001『山の中で……』
その車は蛇のようにじゃこうする、細い山道を走っていた。年季の入った車体は周辺の樹々を風呂場の鏡のように映し出している。
「黄上そろそろ動画撮ろうぜ」
赤瀬が言い出した。
「ああ、そうしよう!」
黄上は持っていたスマートフォンで車の中を撮影する。黄上はスマートフォンのカメラを赤瀬に向けた。レンズを向けられた事に気付いた赤瀬は、
「はいどもーカラーズでーす、今回はホントに出るって噂の○○県の○○村に二日滞在して事の真相を明らかにしたいと思います」
と、赤瀬は軽いノリでいう。
「今日もいつものメンバーでーす」
黄上はスマートフォンのカメラを後部座席の青木と黒田にむけた。
「黒田でーす、今日はガチでデルって噂の絶えない○○村に行きまーす。今回は無事に帰れるかどうか分からないです?」
黒田はカラーズの中では一番の黒髪イケメンとファンから言われている。顔は良いが性格は悪い、古典的な人間だ。
他のメンバーたちも。 赤瀬は赤。 青木は青。 黄上は黄色。と名前にちなんで髪の色をそろえている。まるで横断歩道の信号機みたいだ。
四人は大手動画サイトに動画を投稿する動画職人で、インパクトがある外見の方が受けるから、気にしていないのだが。
「着く前に、その村で起きた事件をざっと! 話しておきますね!」
黄上はレンズを自分の顔に向け語りだす。
「その村に住んでた人がある日、突然居なくなったんです! 以上です」
と、黄上は端的にまとめていった。
「短けーよ、もっと具体的に話せ」
運転している赤瀬がいった。
「俺は説明が苦手なんだ、代わりに赤瀬がしてくれよ!」
赤瀬にレンズを向ける。
「運転してるから、俺は無理だ代わりに青木頼む」
黄上は青木にレンズを向けた。レンズを向けられ仕方なく青木は語りだす。渋々しゃべっている、感が全身から出ていた。
「昭和○○年にそこの村に住んでいた人が何の前触れもなく消えたというもので」
昭和○○年突如通信が取れなくなった村に国は職員を派遣した。職員が村についてみると。村には人が一人もいなくなっていた。
不思議なことに今まで食べていたと思われる食器がテーブルの上にはそのまま置いてあったのだ。
不思議に思った職員は他の家も見て回った。しかしどの家も今まで人がいた気配は残っているものの人の姿は見当たらない。
そしてその村に調査に行った職員も帰って来なかった。という都市伝説がネット上に広がっていた。どこかで、聞いた事あるようなありふれた作り話だ。
「という、都市伝説ですね」
視聴者に説明するような話し方で青木は語る。
「その職員は帰ってこなかったんだろ、じゃあなんでその村のことが知られたんだよ?」
黒田はいう。
「知らねえよ、都市伝説なんだからあとから色々と話を盛ったんだろ」
青木は腕を組み首をかしげる。
そのことを動画に撮るため、カラーズの四人で二日がかりの調査をするという企画を赤瀬が提案した。
今までも色々な心霊スポットにこの四人で行っている。大手動画投稿サイトではそれなりに名前の知られたグループなのである。
「大分、山奥まできたな」
黄上は窓の外を見ながら、「こんな山奥に村なんてあんの?」信じられない、という風にいった。
「あったとして、どうやって生活すんの?」、またも黄上はいった。
「そりゃあ、自給自足だろ!」と、赤瀬が答える。
赤瀬は都心から四時間も車を運転しているせいかイライラ気味にいった。
「だけど突然人がいなくなって、入ったら食べ物がそのままなんて設定、船のやつにもなかったか?」
黒田はいう。
「そんな話あったな!」
「だけど、その話は本当の話じゃなかったか?」赤瀬は、前にテレビで見たことを思いだしながらいった。
「メアリ・セレステ号事件だろ」青木は何気なくいった。
青木は意外と博識なのだ、くだらないことをよく説明されるせいで使えない知識が増えた。
「船長室にあった朝食は食べかけのまま、船員も同じように朝食だけを残して消えたんだよ。船長室には我妻マリーよ、と走り書きがされていたんだと」
「そうなのか? じゃあ犯人は妻だな」黄上は青木に言った。
「そこまでは分からん」青木はそこまでは知らないらしく、煮え切らない素振りでいった。
「何で消えたんだろうな?」
「知るわけねえだろぉ」
世界のミステリーなんて俺が解るわけないだろと思ったがめんどくさくなり、そうなので青木は言わなかった。
ここで四人のカラーズ結成までの話を軽くしておく。大学を卒業しても就職先が決まらなかった赤瀬は大手動画サイトに自作の動画を投稿して日々を過ごしていた。投稿しだして半年間は視聴数が伸びなかった。
そんな時、高校時代仲の良かった黄上に町で偶然再会したのだ。いまの境遇を黄上に話した。 そのことがきっかけで一緒に心霊スポット巡りの動画を撮ることになった。
視聴数が伸びてくるに当たって、中学時代の同期青木と黒田にも声をかけた。そしてカラーズが結成されたのだ。
「もうすぐ、着くんじゃないか」青木はスマートフォンを見ながらいう。
「ああ、このあたりなんだがな?」赤瀬は車を止めていった。
「もしかして、あの道がそうじゃないか……」黄上はコンクリートとで覆われていない細い道を指さしながら言った。明らかに長年人が通ってないとみて、草で覆われて獣道になっている。
「そうだろうな」
「マジかよ、車通れないじゃないか!」
「どうする、歩いていくか?」
「ファンに決めてもらおう」赤瀬は意外と乗り気にいった。
さっき黄上が投稿した動画に早くもコメントが付いている。視聴者が参加できる系の動画が人気なのだ。困った時は視聴者に決めてもらう事にしていた。
渡る世間は文鎮さん「今回はマジでやばそうだな」
ぶんぶく茶太郎 「青木の後ろに髪の長い女が…」
キング 「早く先が見たーい」
??? 「その村はホントに出ますよ」
河童の甲羅 「勇気あるねー」
カラーズだいすき 「次の更新楽しみにしてます」
都市伝説男 「二日滞在するんですか…」
ジャック 「頭おかしいだろう(笑)」
動画をあげて一時間も経っていないが五十件以上のコメントが書き込まれていた。
「ファンもこう言ってることだし、行くしかないだろ」赤瀬はバックに水と食料を詰めて、車から降りた。
「お前たちも、早く準備しろ」赤瀬は窓をたたきながらいう。
「しょうがねえなー」と、言いながらも荷物をバックに詰める青木。
「マジ行くのかよ!」黒田は顔を引きつらす。
「じゃあ、黒田は車で留守番なぁ、黄上行くぞ」
「分かったよ行けばいんだろ、行けば!」渋々黒田も後を追う。
「動画の続きを撮ってくれ」赤瀬は黄上のスマートフォンを指さしていった。
「あいよ」
「○○村に通じる道を見つけました!」テーションを上げて黄上は語りだす。
「長い間、誰も通ってないみたいで獣道の様になってます」
赤瀬を先頭になだらかな、坂道を下っていく。朝の十時頃だというのに、辺りは薄暗い。赤瀬はスマートフォンのライトを点けた。
鬼の道というものはこの様な道のことをいうのだろう。樹が生い茂るでもなく一定の間隔で生えている。樹の陰に鬼が隠れていても不思議ではない空気が漂っていた。
「本当に何か出そうだな……」黒田は忙しく辺りを見回している。
「動画的には何か起きてくれたほうが盛り上がるがな!」赤瀬がいう。
「そうだが、ホントになんか出たらどうする?」黒田は表情を固くしいう。
「そん時は…そん時に考えるさ」赤瀬も先のことは分からない。
五分ほど下った時、樹の陰で何かが動いた。
「なんか、動いたぞ」青木は二十メートルほど離れた樹の裏を指す。
「嘘だろ!」黒田は青木の後ろに隠れる。
「本当だ! ……ほら動いた」
青木が指す先には角が生えた。鹿が群れで走っていた。
「鹿じゃねえか!」黒田は力が抜けたのか青木にもたれかかる。
「ハハハハハ」三人は笑う。
「笑い事じゃねぇよ!」
「熊とかだったらどうするんだ!」黒田は顔を赤くしながらいった。
それから二十分ほど坂を下った。 みんな疲れ切ったたのか一言も話さない。デマ情報かと誰もが思った時。樹々が開け、小さな村があらわれた……。