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ブルー・ブラッド傭兵団  作者: 雑魚メタル
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不死者を連れた傭兵 2

気付いたら四ヶ月も経ってました。すみません。

またボチボチ書いていきたいと思います。


 ギルドを出て歩き始めた一行は、奇妙な一団として周囲の目を引いていた。――貴族でも魔術師でもないのに小綺麗な格好をした青年と、ローブの下であられもない姿を晒す女、それから菫色の小柄な魔女に、フードを深く被った大男。道行く人々は、好奇心と少しの惧れを以て興味深げに彼らの方を見やり、後に続く首無しの不死者に慌てて視線を逸らすのであった。


「あーあ。首が見付かったと思ったんスけどねー」


 青年がワザとらしく落胆の声を上げると、同行者の女が口を開いた。


「これからどうするんだい」

「手掛かりも無いんじゃどうしようもないッス。貴族ズ(・・・・)からも連絡来ませんし、お手上げッスね」


 青年の答えに、然もありなんと頷いた女は、


「あいつら、バレて死んだんじゃないのかい」と、冷笑った。


 無論、彼女は本気で言っている訳ではないが、実際にそうなっていたとしても、同じように笑うのだろうと思うと、青年は苦笑を禁じ得なかった。――すると、その時である。


「待って! 待ってくださぁい!」


 そんな声と共に、幼い少年が、人波を掻き分けてこちらに向かって駆けて来る。


「なんだアレ」


 フードの男が一行を代表して呟いたが、当然誰も、何も、答えられない。

 そのうち、両者の距離は縮まって、少年がやはり見慣れぬ人間の子どもであると判ると、彼らは一層困惑した。見上げる無垢な瞳にたじろぎ、互いに小突き合いながら、とうとう、小綺麗な格好をした青年が、代表して口を開く。


「えぇと。どうしたの。ボク。迷子ッスか?」

「お兄さんたち、不死者に詳しいの?」


 少年は、青年の問いに問いを返した。青年らは、思っても見ない事を訪ねられて、目を丸くしてから、顔を見合わせる。

 そんな彼らに向かって、少年は焦ったように、逸って、こう言った。


「僕、首のある所を知っているんだ!」




   ***




「えっ。じゃあ首取って来ちゃったんスか?」


 ゼンタは不死者使いの傭兵一行を案内する側、己が所業を話して聞かせた。すると、傭兵団の一人、小綺麗な格好をした青年――セリオンは、これでもかと目を丸くした。驚きか、呆れか、将又非難を込めてか。ゼンタは罪悪感から彼の顔を見る事が出来なかった。

 而して、セリオンは責める事も咎める事もせず、


「それはそれは…」と、独り言と口を閉じてしまう。


 ゼンタは恐る恐る隣を歩く青年を見上げた。彼はもうこちらを見ていなかったが、その瞳に嫌悪は浮かんでいない様に見える。視線をずらせば、特に興味も関心もなさそうな様子で、彼の仲間たちがついて来ていた。――一番最後を歩いている男の体の上に、首は無い。

 再びセリオンの方へ向き直ると、ゼンタは訊ねた。


「首をどうするの?」

「んー?」


 セリオンは軽薄な見た目通りに、芯の通らぬ力の抜けた返事をした。

 ゼンタは念を押すように再び訊ねる。


「首を探してどうするの? 後ろの首無しと何か関係があるの?」

「俺らはね、この首無しクンにぴったりの首を探しているんスよぉ」


 セリオンが振り返りざまに指で手招くと、首無しは歩調を速めて仲間を追い抜き、ゼンタの背後に来た。無い首に見おろされると、背筋が寒くなるような嫌悪感に襲われる。まるで其処に墓場があるような、冷やりとして、湿っている、ほの暗い空気が満ち満ちているように感ぜられた。

 ゼンタは縫い付けられそうな視線を引き剥がし、セリオンに向かって問う。


「首がくっつくの?」

「くっつくんじゃなくて、くっつけるんッスよ」


 当然の事と言わんばかりにセリオンは言ったが、ゼンタにとっては全く未知の事である。成程そう云う事も出来るのかと、感心するような不気味なような。ちらりと振り返ったところには変わらず長躯の首無しが居て、ゼンタは慌てて前を向いた。


「危なくないの?」思わずそんな言葉が漏れる。

「怖がらなくても大丈夫ッスよ。ほら、体の方は超従順でしょ?」

「そ、そうなのかな……」


 セリオンは背後を指差し笑顔を浮かべたが、ゼンタには判断付かなかった。

 首無しの不死者は、確かに従順なようにも思えるが、如何せん顔が無いので、こちらに敵意を抱いているかどうかも判らない。そうして、それは攻撃の予見が出来ないと云う事でもあった。もし首が繋がっていれば、己を使役する青年に向かって、怨念を紡いでいるかもしれなかったし、話に聞く他の不死者のように、生者すべてを襲い掛からんと狙っているかもしれない。ゼンタは彼の自信が何処から来るのか不安だった。


 怯えに駆られた少年の足は自然と速まり、普段よりも随分と早く、エイコン孤児院教会が見えて来た頃、驚く事に、皆が遠巻きにする一行に向かって、声を掛ける者が居た。


「お前、ゼンタか?」


 名を呼ばれたゼンタは、追われている事も忘れて、一挙に振り返った。

 次いで、名前に反応したのは不味い事だと冷や汗を掻く。が、それは直ぐ又、杞憂に終わった。と云うのも、振り返った先に居たのは、追手の騎士ではなく、人の好さそうな顔をした見覚えのある傭兵だったのだ。


「ラーセンさん!」


 ゼンタは驚きと同時に喜色を浮かべ、大きく手を振った。

 ラーセンの方はと言えば、ゼンタと同じ表情に安堵を浮かべて足早に近付いて来る。


「お前、無事だったのか。あのとき貴族の方に向かって行ったから、俺はてっきり……」

「捕まったと思った?」

「当たり前だろう。無茶しやがって」


 ラーセンはそう言うと、ゼンタの頭を掻き回した。ゼンタは無邪気な笑みを零しながら、その手を甘受する。


「本当に良かったぜ。スノーレにも教えてやらねぇと」


 彼と別れたのは聖なる炎の儀の最中であった。その後に起こった衝撃的な出来事によって、ゼンタは二人の事などすっかり忘れていたが、もしかしたら彼はずっと後悔していたのかもしれない。そう思うと、ゼンタの心は温かい気持ちで満ち満ちて、彼と幼い娘が無事逃げ切れた事を竜に感謝した。

 その時である。後ろにいるセリオンが、小さくこう呟いた。


「……ラーセンさん、ね」


 何となく含みのある言い方に、ゼンタは怪訝に思って振り返る。

 セリオンは打って変わって人の好い笑みを浮かべた。が、やはり軽薄さが隠せていない。


「はじめまして。セリオンって言います」

「傭兵か? 俺はラーセンだ」

「よろしくドーモォ」


 ラーセンが差し出した手を握り返しながら、セリオンは厭味らしく唇を反らす。

 而して、二人は言葉を重ねる事無く、再び手を放した。


「それで? こんなところで何をしているんだ。アジトに戻らなくていいのか」


 何も知らないらしいラーセンは、心底から不思議そうにそう尋ねて来た。

 ゼンタは一体何から話せば良いのか、――寧ろ話しても良いものかどうか判らず口籠る。と、その横からセリオンが口を挟んだ。


「ゼンタくんが首を持っているって言うんで、案内して貰ってるところッス」

「首?」


 鸚鵡返しに繰り返したラーセンは、刹那、雷に打たれたように背筋を伸ばした。が、それは文字通り一瞬の事で、彼は背中を屈めて少年の顔を覗き込んだ。


「首って、もしかして、あの首か。聖なる炎で燃えなかったものを獲って来たのか!?」

「だ、だって……。あれがあるから姉ちゃんが……」


 ゼンタは、いよいよ、とうとう、咎められる時が来たのだと、肩を落として俯いた。

 が、予想に反して、ラーセンは感心したように息を吐いただけだった。


「まさかお前だったとはなぁ」

「えっ。何が?」

「ああ。いや。こっちの話」


 ラーセンは詳しい事は何も言わず、唯、「成程なぁ」と、繰り返し呟いた。それが段々と賛美のように感ぜられて、ゼンタは先程とは違う理由で俯きがちになると、セリオンが厭味らしい笑みを深めた。


「そうだ。アンタも一緒に来ると良いッスよ」

「そりゃあ気になるが、良いのか」


 ラーセンは、セリオンとゼンタ両方の顔を窺った。ゼンタは彼のこう云うところを好いている。そうして、それから、セリオンの提案に否は無いので、大きく頷いた。


「なら決まりッスね。きっと楽しい事になりますよ」

「首を繋げるのが楽しい事なの?」


 ゼンタが訊ねると、セリオンは然もありなんと頷いた。


「そりゃあ、普通の不死者には見られない事ッスからね。知らねぇの、不死者だって首を斬られれば普通死ぬんスよ」

「えっ」


 一挙に振り返ったゼンタの事を、セリオンは笑い声を上げて見やった。ラーセンも苦笑を堪え切れない様子なので、わからぬのはゼンタばかりのようである。己が嫌いな子ども扱いをされているのではないが、無知を嗤われているようで、ゼンタは良い気がしなかった。

 而して、青年らはそんな少年の心など察して余りある様子で、ラーセンが頭を撫でて来ると共に、セリオンが口を反らしてこう言った。


「それは勿論、特別な不死者だからッスよ」

「特別?」

「そう。ウチは特別なんス」

「どう特別なの」


 ゼンタが知りたいのは其の部分なのだ。故に、少年は苛立ちを滲ませた強い口調で言った。が、セリオンは笑みを崩さぬまま、――否、寧ろ愉快そうに笑みを深める。


「特別は特別ッスよ。君だって、理由もなく特別な事があるだろ。それと同じ事さ」


 言われるや否や、ゼンタの心に浮かんだのは、ティサの事であった。

 ムスタファー邸の地下牢に囚われている彼女を迎えに行った際、ゼンタは酷い言葉を浴びせ掛けられた。普通だったら、愛想を尽かして自分だけ遠くに逃げているところだろう。が、自分は今も変わらずエイコンに居て、彼女の事を特別に思っている。こうして名も知らなかった傭兵を連れて、聖なる炎ではなかったが、それでも魔法の利かない存在を相手取って、危険な綱渡りをしている。ゼンタは自分でも、どうして是ほどまでにティサの事を特別に思っているか知らない。知らなくて良いとさえ、思っている。


「特別って云うのは、そう云う事ッスよね」

「そう…、そうかもしれないね」


 ゼンタが頷くと、セリオンは一層笑みを深めた。その眼の奥が冷え切っているように思えたのは、彼の持つ軽薄そうな雰囲気の所為か、死者を操ると云う罪深い行為を行うが故の冷徹さが彼に備わっている所為か、或いは又、真実彼に思いやりが無いからなのか。

 難しい事はゼンタにはわからない。そうして、今はそれを考える必要は無い。ゼンタは唯、あの首を早く処分しなければならないのだから。


「早く行こう。誰かに見付かっちゃうかもしれない」

「そんな見付かりやすい所にあるのか?」


 ラーセンが怪訝そうに問うた。不用心に思ったのかもしれない。

 今思えば、確かに軽率だった。見付かる危険は十分にあるだろう。が、見付かったところで持ち出すような恐れ知らずは自分くらいだと云う自信がゼンタにはあった。――それ程までに、あの首を手に持って運ぶと云う事は、不気味に思えてならなかったのだ。そうして、そう思うと同時に、自分はあの時どうしてそれを為す事が出来たのか、不思議に思う。

 ゼンタは震えを抑えるように両手を硬く握った。そうして、努めて笑顔を浮かべると、彼らを振り返って言った。


「教会の中に隠してあるんだ」


 此処エイコンで最も聖なる場所に、邪悪な首を置いて来た。――そう言い切った少年に、セリオンは今度こそ哄笑した。




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