触りの良い綺麗なことを教えて卒業させれば関係はおしまいになる。ドラマなどでよくある人情派の教師など今の時代はいないだろう。


 今思えばなんて馬鹿なことをしたんだろうと思う。青木たちが虐げてきた奴はいま何をしてるだろうかと、考えてしまった。もし、また会う事があれば謝りたいと思っている。まぁ、済んだ話を思い返しても仕方ないのだが。


 誰かの腹の虫が鳴った。青木ではないから、赤瀬か黄上だろう。


「腹減ったのか? 何か食べるか」


 自分も空腹なのに気づき、二人にいった。

 すると黄上は有名アーティストの顔が印刷されたシャツを擦りながらいった。


「ああ、朝から何も食ってないだろ。腹減っちゃってよ」


「確かにそうだな、赤瀬他に何持ってきたんだよ?」


「え、ああ、確か―――カップラーメンと昨日買ったフランクフルトがあるな」


 テントに置いていたリュックを覗いて赤瀬はいった。


「そうか、だったら湯沸かさないとな」


 青木はカセットボンベをテントの奥から引っ張り出し、持ってきていたミネラルウォーターの封を切り火にかけた。二リットルのボトルを五本は持ってきていたと思ったが、もうこれ一本しかない。

 成人男性四人もいれば、それぐらいは一日で飲むかと青木は思い気にしなかった。


「湯沸いたか、ここに入れてくれ」


 赤瀬はラーメンの蓋を三人分開けていた。

 この鍋は注ぎ口が付いていないから、ゆっくり入れようものならこぼれてしまう。そのことを知っていた青木は湯を入れすぎないように注意しながら、一気に湯を注いだ。

 すると蒸気が青木の顔に襲い掛かった。蒸気からはラーメンのスパイシーな香りが立ち込め鼻腔を刺激する。


 食欲をそそる匂いを嗅いだ青木は、急激にお腹が空いてきた。赤瀬が湯を注いだラーメンに昨日買ったという、サラダの余った野菜を入れて、二をする。

 このラーメンは五分待たないと食べられなく、空腹な三人にとっては倍の時間に感じられた。


「うまい!、こんなにうまいラーメン食べられるんだったら、一日一食にしてもいい」


 黄上は汁まで飲み干していった。そして、手に持っているフランクフルトにケチャップをかけて、かぶりつく。


「ああ、本当にうまかったな、青木どうだった?」


「あ、ああ、うまかったよ」


 三人は待った時間りも早く食べつくした。作るのは時間がかかるが、食うのは一瞬だ。

 黒田も腹が減ってるのではないかと思うと、自分たちだけがこんなうまいものを食べていいのかと後ろめたい気持ちになった。


「今頃どこかで、腹を空かせてるんだろうな……」


 青木はラーメンのカップをビニール袋にしまいながらいった。


「ああ、そうだろうな」


「早く見つけてやらないといけないな」


「・・・・・・」


「どうしたんだよ……?」


 唐突しゃべらなくなった、赤瀬の顔をうかがおうと青木は顔を上げた。しかし急に瞼が重くなり、体中の力が抜けて、思考力が停止した。

 眼球が上にあがり、意識が遠のいていく。今まで座っていた、地面がベットのように青木を受け止めた。地面は地面だ、せめて枕が欲しい。と青木は薄れゆく意識の中で思った。


 あおむけで見える空は。雲が太陽を隠し、雲のすき間から暖かい光が漏れていた。

 このような光から昔の人は神を見たのだろう。無神論者が見てもあまりにも神々しいこの光を―――。


 そのようなことを考えながら。青木は深い眠りに落ちた。薄れゆく意識の中で、赤瀬の声が聞こえた気がした……。

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