その7
「地図で説明しましょう」
玲奈はそう言うと、テーブルに地図を映させた。
この地図はいつも映している周辺地図ではなく、いつもより明らかに広範囲を示している地図で、二つの大きな島の一部とその周辺にそれより小さな島々、そして北西部分にはより大きな島もしくは大陸の一部と思われる沿岸が表示されていた。ルコには見慣れた地図だった。
「幌豊はここで、最速計算機があるのがここ次葉です」
玲奈は地図を指差しながらそう説明した出した。そして、
「次葉を含むこの中島の中央付近にあるこの平野地帯に猪人間が約100万匹が住んでいると推定されています」
と平野を指で囲むようにしながらそう説明した。
「100万!」
遙華と恵那はびっくりした声を上げていた。
「玲奈さん、そんな猪人間達が一杯いるところへ行って帰って来れると思いますか?」
ルコは異様に冷静な口調でそう聞いた。
「少数精鋭ならば、可能だと考えています」
玲奈はルコに微笑みながらそう答えた。そして、
「次葉に近く空港を使うとこの平野の猪人間達を刺激する可能性がありますので、都市千代の近くにある空港を使います」
と説明を始めた。しかし、それを遮るように今までずうっと黙っていた瑠璃が、
「今、千代と言いましたか?」
とちょっと取り乱した感じで聞いてきた。瑠璃には珍しすぎる態度だった。
「はい、確かに千代と言いました」
玲奈は瑠璃の態度に驚きながらもはっきりとそう答えた。
「そうですか……」
瑠璃は何故か遠い目をしてそう呟くように言った。
「どうしたの?」
恵那は気になって瑠璃にそう聞いた。
瑠璃は一旦深呼吸をすると、
「千代は妾の住んでいた地名と全く同じ名前です。妾達の居城がある場所です」
と意を決して告白するように言った。
それを聞いた他の四人はびっくりしていたが、それ以上に言いづらそうだった瑠璃の態度が気になったので、しばらく沈黙が続いた。
隣にいたルコは心なしか震えている瑠璃の膝に手を置いた。
瑠璃ははっとしてルコの方を見ると、目が合って、お互い微笑み合った。
「玲奈さん、説明を続けて下さい」
ルコは瑠璃は大丈夫だと感じて、玲奈の説明を促した。
「はい、では、続けます。城郭都市千代は人口約2000います。実はこの都市の長老に支援要請済みで、次葉への潜入の手助けをしてくれる事となっております」
「手筈は整っているという事じゃな」
遙華はちょっと呆れた感じだった。玲奈の掌で踊らされていると感じたからだ。
「確認ですが、これは私達への要請ですか?」
ルコは玲奈にズバリ聞いてみた。
「いえ、単なる提案です」
「ならば、私達が提案を拒否して、ここに居残る事も可能ですか?」
「はい、勿論です」
「提案を拒否してこの都市を出る事も?」
「はい、可能です」
「提案に乗って途中で止める事は?」
「大丈夫です。ルコさん達の自主性に全てお任せします」
玲奈は一連のやり取りをにこやかに穏やかに進めた。それを見て、ルコ達は偽りなしと判断した。
「とはいえ、話し合う必要があります」
ルコは自分の意思はともかく三人に確認する必要があると考えた。
「まあ、なんにせよじゃ。吾はルコに賛成するのじゃ」
遙華はにやけた顔でルコにそう言った。
「ああ、それならあたしも賛成ね」
恵那もにやけた顔をしてルコにそう言った。
ただ当のルコは何の賛成かはよく分からないでいた。二人に聞こうとルコが口を開こうとした時、
「あ、でも、最終的には千代に着いてから判断するべきかな。瑠璃の故郷には絶対行くべきだと思うし」
と恵那が先にそう言った。
「そうじゃな。吾もそうすべきじゃと思う」
遙華はすぐに恵那の意見に賛成した。
ルコは二人のやり取りを聞いてそういう事かと納得した。自分は行く事を決めていて他の三人にどう話すかを考え出していたのだが、遙華と恵那は説得の必要がなさそうだった。問題は、瑠璃がこの話に一番乗り気でない事は確かで、瑠璃をどう説得するかだった。ただし、瑠璃が何と言おうが千代までは行くべきだとルコは思っていた。
瑠璃の方はは自分の住んでいた場所の名前が出たので、気持ちが揺れていたが、自分のわがままに三人を付き合わせる事はできないでいた。しかし、三人は自分の気持ちを察してくれている事がうれしかった。
「どうする?瑠璃。私達三人は乗り気でいるけど」
ルコはそう言って瑠璃の決断を促した。
「ありがとうございます。妾も行きたいと思います」
瑠璃はそう感謝の言葉を述べた。




