最北の地 おまけ
蛇足かなとも思ったのですが、勿体ないので公開します。
二人がいなくなると、ギルド内が急に広くなったように感じられた。
「なんだったんだ……?」
誰かがポツリと零したことを皮切りに、ギルドは普段の喧騒を取り戻す。
青年を探っていた男たちは言わずもがな、女の柔肌に目を奪われていた酔っ払いたちも、まるで嵐か何かが通り過ぎていったかのように茫然としながら、今しがた起こったことを理解しようと、近くの者同士で言葉を交わした。
「結局あの坊主はバース・エッカルドの貴族様ってことでいいんだよな?」
「貴族っぽくねぇけどな」
「だがアンホールド男爵家は俺も聞いたことがある」
青年について真面目に情報交換を行う者もいれば、
「あんな傭兵がいたとはなぁ……」
「俺は久々に女を見たぜ」
と、女の方ばかりに関心を寄せる者もいる。
どちらかと言えば、後者の方が多かった。
この最北の地において殆ど見ることの無い女を目にした男たちが、彼女を気にかけてしまうことは生物学的に言えば致し方の無いことだ。命のやり取りが身近にある男たちなのだから猶更である。
更に言えば、女の格好も不味かった。
「こんな寒い所にあんな格好で来るなんて、相当な好き者だろ」
「俺が温めてやりてぇ」
「細っこかったし、どこかに連れ込んじまえばいい」
そんな女に対し、良からぬことを考える輩も出始める始末。
どこか浮ついたような雰囲気の中で、ひとりの傭兵が呆れたような、何かを恐れるような息を吐いた。
「悪いことは言わない、やつらには関わらない方が良い」
「アンタ、何か知ってるのか?」
独り言のように小さく零された言葉を拾い上げた別の男が問う。
傭兵は躊躇うように目を彷徨わせたが、やはり誰かに聞いてもらいたかったようで、声を潜めて話し出した。
「あの傭兵団が名乗ったことは一度もない。けれど、わかるんだよ」
「わかるって、何が?」
それに答えようとして、傭兵は何かに気付いて口を噤んだ。
「忘れてくれ――――」
「え? おい」
傭兵は問いに応えぬまま、飲みかけの杯を残して、逃げるように去って行った。
その様子を怪訝に思った別の冒険者が、男に問う。
「アイツなんだって?」
「ああ、いや、それが……」
男は言い淀む。あの傭兵が去り際にはなった言葉が、妙に耳に残っていた。
「“青い血には関わるな”だとよ」