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ルコ   ~ 猪人間が台頭してきている世界に転移したら女の子になっていました……  作者: 妄子《もうす》
16.蹂躙

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その4

 ルコ達四人がグズグズしている内に、事態は再び暗転してしまった。

「北門が猪人間に占領された模様です」

 休んでいるルコ達に最悪とも言える報がマリー・ベルからもたらされた。また、逃げ出すとしたら恐らくこの時が最後の機会だったかもしれない。だが、ルコ達四人はこの報に顔を見合わせて溜息をついただけで動こうとしなかった。

 そうこうしているうちに時間は止まる事なく進み、ついに敵の本隊が東門に現れた。これで、ルコ達の選択肢は大幅に狭まってしまった。

 到着した本隊はすぐに先鋒隊と同じ攻撃を開始した。今度は先程の3倍の圧で攻めてきたので、ルコ達は一気に劣勢に追い込まれてしまった。しかし、効果的な抵抗を必死でしているお陰で、敵に全面攻勢の機会を与えずになんとか凌いでいた。だが、戦線崩壊は時間の問題という四人の共通意識があった。

「南門も陥落した模様です」

 マリー・ベルから先程の最悪の報以上の最悪の報を入れてきた。

 しかし、その報に反応できる余裕が無いほどルコ達は追い込まれつつあった。

 敵は城壁に次々と足がかりを作っていき、どんどん迫ってきた。

仲区ちゅくで戦いの皆様、寛菜です。皆様の奮戦虚しく、我々は猪人間に制圧されつつあります。皆さん、脱出して下さい。そして、未来をつないで下さい」

 寛菜が当然仲区(ちゅく)にいる異世界人に向かって通信を入れてきた。別れの通信だった。

「寛菜さん!」

 ルコは通信を聞いて寛菜に呼びかけたが、応答はなかった。

「西門も陥落した模様です」

 マリー・ベルは無常にも更に最悪の報を入れてきた。

 ルコはその報を聞いて呆然となった。しかし、凝り固まっていた頭が同時に動き出すきっかけになっていた。ようやく状況打開に向けての考えを巡らせ始めた。

 そんなルコを横で見ていた瑠璃は、

「皆様、今が踏ん張り時です!敵の攻勢を凌ぎますよ!」

と周りを叱咤するように叫んだ。

「ええ、なんとかするわよ!」

 恵那はちょっと破れかぶれになりながら瑠璃に呼応した。

「分かったのじゃ!ここを踏ん張れば、あとはルコがなんとかしてくれるのじゃな!」

 遙華もそう叫んで銃撃を強めていった。

 訳が分からなかったが、三人の異様な雰囲気に周りの人間は頼もしさを感じると共に、城壁の壁にもたれかかるようにして微動だにしないルコの異様さを見て、変な希望を持った異世界人達は銃撃を強めていき、戦局は一気に好転した。

 そんな光景を見てルコは冷静にこの好転は最後の悪足掻きで今度は一気に敵が城壁の上に殺到してくると考えていた。ん?殺到してくる?

あんさん、けいさん、じゅんさん、各自の装甲車を東門の近くへ移動して下さい」

 ルコはインカムを通じて東門にいるグループリーダー達にそう指示を出した。

「逃げ出す準備?」

 インカムを通じて聞いてきたのは杏だった。

「はい、その通りです」

 ルコは短くそう答えた。

「それならすぐに逃げるべきよ!」

 景は切羽詰まった口調でそう主張した。

「今すぐはダメです。東門を開けたらそこから敵が殺到してきます」

 ルコはすぐに景の提案を拒絶した。

「ならいつ逃げるのよ!」

 順も切羽詰まっているようだった。

「敵を全て城壁の上に上らせてから門を開けて外に逃げ出します」

 ルコは三人のリーダーの懸念にそう答えた。ニヤリとしていた。どうやらいつものルコの考え方に戻ったようだ。

「そううまくいくの?」

 杏は尤もな事を聞いてきた。

「機会を図ります。今は攻撃を強めて敵の兵力の集結を促します。そして、敵が一気に上ってきた時に撤退します」

「うまくいくかしら?」

「行かせます」

「分かったわ」

 杏はそう言うとそれ以上異議を挟まなかった。また、他の二人のリーダーも何も言ってこなかった。

「よし!方針が決まったのじゃ!みんな、撃ちまくるのじゃ!」

 遙華はそう言うと更に銃撃を強めていった。曇りがちだった表情が心なしか晴れやかな表情に変わったような感じがした。

 それは瑠璃や恵那にも同様だった。この三人はルコを完全に信じ切っているようだった。

 ルコはそんな三人を見て別の事を考えていた。圧倒的な不利の状況なのに今のところメンタル面に問題ないようだった。ただ、戦いの後はどうなんだろうかという心配をしていた。

「ルコ、敵が集結しだしたのじゃ!この後、どうするのじゃ?」

 遙華はルコにそう叫んだ。

 ルコの方はそう叫ばれた事で我に返った。そして、今は戦い後ではなく、戦いに集中してとくかくここを切り抜ける算段を付けなくてはこの娘達を不幸にすると思った。そう思うと、外の状況を確認した。

「ルコ様、間もなく敵の大攻勢が始まると思われます。こちらの守りももう限界でしょう」

 瑠璃は隣のルコに耳打ちした。他の人に聞こえないように言ったのは周りを動揺させないためだろう。

「攻撃を続行しつつ、こちらも集結!敵の攻勢に合わせて撤退!」

 ルコは周りにそう指示を出した。

 ルコ達以外の周りの人間はルコ達四人の方に集まり出した。

 それと同時に敵は攻勢に転じてきた。今度は部隊を分けてではなく、全軍で一気に前に出てきた。その圧力にこれまで好転していた戦況が一気に不利になっていった。敵はこちらの限界点を察してきたのは明白だった。

「慌てずに撤退を!殿は私達が務めます!」

 ルコは味方の動揺を抑えるべくそう指示を出した。

 とはいえ、敵が一体となって城壁に向かってくる様は中々の迫力だった。また、この攻勢に耐えられるだけの力がルコ達にはない事も明らかだった。それより、ここまでよく持ってくれたとルコは思っていた。

 撤退は杏のブループ、景のグループ、順のグループの順で次々と行われたが、流石にルコ達4人だけとなると、敵の攻勢には全く対抗できなくなっていた。城壁のあちらこちらから猪人間達が次々と上ってきた。

 各グループを下に運んでいたエレベーターが上に戻ってきた時、

「みんな、エレベーター前を確保して。ここは私が支えるわ」

とルコは三人に指示を出した。

「な、何を言ってるのじゃ!」

 遙華は思わずルコを怒鳴りつけた。ルコの言葉はどう聞いても自分を犠牲にするように聞こえたからだ。

 しかし、ルコは逃げ足だけは他の三人の遥か上を行く自信があったための発言だった。

「私が一番銃が下手なのよ。エレベーター前であなた達を援護できるわけないじゃない」

 ルコは微笑んでそう言った。

「遙華様、恵那様。ルコ様は妾が支えますわ。だから先に行って下さい」

 瑠璃はそう叫んだ。

「主……」

 遙華が反論しようとしたが、恵那に首根っこを掴まれてエレベーターの方へ引っ張られた。

「喧嘩している場合じゃないでしょ!」

 恵那にそう怒鳴られると、遙華は仕方がなく、恵那と共にエレベーターの方へと走っていった。

 ルコと瑠璃は上がってくる敵に対して銃撃を続けていた。

 恵那と遙華はエレベーター前に立って銃を構えて、ルコと瑠璃の左右から上りきってきた敵を銃撃し始めた。

「ルコ、瑠璃、早く来て!」

 恵那はそう叫んだ。

 その叫び声にルコと瑠璃は振り返ってエレベーターに走り出した。

 ルコは走り出すと、まるでスローモーションを見ているかのように全く前に進まなかった。一生懸命走っているはずだったが、エレベーターまで遠く全く距離が縮まなかった。

 もがくように走っていると急に右側から猪人間が現れた。

 ルコはその猪人間と目が合い、その表情まで鮮明に分かった。そして、猪人間が両腕でルコを抱きかかえるように捕まえに来た事もはっきりと認識できた。そして、次の瞬間捕まった感覚も鮮明に伝わってきた。

「ルコ!」

 ルコ以外の三人はルコの捕まる瞬間を目の前で見て悲痛な悲鳴を上げていた。

 しかし、本当のところは違っていた。ルコは屈んで猪人間の両腕をかわすと、銃を猪人間に向かって突き出して銃撃すると、弾がそのまま猪人間の心臓を貫いていた。一連の動作はスローモーションのように遅く見え、決まった動きのように動いただけだという不思議な感覚がルコの脳裏を駆け巡っていた。

「ルコ様、大丈夫ですか?」

 瑠璃は一連の動作をした後に尻餅をついてパンツ丸見えになっているルコの腕を引っ張り起き上がらせた。

 そして、二人で再びエレベーターに向かって走り出した。

 ルコはあれ?と思いながら走っていた。今度は走ったら走った分エレベーターの方へ向かっていた。

「こっちなのじゃ!」

 遙華はそう叫びながら援護射撃を続けていた。

 ルコと瑠璃は転がるようにエレベーター内に飛び込むと、遙華と恵那がすぐにエレベーターに乗り込み、恵那が閉ボタンを押した。

 必死の形相で猪人間達が追い掛けてきたが、寸前のところでドアが閉じた。しかし、何匹かが体当りしてきてドアが凹んだ。

 エレベーターはそれでも無事に下に下り始めた。

「さっきは肝を冷やしたのじゃ」

 遙華はへたり込むように座り込んだ。

「うん、ルコ、捕まったと思ったじゃない」

 恵那は泣きそうな顔をして床に転がっているルコに抱き着いてきた。

 ルコはちょっとボケッとした顔をしていた。

「ルコ様、どこかお怪我でも?」

 瑠璃は妙な顔をしているルコを心配した。

「え、あ、大丈夫。なんともないわ」

 ルコはそう答え、三人を見た。自分にとっては危機的な状況ではないと感じていたが、どうやらそうでもないらしかった。確かに捕まる寸前だったのだからそうなのだろうが、それよりもあの不思議な感覚が気になっていた。

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