その5
「それで、守れる条件みたいなものはあるの?」
一連の動きで話が途切れたが、ルコは瑠璃に話を進めるように促した。
「それは守りきれる敵の数の場合、守り切れると言う他ないですね」
瑠璃はちょっと苦笑しながら身も蓋もない事を言った。それはその通りなのだが。
ルコは瑠璃の話を聞きながら遙華の髪をシャワーで濡らし始めた。人と話をしながらでもできるくらいのシャンプー職人になっていた。
「それは当たり前の事じゃない」
ルコではなく恵那が微笑んで瑠璃にツッコミを入れた。
「そうですね」
瑠璃は恵那のツッコミにそう答える他なかった。
「私の言い方が悪かったわね。その守り切れる敵の数はどのくらい?」
ルコはシャワーを止めながら瑠璃に具体的な質問をした。
「そうですね」
瑠璃は困った顔をしながら少し考えてから、
「現在、味方の総数は100足らずです。城壁は確かに安全なのですが、現在の総数に対して城壁が広すぎるのが問題です。ですから、相手にできる数はそれほど多くはないかもしれませんね。もしかしたら、数百程度かもしれません」
と瑠璃はルコの質問に答えた。
ルコは瑠璃の言葉を聞きながら遙華の髪をシャンプーで洗い始めた。
「それじゃあ、あたし達と戦って切り抜けた数とあんまり変わらないじゃない」
恵那は不思議そうな顔をして素朴に疑問点を指摘した。瑠璃の考えでは、恵那の指摘通り城壁が有効に作用していない事になる。
「はい、定住種から逃げ切るという点では妾達ならその数倍でも逃げ切りました。しかし、城壁を守る場合は殲滅あるいは撃退しなくてはなりません。その場合、遥かに骨が折れると思いますわ。それに攻めどころが多くあるのが弱点とも言えます」
瑠璃がそう説明し切ると、一同は黙ってしまった。そして、一種の戦慄を覚えざるを得なかった。
「ルコ、痛いのじゃ」
遙華は妙な力の入ったルコに抗議した。
「ごめんなさい」
ルコは力を緩めて謝った。いかんいかん、今はロリっ子をシャンプーしているところだったとルコは思った。
「それって、城壁が味方してくれないって事よね。それって、城壁ごと逃げられないからって事なのかな?」
恵那は首をひねりながらがんばって言語化して聞いた。
「仰る通りです。今まで妾達が生き残ってこれたのは、ルコ様が機動性を最大限に生かしてこられたのが最大の要因だと思いますわ」
瑠璃はそう言い終わるとにっこり笑った。ルコを褒めていた。
「成る程、さすが、ルコね」
恵那は妙に納得していた。もちろん、こちらもルコを褒めていた。
「おだてても何も出ないわよ」
ルコは過大評価されていると思いながら苦笑いして、ロリっ子のシャンプーをお湯で洗い流していた。
ルコにしてみれば、生き延びたいがためのみっともないやり方と思っていた。
「ルコ様はご謙遜が過ぎますわ。そこが奥ゆかしいのですが」
瑠璃は微笑みながらそう褒めた。瑠璃は完全にルコを信頼していた。
「そうそう、ルコは凄いのよ!」
恵那は素直にそう言った。恵那にとってもルコは信じられる人間だった。
もちろん、髪を洗ってもらっている遙華も今は話させないが、そう思っていた。
「やれやれ。次もうまい方へ転がるとは限らないのよ」
ルコは三人の絶対的な信頼が逆に恐ろしかった。かなりのプレシャーだった。
そんな風に思いながらルコはロリっ子の髪にコンディショナーを塗り込みながら、
「それはともかくとして、マリー・ベル、今の瑠璃の分析はどう思う?」
とルコは話題を強制的に変えるように聞いた。
「はい、瑠璃様の仰る通りだと推定されます」
流石のマリー・ベルも瑠璃の慧眼には恐れ入ったようだった。再三言っているが、AIなのでそんな感情はないのだか。
「ルコ、感謝するのじゃ」
髪を洗い終わったロリっ子は恵那と同じように髪をアップで纏めてタオルで巻いた。
そして、瑠璃は湯船から出てきて、入れ替わるようにして遙華が湯船に浸かった。
「のぼせそうなので、あたし、先に上がるね」
恵那はそう言って、湯船から上がると脱衣場へと向かった。
その代わりにルコは湯冷めしないように湯船へと入った。




