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ルコ   ~ 猪人間が台頭してきている世界に転移したら女の子になっていました……  作者: 妄子《もうす》
7.市街戦

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その1

 ルコ達が乗っている装甲車は21世紀初頭に日本で多く使われている観光バスよりやや長かった。車両前部には2x2の座席が配置されており、座席のすぐ後ろの両側には外に出られるドアがある。その次の区画は寝室区画で、2段ベットが2つある。もう絶滅してしまったが、寝台列車のB寝台によく似ており、ベットは車の進行方向右側に配置されており、進行方向左側に通路があった。その次の区画は作業区画と言われているが、ルコ達がちゃぶ台を囲んで食事をしたり、話をしている区画だ。また、この区画の床には倉庫に通じるアクセスパネルがある。そこを通り過ぎると、進行方向左側にトイレとシャワー室、中央の通路を挟んで、洗濯乾燥機と簡易キッチンがあった。そして、最後尾には前部区画や作業区画ほど広くはないが銃撃戦ができるようにスペースがあり、外に出られるドアが最後尾の壁の中央にあった。狭いながらも快適な(?)我が家といった感じで、生活と戦闘において最低限以上のものは揃っているといった感じだ。

 そんな装甲車で空別からべつに入って4日間は特に大きなトラブルもなく、無事平穏にルコ達四人は過ごしていた。

 しかし、得てして変化は当然にやってくるものだ。この日、ルコ達四人は防寒着の補給のため、朝食後、補給作業に取り掛かっていた。

「斥候と思われる部隊によってこちらが発見されたと推察されます」

 マリー・ベルがそう報告してきた時は、ちょうど補給車のベルトコンベアから物資が車に搬入され始めた時だった。

 ルコ達四人はこの報を聞いて驚きのあまり固まってしまった。というのは、補給作業を始める前に斥候部隊の動きを監視し、こちらとは別方向に向かったのを確認した後に作業を始める事にしたからだ。

 ルコ達が全滅させた斥候部隊の消息が未だ分からないためにいずれ捜索範囲を都市に向けたのだろうと予測ができた。しかし、その部隊が補給作業中に方向転換して都市に来る事は全く考えていなかった。完全に虚を衝かれた格好だった。

「迂闊だったのじゃ!」

 後部ドアのそばで警戒の任に当たっていた遙華は後悔するように言った。

「後続の部隊を確認。総数およそ100。まっすぐこちらに向かってきます。およそ12分で到達します」

 マリー・ベルは最悪の続報を入れてきた。

「直ちに作業を終止して、撤収!」

 ルコはそう指示を出した。ルコは作業区画の倉庫の入り口で確認作業をしていた。

「はい、承りました」

 マリー・ベルがそう言うと、ベルトコンベアの回転がとまり、物資を載せたままベルトコンベアが補給車の方に戻り始めた。今回は順調に動いているようだった。

「防寒着は?」

 寒がりな恵那は不安そうにルコに聞いてきた。恵那は遙華とともに後部ドア付近にいた。

「大丈夫よ。一番先に来たから作業区画の隅に積んでおいたわよ」

 ルコはちょっと笑いながらそう言った。

「よかったぁ」

 恵那はもの凄く安心したようだ。

「ルコ様、妾は先に行きますわ。後始末をお願いします」

 瑠璃はルコにそう言うと作業区画から車両前部へ向かった。今回は少し時間に余裕があるので急ぎ足で向かった。

 ベルトコンベアはしばらくすると車から完全に引き抜かれて、補給車の方に収まっていった。と同時に、車の後部ドアが閉まった。

 遙華と恵那はベルトコンベアがなくなり、通路に戻った通路を補給物資をまたぎながらルコの方へ掛けてきた。

「今回はうまく行ったようじゃな」

 遙華はルコの前でそう言うと、そのまま走り抜けていった。

「あと、よろしくね」

 恵那はそう言うと遙華の後に続いた。

「私も後始末したらすぐ行くわ」

 ルコは隅に避けた防寒着の入ったダンボールを紐で固定しなっがら言った。そして、後部ドアにつながる通路へと入っていき、落ちていた補給物資を持ち上げて倉庫の入り口に置いた。すると、補給物資は搬入用ドローンが受け取り、中へと運び込まれ、倉庫の入り口が閉まった。

 それを確認したルコは車の前部へと向かった。

「射撃開始!」

 瑠璃がそう言うと、ルコ以外の三人が一斉に銃撃を開始した。

 初撃に間に合わなかったルコは左から恵那・遙華・瑠璃と並んでいる一番右端に加わった。

 距離300mで猪人間が蠢いていた。銃撃を浴びるまでは直線的に順調にこちらに向かっていたが、倒れた仲間が現れると、それに躓くなど途端に混乱が生じ始めた。しかし、先程の斥候隊を加えた110以上の数、容易に殲滅できる数ではなかった。しかも、前は夜で逃げるのに精一杯だったから分からないが、撃たれて倒れても起き上がってくる個体もチラチラ見受けられた。猪人間はタフであり、急所以外は撃たれても平気なのかもしれない。そのため、なかなか数を減らせなかった。しかも、数が多いので必ずしも狙った個体に当たるとは限らず、仲間を庇う形になって急所以外に当たるという事も続発していた。ただ、ルコの場合、その逆のパターンが多かった。

「どうするのじゃ、ルコ?」

 遙華は迫ってくる猪人間に対して指示を出してこないルコに向かって聞いた。

 実は、ルコはこの後の事を思案中で結論が出ていなかった。逃げに徹する他ないのだが、都市外のどこに逃げるのかを考えていた。西は海なので完全に無理だが、簡単に逃げられそうな北は近くに猪人間の村はないが、都市もなく補給が難しくなる。南は大きな都市幌豊(ほろとよ)があるが敵は南から来ているので、それを突破した後に更に突破しなくてはならない村の数も多い。東には都市別斗(べつと)があるが、突破しなくてはならない村が南ほどで多くはないがそれなりに数はある。都市外に逃亡したいのは山々だが準備不足のため、より状況が悪化する可能性もあるために、ルコはすぐには決断できないでいた。

「後退して距離を保ちましょう」

 ルコはとりあえずそう決断した。

「はい、承りました」

 マリー・ベルはそう言うと、車を後退させた。補給車はすでにここから離れていたので、自由には動けた。

 猪人間との距離は約50mに詰められていたが、この距離ではルコ達の方が圧倒的に有利だった。石弓は車の装甲で防げるので一方的にこちらが攻撃できた。しかし、猪人間のタフさと数の多さは距離を詰められると一気に形成が逆転しかねない距離でもあった。

「都市外に逃げないのですか?」

 瑠璃は猪人間に銃撃を加えながら聞いてきた。

「無計画に都市外に出るのは危険だと考えているのよ」

 ルコはまだ考え込んでいた。

「しかし、この距離を続けるのも危険ですわ」

 瑠璃はルコにそう指摘した。

 確かに、このまま続けていても敵の数をそうそう減らせないのに加えて、こちらもかなり疲労するし、体力は向こうの方が上だ。また、弾も有限だ。

「急速後退。一旦距離を取りましょう」

 ルコは瑠璃に指摘された事を考慮してそう指示した。

「はい、承りました」

 マリー・ベルがそう言うと、車は一気に加速し、北北東方向に進み、橋を渡り、都市の端近くまで約4km後退した所で、

「止めて」

とルコは指示して車を止めた。

 猪人間達はルコ達の行動に付いて行けず、当初は混乱して交錯して倒れていたが、やがて混乱が収まり、わらわらとまたこちらに向かってきた。

 ルコはその様子を拡大映像で見ながら、この集団を撃つのは無駄じゃないかと思い始めた。4人の弾倉はそれぞれ2個使い果たしていた。さっき、エネルギー切れの弾倉は車内にいるお手伝いドローン2台が回収し、作業区画にある充填装置へと持っていった。充填に必用な時間は1個10分程度。正直、このまま撃ち続けていたら弾切れの恐れもある。あれだけ銃弾を浴びせたのに、動ける個体はまだ90匹以上はいた。転がっている何匹かはまた起き上がってくるかもしれない。数が少ない場合は急所を狙って確実に仕留められたが、現状では敵の足を止めるのが先決なため、そうもいかなかった。

「距離300でまた一斉射撃をしましょう」

 考え込んでいるルコに代わって瑠璃がそう指示を出した。

「距離300まであと3分」

 マリー・ベルがそう報告してきた。

「待って、距離50まで引き付けて」

 ルコは何かを思い付いたように言った。

「ルコ様?」

 瑠璃は驚いたように照準から目を離してルコを見た。遙華と恵那もびっくりしてルコを見ていた。

「50で一斉射撃の後、そこの角をを右に曲がって再び距離を取るわ。そして、また50で一斉射撃の後、距離を取る。これを繰り返すわ」

 ルコは驚いている三人にそう説明した。

「都市内を引きずり回すという事じゃな?」

 遙華は納得したようにニヤリと笑って言った。

「うーん、そんな面倒な事しないですぐに逃げ回れば良くない?」

 恵那の方は疑問の声を上げた。

「今の敵は直線的に私達に向かってくるから私達の存在を見せつけるようにしないと、バラバラになって却って包囲される危険性があるのよ」

 ルコは恵那にそう説明した。

「成る程!そうね」

 恵那は説明されるとすぐに納得した。

「それにしてもそれは意地が悪い作戦ですね」

 瑠璃はニコリとしながらそう言った。

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