その4
次の日、ルコ達四人は朝風呂に入っていた。前日は当番だったため、風呂に入れなかったからだ。都市仲区に来てからは湯船のある風呂場が部屋に付いていた。湯船には二人が入れるほどのスペースがあり、洗い場を含めると四人が同時に入れるので、四人はいつも一緒に入っていた。
ルコはこの頃にはすっかり女性の体に慣れていた。というより、魅了されていた?とにかく、最初の頃みたいに狼狽える事は少なくなっていた。
四人で同時にお風呂に入るのは、ルコが他の三人の髪を洗うのでその負担を減らすためだったが、三人はルコに髪を洗って貰う方が気持ちよかったので自分で洗おうとしなかったという側面もあった。ルコは毎度嫌なふりをして鼻の下を伸ばしながら洗っていた事も否定はできなかった。百合プレイを楽しんでいたのかもしれない。
「しっかし、なんか大変そうじゃな」
湯船に浸かっていた遙華は急に呆れたような感じで言った。
「そうですね。今後に不安を残す結果とならないとよいのですが」
遙華の隣で湯船に浸かっていた瑠璃は先行きの不安を述べた。
それを聞いた他の三人はちょっと暗澹たる気持ちになってしまった。
「それにしても、どうして今頃猪人間が現れたのかしら?雪は苦手じゃなかったのかな?」
恵那はいつものように不思議そうな顔をして素朴な疑問を呟いた。恵那は今からルコに髪を洗って貰うところだった。
その疑問に他の三人はぎょっとした顔をした。確かにおかしかった。今時期は、先程逃亡車が猪人間の村の鼻先を通過したが、今になっても全く動く気配さえなかった。その方が普通なのだ。
「マリー・ベル、どういう事か説明できる?」
ルコはマリー・ベルに聞いてみた。
「放浪種は進化途中の亜種や変種としても考えられております。それ故に今回は雪に対応できる猪人間の出現の前触れかもしれません」
「それって、凄くまずい事になりそうなのじゃが」
遙華の表情が曇った。
「おそらく猪人間の居住可能地域の北限が北上すると推察されます。また、それがこの島の猪人間の人口が増える事につながると推察されます」
「でも、進化って言うから時間が掛かるのでは?」
ルコは恵那の髪を洗い始めながらそう言った。
「それについては何とも言えません。ここ10年で、猪人間の数は倍増しております。数が増えれば、様々な種類の猪人間が誕生する可能性があると推察されます」
マリー・ベルは再び嫌な事を言ってきた。
「はあ、考えれば考えるほど、この世界は大変な事ばかりね……」
ルコはそう言うと溜息を付いた。
「ルコ、髪洗うの止めないでよ」
恵那は手が止まったルコに可愛らしく文句を言った。楽しみをお預けされた気分だったのだろう。
「ああ、ごめんなさい。お客様」
ルコはそう言うと再び恵那の髪を洗い始めた。
「そうそう、これ」
恵那はうっとりしていた。ルコのテクニックは日増しに上達しているようだった。
「猪人間の事もそうなのですが、この都市の人達の事はどう思いますか?」
瑠璃はちょっと深刻そうな顔をして聞いてきた。
「ああ、それは吾も心配に思うのじゃ。寛奈はよく統率していると思うのじゃが、周りの連中がなあ……」
遙華はそう言うと心配そうな顔になった。
ルコは恵那の髪からシャンプーを流しながら二人の話を聞いていた。
「射撃の腕もそうですが、戦闘体制への移行が鈍いような気がしますわ」
「それに今回新しく来た連中が……じゃな……」
遙華はそう言ってますます心配になってきているようだった。
「瑠璃から見て、この城塞で守り通せると思う?」
ルコは恵那の髪にコンディショナーを塗り込みながらそう聞いた。
「難しい質問ですね」
瑠璃はそう言うと考え込んでいた。
ルコが恵那の髪の余分なコンディショナーを洗い落とすまで考え込んでから、
「大丈夫な点を探しましたが、それが思い当たりませんでしたわ」
と瑠璃は失望する事を残念そうに言った。
「吾の番じゃな」
ロリっ子はそう言うと、湯船から出た。
「ルコ、今日もありがとう」
恵那はそう言うと、お湯に浸からないように髪をアップでまとめると上からタオルを巻いて、遙華の代わりに湯船に浸かった。




