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ルコ   ~ 猪人間が台頭してきている世界に転移したら女の子になっていました……  作者: 妄子《もうす》
20.殲滅

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その8

 第5戦は始まる前に状況が変わっていた。むしろ、立場が変わったと言った方が正しいのかもしれない。

 玲奈はルコ達を大いに評価しており、戦いの前に幌豊ほろとよにルコ達を招いていた。そして、招いただけではなく、ルコの下に5車両付けて、遊撃隊の指揮を執るように依頼してきた。つまり、ルコ達はとても評価されており、どんな事でも人に評価される事はやはりうれしいものだという感じをルコ達は持ってしまった。

 現在の戦力は、玲奈26+ルコ6対猪人間1200となっており、玲奈の予想以上に猪人間達の戦力を削る事に成功していた。そこで、玲奈はここで一気に決着を付けたいと考えているようだった。その考え、というより熱気は部隊の隅々まで伝わっており、士気は非常に高かった。後から思えば、この士気の高さにルコ達は飲み込まれていたのかもしれなかった。

 戦いは玲奈部隊と猪人間全部隊の全面衝突から始まった。その様子をルコ部隊は後方から見る事から始まった。戦いは何の工夫もなく、玲奈達は相手より優れた武器で戦い、猪人間達は数と力で戦った。戦いはただの殺戮行為なので創造性とは全く結びつかないという事が証明されるような戦いだった。

 そんな中、ルコ部隊は戦場を迂回するように敵の北側に向かって動き出した。こちらもワンパターンの動きなのだが、初戦で指揮系統を圧迫されて戦線崩壊のきっかけとなった行為に猪人間達も注意を割かないわけには行かず、対応する数は次第に多くなっていった。

「玲奈の予想以上じゃな。こっちにどんどん注目が集まっているようじゃ」

 遙華の言葉通り、猪人間達はルコ部隊に引き寄せられるように注意が向いていた。

「ルコ様、どうかしましたか?」

 瑠璃は隣のルコの様子が気になって聞いた。

「いえ、何でもないわよ」

 ルコはそう答えたが、順調すぎる展開を目の当たりにしてなんだか急に冷めていくような感覚を感じていた。決して問題があるわけではないのだが、妙な感じを覚えてしまうのはただの性格なのかもしれなかった。

「そうですか、それならよろしいのですが」

 瑠璃はそう言ってそれ以上何も聞く事はなかった。瑠璃は瑠璃で何か引っ掛かる事があるのかもしれない。そもそもルコは進んで遊撃隊を指揮するような人物ではないと感じていたので、そこに危うさを感じていたかもしれなかった。

「敵の陣形の分析が終了しました。敵の総司令官と推察される位置を表示します。ほぼ予想の位置に存在するものと推察されます」

 マリー・ベルが事前に頼んでおいた依頼の答えを報告してきた。

 ルコはチラリと分析結果が出た周辺地図を見てから、

「全車、予定通りの位置に向かえ」

とインカムを通じて指示を出した。指示を出しながら柄にもない事をしている自覚があったので、気持ちがますます冷めていくようだった。ただ決して投げやりになっているわけではなく、真剣にはやっていた。

 ルコ部隊は敵との距離を保ちながら敵の側面に回り込む動きをしていた。そして、敵の指揮系統を叩ける位置へと向かっていた。

 このあからさまな動きに猪人間達もルコ部隊の意図に気付かないはずがなく、それに対応する動きを取りつつ、今正面衝突している玲奈部隊の攻撃も耐え抜かなくてはならないという状況に陥っていた。やはり初戦で痛い目にあった事が尾を引いているとみるべきだろう。

「全車、陣形を整えて停車」

 ルコは予定位置に着くと、そう指示を出した。すると、ルコ達の車を先頭に1・2・3台の順で陣形を作り、如何にも突撃するぞという構えを見せた。

 その構えを見せつけられた猪人間達達はそれに対応しようと防御態勢を整えて身構えた。

「突撃!」

 そう指示があり、部隊は突撃した。ただし、突撃したのはルコ部隊ではなく、玲奈部隊だった。

 注意がルコ部隊に向いた瞬間に、絶妙のタイミングで玲奈が攻勢を仕掛けてきた。

 玲奈部隊は一気に猪人間達を押し返していった。このまま一気に敵を分断するまで行くかと思われた攻撃は、数に勝る猪人間達達が踏ん張って戦線崩壊を食い止めた。

「射撃開始!」

 瑠璃がそう号令を掛けた。

 ルコ部隊は玲奈部隊の突撃の間に敵に忍び寄っており、敵の指揮系統を圧迫するために、長距離からの狙撃を開始した。この攻撃に総指揮官とその近衛部隊は後退を余儀なくされた。瑠璃・遙華・恵那のたった三人の攻撃なので特に大きな被害が出ているわけではないが、正確な狙撃なため、総指揮官が討ち死にする事態を避けるためのやむを得ない後退だった。この後退により、更に陣形が乱れた猪人間達の隙を広げるように玲奈部隊が暴れ回った。

「うまくいっているのかしら?」

 恵那は三人の中で一番多く敵を仕留めていたが、撃っても撃っても敵の人数が減らないので、疑問に思ったようだった。

「ここまではうまくいっているようね」

 ルコはちょっと他人事のように言った。

「そうなの?」

「ええ。少なくとも玲奈達さんへの援護には大いに役立っているようね」

 ルコは表示されている周辺地図で戦況を確認しながらそう言った。とは言っても、恵那と同様に有利に戦いを行っているという実感はなかった。

 そんなルコ達の気持ちを写すように、この玲奈部隊の攻撃も猪人間達は何とか耐え忍び、陣形を引き締めて防御が厚くなった。猪人間達の善戦と言いたいところだが、ルコ部隊への警戒に回した人数が多すぎたために苦戦していると言った方が適当かもしれない。

 ルコ部隊は再び敵に接近して、敵の指揮系統を圧迫するために、長距離からの狙撃を再開した。この攻撃に再び総指揮官とその近衛部隊は後退を余儀なくされた。ただ、ルコ部隊に対応するために割かれた猪人間達の部隊が何の前触れもなくルコ達に向けて強引に突撃を開始してきたのは予想外だった。味方にしても突発的な出来事だったようで、玲奈部隊に対応していた部隊はそれに引っ張られるように陣形を乱してしまった。この隙を見逃すほど、玲奈は優しくなかったのでこれを機に一気に攻勢を強めた。

「全車、急速後退!敵を分断するわよ」

 ルコは目の前に迫ってきている敵をこちらに引き込むための指示を出した。

 ルコの車が後退すると、3・2・1の順で後退する陣形になりルコ達が最後尾になった。そこに猪人間達がまともに突っ込んできた。その突撃をルコ部隊はまともに受ける事となったが、これでほぼ形勢が決したと言えた。これにより、司令官の直属部隊の前に立ちはだかっていた猪人間達の数が大幅に減ったからだ。

「この機を逃すな!一気に畳み掛けろ!」

 怒号にも似た玲奈の声が発せられると、玲奈部隊は目の前の猪人間達の部隊の薄いところを突き、3台が突破に成功し、直属部隊へと攻撃を開始した。今度は狙撃ではなく、近距離からの銃撃と爆弾による攻撃だったので、その威力は凄まじく猪人間達は指揮系統を維持できなくなった。そして、間もなく全軍撤退が司令されたらしく玲奈部隊の周りの猪人間達は村へと引き始めた。

「追撃!これを機会に村を一掃!」

 玲奈は攻勢の手を緩める気は全くなかった。村まで攻め込めば、猪人間達は子供を抱えて逃げる他ないからだ。そうすれば、ここでの戦いはこちら側の勝利だった。

 村には猪人間の子供達がいるように、猪人間達にとっても異世界人との戦闘は自分達の生存を掛けており、異世界人達もそれは同じだった。それ故に、両者は歩み寄る事ができずに戦いは激しくならざるを得ず、最終的な決着はどちらかのグループの壊滅という形で決着が付くのであった。

 一方、ルコ部隊の方は暴発した猪人間達の猛攻を受けていた。玲奈部隊を攻撃していた部隊と直属部隊は撤退を開始していたが、こちらは撤退命令に気付いていないほど暴発していた。

 恐らくルコ達だけならいなしながら撤退を続けていたが、他の5台が踏み止まろうとしてしまい、攻勢をまともに受けてしまった。踏み止まる事によって確かに第一波は蹴散らす事ができたが、次の波を防ぐ事はできなかった。

「全車、全力で別斗べつとまで撤退!」

 ルコはそう叫んだが、残りの5台の反応が鈍く、各個に包囲されつつあった。

 また、ルコ達の車も味方を気にしすぎているうちに取り囲まれつつあった。

 ルコが指揮を執っているのだが、周りが付いて来れない状況だった。この辺はルコの能力の限界を示していた。

「ええい、仕方のない奴らじゃ!」

 遙華は忌々しそうに足を引っ張られている状況を嘆いていた。

「ルコ様、ここをお願いします。遙華様は後部へ。恵那様は左側面を、妾は右側面を担当します。とにかく側面に取り付かれないようにして下さい」

 瑠璃はそう指示を出した。

「分かったのじゃ」

「了解よ」

 遙華と恵那はすぐに瑠璃の指示に頷いた。そして、三人は前部区画を出て行こうとした時、

「みんな、無理はしないでね」

とルコが声を掛けた。何だかとても嫌な予感がしていたからだ。

「分かっているのじゃ」

「大丈夫よ」

「かしこまりました」

 三人は三様にそう答えると、自分たちの持ち場に散っていった。

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