その4
屋上に出た遙華は出口正面の屋上に張り巡らされているフェンスへと駆け寄っていった。
屋上は地上より寒く、風が強かったので、ルコと瑠璃はコートのフードを目深に被り、二人寄り添うようにフラフラと遙華の後を追った。
遙華の方はフードを被らずにいた。その後姿が何やら深刻そうな感じがしたので、ルコと瑠璃は見逃さないように注意していた。
遙華はルコと瑠璃が追いつく前に、いきなり走り出した。そして、一旦立ち止まるとフェンス越しに風景を凝視しているようだった。そして、また走り出しては止まって風景を凝視するという行為を繰り返して屋上を一周した。この建物より高い建物が風景を邪魔していたので、見やすい場所に移動しながらのまさに観察だった。
ルコと瑠璃は遙華の行動についていけず、またその理由が分からずに屋上の真ん中でお互いに手を取り合うようなポーズで右往左往していた。
一方の遙華は二周目、三週目とそれらを繰り返していた。
ルコと瑠璃は心配になり、声を掛けようとした瞬間、
「やっぱり、そうなのじゃな!」
と遙華は嬉しそうな声を上げた。
遙華の予想していなかった嬉しそうな声にルコと瑠璃はびっくりして、慌てて遙華のそばに駆け寄った。除雪されていたとは言え、所々凍っていたのでルコはちょっと転びそうになりそうになりながらだった。
「どうしたの?遙華、何かいい事でもあったの」
ルコは遙華の後ろでそう聞いた。
「多分いい事なんだと思うのじゃ。ここの風景、吾は知っているのじゃ」
遙華は一転してしみじみとした口調でそう言って、ルコたちの方に振り向いた。
「え!?」
ルコと瑠璃は同時に絶句した。思いも寄らない遙華の言葉だったからだ。
「吾の故郷はもうちっとばかり、いや、もっと北にあるはずじゃ。この先同じ風景が続いていればの話じゃが」
遙華はそう言うとちょっと震えていた。嬉しさなのか、恋しさなのか、あるいはその両方なのかもしれないが、いいしれないものが込み上げてくる感じがしていたからだ。
ルコと瑠璃は完全に言葉を失った。なんて声をかければいいのだろうかと思ったからだ。良かったねとはとても言えない状況だった。
「なあ、ルコ、瑠璃。吾は帰りたいのかもしれないのじゃ……」
遙華は再びルコと瑠璃に背を向けて絞り出すようにそう言った。




