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ルコ   ~ 猪人間が台頭してきている世界に転移したら女の子になっていました……  作者: 妄子《もうす》
15.北門

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その3

 しかし、問題がすぐに発生した。

 北からの逃亡車は道沿いに南東方向へ逃げていたが、右折して南西方向へと向きを変えた。明らかにこちらに向かってくる意志が感じられたが、その先には村27があり、目の前を通過する形になっていた。道を間違えたと思われる。急いでいるとはいえ、ありえない行動である。

「すぐに、全部隊を招集!村の猪人間が攻めてくる可能性あり」

 寛奈はすぐにそのありえない行動に対応するように指示を出した。

 その指示を聞いてルコ達は少し安心した。対応が間違っていなかったからだ。

 村27は城塞都市仲区(ちゅく)の北4km付近にある村だった。今まさにその鼻先を刺激するように逃亡車は放浪種を引き連れて通過した。

 城壁にいる誰もが息を呑んでその光景を注視していた。しかし、今のところ、何の変化もない。雪積もる冬だったのが幸いしたのだろう。

「油断は禁物!村の動きを注視して!」

 無事通過したが、寛奈は注意を喚起した。後から出てくる可能性が全く否定できなかったからだ。

「さて、これからどうするのじゃろか?」

 遙華は寛奈の方を注視していた。これまでは特に問題はなかったが、いざ戦闘になる時にはどういう指揮を取るのかがまだ一度も見ていないからだ。

 逃亡車は左折右折左折をしてようやく橋を渡り城壁に辿り着くコースへ乗った。しかし、依然厳しい追跡を受けているようだった。ここまでの戦闘でまだ一匹も倒せていなかった。それどころか近付いてくるにつれて、ほとんど敵に対して攻撃が行われていない事が分かった。疲れてしまったのだろうか?

「距離100から援護射撃用意!」

 寛奈はようやく援護の指示を出した。

「距離400でうちの三人なら攻撃可能ですが」

 ルコは今まで黙ってみていたが、我慢できなくなったのかそう言った。

 それを聞いたルコ達以外は驚きの表情でこちらを見た。

 寛奈はルコの表情を見て、ふと微笑んで、

「それではお願いできる?」

と申し出を承諾した。

 ルコは他の三人と顔を見合わせて頷き、三人は再び城壁の縁に出て、銃を構えた。

「距離400で一斉射。皆様、よろしいですか?」

 瑠璃は標的を定めながらそう言った。

「了解したのじゃ」

「いつでもいいわよ」

 遙華と恵那はそう言って承知した。

 逃亡車は半包囲されながら追撃されていた。敵の動きが鈍くなかったら恐らくここまで辿り着けなかっただろう。

「撃て」

 瑠璃が短くそう言うと、三人は一斉に銃撃した。

 ビームは逃亡者の右側面の猪人間三匹を葬り去った。

 周囲から驚嘆の声が漏れた。レベルが違うのだろうかとルコは思ったが、自身は恐らく周りの人間より下手なので大きな顔はできなかった。

 そして、しばらく狙いを定めて、三人はそれぞれのタイミングで第2射目。右側面の敵を一掃するかのようにまた三匹を葬り去った。

 再び当てた事で周囲の評価は完全に決まった。

「あとは車に当たる可能性があって無理ね」

 6匹を倒した後で、恵那はそう言って一旦銃を構えるのを止めた。このまま敵が離脱してくれればいいと思っていたが、どうなるだろうか?

 三人はしばらく敵の動向を見守った。すると、恵那の願いどおりに敵はすうっと引いていった。

 敵が引いていったので周囲から歓声が上がった。

 逃亡車はそのまま北門へと向かってきた。

 ルコ達4人と寛奈は逃亡者を視界の隅には捉えていたが、撤退する猪人間の動向を見ていた。撤退は擬態の可能性もあったからだ。

 逃亡車は門の前で止まった。

 敵の方はゆっくりと離れていた。だが、まだまだ簡単に戻って来られる距離だった。

 三人が一斉にルコの方を見た。ルコは頷いて、

「牽制しますか?」

と寛奈に聞いた。

「お願いします」

 寛奈はルコ達の意図を完全に理解しているようだった。

「最大射程で射撃!」

 瑠璃がそう言うと、三人は一斉に敵に向かって銃撃を開始した。

 遠すぎて弾はいずれも当たりはしなかったが、敵の近くに着弾した。

 しばらくは猪人間達はこちらを伺える距離を保とうとしていたが、何発も銃撃されたので一気に撤退のスピードを上げた。

 それを見た三人は一斉に銃撃を止めた。

 逃亡車の方は中から人が次々に車を降りてきて、こちら側に手を振って何かを叫んでいた。風の音でよく聞こえなかった。

 寛奈はあまりにも無防備で考えなしの逃亡車の人間体にびっくりして慌てていた。当然、ルコは寛奈の後ろで、ルコ以外の三人はその前で、肝をつぶすような思いに駆られた。

「すぐに車に戻ってください。まだ安全を確認できていません」

 寛奈は慌てていたが、節度を守った口調で忠告した。

 外に出ていた連中は更に激しく手を振って何かを叫んでいた。今度もこちらには聞こえなかったが、こちらの声は聞こえているようだった。

「安全が確認され次第、城内に入ってもらいます。それまで車内で待機してください」

 寛奈は多分苛ついていたが、節度を持った口調で再びそう訴えかけた。

 しかし、連中は一顧だにせず、まだ激しく手を振っていた。猪人間の村の鼻先を掠める行為や今の行為などを見ると、現状把握すらできない連中なのかもしれない。

 すると、恐れていた事が起きた。人が車の外に出た事に気付いた猪人間達は一斉に引き返してきた。それも雪中とは思えないスピードで。

「すぐに戻りなさい!猪人間達が戻ってきます!」

 寛奈は懸命に訴えかけたが、連中は聞く耳を持たなかった。一体どうなっているやらと瑠璃・遙華・恵那の三人は顔を見合わせながら思っていた。

 ただルコの方は慌てて城壁の縁に駆け寄った。そして、

「全員で猪人間を牽制!当たらなくていいから撃ち続けて!」

と銃を取り出して撃ち始めた。

 それを見て、事態を理解した瑠璃・遙華・恵那が続き、他の連中も慌ててそれに習った。

 激しい銃撃が始まっても外の連中の態度は全く変わらなかった。

 猪人間達は牽制射撃のため、容易に近付けなくなったが、先程より遥かに動きが良くなっていた。眼の前に大量の獲物が無防備にたくさんいるからだろう。これで元気にならない方がおかしいのかもしれない。

「ルコ、連中の動きがよくなりすぎじゃ!このままではまずいのじゃ!」

 遙華は悲鳴に似た声を上げていた。これは銃撃を浴びせている全員の共通認識だろう。

「捕まって盾にされたら打つ手がないわ」

 恵那も遙華と同じような声を上げていた。

「分かっているわ!でも、撃ち続けるしかないわよ!踏ん張って!」

 ルコは遙華と恵那に尤もの事を言っていたのだが、打つ手はこれしかなかったので、叱咤する他なかった。

「戻りなさい!さもないと、城内には入れません!」

 寛奈はついにブチ切れたように大声を上げた。城内の味方の踏ん張りを見ての事だったのだろう。

 寛奈の剣幕にようやく外にいた連中は車へと引き返した。

 それとともに、猪人間達の動きが近付く事を躊躇うようになってきた。

「今です!一気に押し返して下さい!」

 瑠璃が戦闘モードの凛々しい口調で皆に叱咤した。

 その声を合図に、一気に銃撃が激しさを増し、猪人間たちは再びもの凄いスピードで遠ざかっていった。どうやら今度こそ危機は去ったらしい。

 全員が銃撃をやめると、寛奈は大きな溜息を付いて下の逃亡車を見つめた。寛奈は無言のまましばらく見つめていたが、ルコが、

「敵、安全圏まで後退しましたが、どうします?」

と決断に迷っているような寛奈に声を掛けた。

 寛奈は今度は大きく深呼吸をしてから、

「城門を開けて迎え入れましょう。皆さんはそのまま警戒態勢を維持して下さい」

と決断を下した。心中察するものがあるが、一同は黙ってその決断に従った。

 敵は尚も撤退を続けていたので、寛奈は、

「ルコさん、後はお願いできますか?」

とルコの方を向いて聞いてきた。

「了解です」

 ルコは短くそう答えた。

「ルコさんの部隊以外は撤収して下さい。出迎えに行きましょう」

 寛奈がそう言うと、一斉にやれやれという雰囲気になった。まあ、当然なのだが。

「ルコさんを始め、みなさん、予想以上の働きに感服しました。そして、ありがとうございます」

 寛奈は戻り際ルコ達にそう感謝した。

 ルコ達四人はちょっと照れくさそうに笑い、一同を見送った。

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