大監獄アブラプトゥム 4 END
ルベリアとガードナーが地上へ戻ると、そこで待っていた騎士たちの表情が一気に輝いた。
彼らは口々に二人の無事を喜んだが、その実彼らが喜んだのは自分たちだけで不死者がいるかもしれない通路を通り抜けずに済んだことだろう。その証拠に、危地から脱したと思われる二人が再び先陣を切ることとなった。
不死身の亡霊の啜り泣きは、今度はあまり聞こえなかった。
最もルベリアは、聞こえたとて往路のように怯えることは無かっただろうと思う。彼女は最深部で、もっと恐ろしいものを見てしまったのだ。アレともう一度遭うかもしれない恐怖を思えば、亡霊の潜む通路を一度や二度通るくらいなんと容易いことだろうか。
「シェルグラス嬢」
騎士たちの甲冑が擦れる音を背後に、ガードナーがルベリアの名を呼んだ。
「わしは竜神の儀により選抜され竜騎士となった」
「え? ええ。存じ上げております」
ルベリアは怪訝に思いながらも頷いた。
ガードナー・スピンディルが大英雄と呼ばれる理由のひとつはそれである。バース・エッカルドで暮らす誰もが知っていることだ。
「竜騎士はドラコニカへと足を踏み入れたその時から、一生涯外に出ることを禁じられる。それを名誉とするか、哀れと思うかは人による。しかし、わしが歓喜したと言ったら、おそらく誰もが嘘だと言うだろう」
ルベリアは耳触りの良い否定の言葉を紡ごうとして、目の前の男がそれを望んでいないことに気付き、口を噤んだ。
「聖なる都へと移ってしまえば、この先アレと関わることは未来永劫有り得ない」
ルベリアは思わず目を見開いた。
そんな彼女を見下ろして、大英雄は笑う。
「わしが今日ここへとやってきたのは、アレがここにいることを確かめるためだ」
最深部のアレがルベリアの予想通りの存在ならば、竜騎士となったガードナーと相まみえる確率は驚くほど低くなるだろう。否、聖都ドラコニカに邪悪なるものは何人たりとも入ることはできなければ、小指の爪ほどの欠片であろうと存在すら許されない。
つまりガードナーは、聖都に着きさえすれば、二度とアレと対峙せずに済むのだ。
「地下では予想外の出来事に慌ててしまったが、結局ヤツの体は監獄の底。わしがドラコニカへと渡るまでに首と胴体を繋ぐことなど到底成し得ない」
ガードナーは清々しい表情をして言い切った。
ルベリアには、まるで勝ち誇っているかのように見えた。
「……大英雄ともあろう御方が、随分と弱気でらっしゃるのですね」
「なんとでも言うが良い。お前たちがどう思おうと、わしにはもう関係が無くなる」
まさに暖簾に腕押し。ガードナーはすぐに別れることになる小娘の言葉など気にするそぶりも見せずに切って捨てた。
ルベリアはそんな大英雄の姿を苦々しく思う。
竜騎士は名誉ある地位だが、限りなく娯楽の無い場所で一生を拘束される。絶対に成るものかと思っていたはずなのに、今は羨ましくて仕方がない。
「ひとつ助言をするとすれば」
今やガードナーは聞き分けのない子供を相手にするような顔でルベリアを見ていた。
「あのままにしておくのが一番ましだ。二度とここには近づかず、己が生と交わらぬことを竜に祈れ」
饒舌になりやがって。
ルベリアは胸に降って湧いた暴言を飲み込むと、ただ微笑んだ。