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ブルー・ブラッド傭兵団  作者: 雑魚メタル
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シエルの実 3

唐突に語り部口調で書きたくなったのでそういう感じです。

だいたい騎士がねちねち喋ってるだけ。面倒臭かったのでもうやらねぇ(戒め)

筆者自身が語り部口調は読み飛ばすタイプなので、同じような方は次話に飛んで頂いても一応問題ないかと思います。


 数日前のことです。私イオ・ヨアニスは、美しい月夜の晩に、悲しくも勇敢な聖処女――心の純潔は決して失われてはいない、美しきオビチュアリ様――の御手より、一枚の羊皮紙を預かりました。彼女はそれを私に託す側、この身を案じて、決して中を改めてはならないと仰いました。が、その際、言葉はありませんでしたが、私にはオビチュアリ様が仰りたい事がよくわかりました。云わば、魂の交流があったのでございます。……

 そうして私は、オビチュアリ様をお助けする為にも、その端緒となる彼女の願いを叶えるべく、その手紙を――羊皮紙の中身はとある御方の綴った私信にございました。私は、何としてでも、この国の宰相であるファウスト・ベイヤー・フォースタス閣下に渡さなければなりませんでした。


 時刻はとうに夜半を過ぎておりました。私は、警邏の合間を縫って、王城にある閣下の執務室を訪れました。と云っても、私は王都に勤める騎士団長でございますから、城の警備に当たっている者は皆部下か同僚でございます。此れと言った苦労はありませんでした。

 城内はひっそりと静まり返っておりました。常に扉の前に立っている護衛の騎士の姿も今は無く、貴族たちは寝所へと移り、騎士もそれに伴い離れているのです。私は、宰相閣下も同様であろうと思って、彼の部屋の何処かに手紙を隠し置いておくつもりでおりました。故に私は、周囲の眼を憚って、入出の伺いをせず、自分で扉を開けて中に入りました。――が、宰相閣下は、まるで私が来る事を前もって知っていたかのように、其処で待って居られたのです。私は驚きのあまり、扉の取っ手を握った儘、その場に硬直してしましました。けれども宰相閣下は、この無礼な男を叱責せずに、執務室の中へと引き入れられたのです。


 暫くして、驚きに停止していた思考が元に戻りますと、私にも辺りを見回す余裕が出て来ました。室内は几帳面な程に整理整頓されておるようでした。その中で、無数に備え付けられたランプが、一つだけ光を灯しておりました。執務机の上に置かれたもので、机の上を照らすほどの大きさしかありませんでした。おそらく同じ高さにある建物からでしか見る事が適わないでしょう。つまり、城の外側に向いているこの部屋の窓に、明かりが灯っていると気が付く者は、この世に誰一人として存在しないのでございました。

 灯に照らされた机の上には、何らかの資料が広げられた儘になっており、宰相閣下がつい先程まで職務に当たっていた事が見て取れました。そうして、それを照らすランプには、一晩灯し続けるにも十分な燃料が残っておりましたから、宰相閣下はまるで眠る事を知らない者のようでした。


「夜分遅くに申し訳ありません」


 私は観察の眼を止めると、第一に非礼を詫びました。すると、宰相閣下が、僅かに眦を下したように、私には見えたのでございます。そうして、彼は言いました。


「構わない。どうせ、首を掘り返す件の所為で眠れそうになかった」

「宰相閣下でもそのようにお思いになるのですか」

「君たち騎士が、私の事を普段からどう思っているのかよく分かるような台詞だな」


 宰相閣下は皮肉を効かせて、唇を反らしていらっしゃいました。我々騎士にとって、宰相閣下と云えば、元より冷静沈着――悪く言えば、人の心を知らない冷酷無慈悲な人物との噂が絶えない方でございましたから、私は随分申し訳なく思いました。

 しかしながら宰相閣下は、それ以上お咎めになりませんでした。彼は話題を転じて、私にこう問うたのでございます。


「それで、礼節を重んじるエッカルドの騎士が、こんな夜更けに前触れもなく訪ねて来るとは余程の事だろう。いったいアンホールド男爵令嬢に何があったのだね」


 私は驚きました。と云うのも、未だ手紙の事を口にしてはいなかったのでございます。どうして私がオビチュアリ様の願いを受けてやって来た事を知っているのだろうと、不思議に思いました。すると、私が疑問に思っている事が分かったのでしょう、宰相閣下はこう仰いました。


「なに、簡単なことだ。私は今日ここで共犯者と会うことになっていた。が、その相手が現れず、代わりに君が現れた。何か不都合があったと思うのは当然の事だろう」


 なるほど道理だと私は思いました。が、それ以上に気になる言葉がございましたので、問いを重ねるのは無礼だとわかっていましたが、気付いた時には、この愚鈍は問いを口から出してしまっておりました。


「共犯者とは?」

「その名の通り、共通の悪巧みをしている仲と云う事だ。……君は何も知らないで此処に来たのかね?」


 私は急に、言葉を忘れたように黙り込んでしまいました。喉の奥に物が詰まったような心持ちさえしておりました。宰相閣下の仰る通り、私は何も教えられてはいなかったのです。私が申し付かったのは、唯、手紙を宰相に渡す事だけでした。――否、寧ろ手紙とすら知らされては居ませんでした。筒状になった一枚の羊皮紙は、私ではない他の誰かであっても、その場に居さえすれば、託されていた物だったのかもしれません。そう思うと、私には、オビチュアリ様との間に感じた魂の交流すら、勘違いだったような気がしてなりませんでした。それは眼前が暗くなるような思いでした。

 が、そうして、暗中へと落とされた失意の中でも、私はオビチュアリ様の事を思い、宰相閣下へと手紙を差し出しました。如何なる時でも約束は果たすべきだと、一度やると決めた事はやり遂げるべきだと、――そう云った騎士道精神から成る我が信念に沿った行動でございました。


「それは何だね」


 宰相閣下は怪訝そうでした。


「オビチュアリ・アンホールド様より、宰相閣下に必ずお渡しするようお預かりしたものでございます」


 私がこう言うと、宰相閣下は意味深な視線をお向けになりました。浅学菲才の身でございますから、真意の程はわりません。思うには、私の言葉に嘘偽りが無いかお確かめになったのでございましょう。私がそれ以上言う事を持たないと判るや否や、宰相閣下の興味は手紙そのものへとお移りになりました。

 宰相閣下が手紙に目を通されている間、私は、唯一図に、オビチュアリ様をお救いする方法について、考えを巡らせておりました。そうして又、手紙を読み終えた宰相閣下も、同じ願いを抱いてくれるよう祈りました。が、それと同時に、この不人情な宰相閣下が、たった一人を救う為に、国の根幹を揺るがすような事実を公表するはずが無いと、諦観してもおりました。

 やがて、手紙を読み終えた宰相閣下は、私にこう問いました。


「君は内容を知っているのかね?」

「いえ、自分は……」

「知っているのだな」


 宰相閣下は、答えを聞くまでもなく、確信しているようでした。勿論、私は何も打ち明けてはおりませんから、宰相と云う国を導く才をお持ちになる方特有のものか、或は先にも申しましたように、浅学にして菲才なこの身の何処かに、自白するが如く露見する何かが有ったのでございましょう。

 言い当てられては仕方が無いと、否定をしなかった私に対し、宰相閣下は深い溜息をお付きになりました。そうして、それから、


「名は?」と、短く問われました。

「イオ・ヨアニスと申します」


 別段隠し通すべき事でもありませんでしたから、私は素直に名乗りました。と云っても、宰相閣下は、私の名などとうにご存知だったのかもしれません。その証拠に、彼の方は、私が申さなかった正式なる役職名でお呼びになりました。


「宮廷騎士団分隊長にて魔術院騎士団長を務める君は、どう思う」

「どうとは……」

「ここに書かれていることが事実だと仮定しての話になるが」


 と、宰相閣下は前置きをしなさってから、こう訊ねられました。


「この事実が、万が一にでも城の外へと、――いや、寧ろ貴族以外の者であれば誰であろうと同じだろう。その人物は、この事実を知って尚、この国の為に他の誰にも言わずにいられると思うかね。そうして、その時になっても、この国はまだ成り立っていられると言えるかね」


 私は、浅学でしたから、答える事が出来ませんでした。が、それこそが答えだったのです。宰相閣下は再び深い深い溜息をお付きになると、私に訊ねました。


「神聖同盟というものを知っているかね」


 そんなものは知らないと、私は答えようとしましたが、宰相閣下は又しても確信をお持ちのようで、私が口を開くのと同時に、話の続きを仰いました。


「君が知らぬのも無理はない。神聖同盟は、エイコンを中心とした市民街で秘密裏に結成された同盟だ。構成員は主に平民と移民で、その目的はエッカルド王族からの脱却。つまり、反乱分子だな」


 その言葉を聞くや否や、私は全身に水を浴びせられたような心持ちがいたしました。このイオ・ヨアニス、僭越ながら宮廷魔術院を守る任を受け賜わっておりますれば、エイコンと云う極近い場所に不穏分子がいる事に、肝を冷やしたのでございます。万が一にも王都で反乱など起こされれば、宮廷魔術院に居わす魔術師の方々――オビチュアリ様にも、危険が及ぶかもしれなかったのですから。


「何故、あなたはそのような事をご存知でいらっしゃるので」


 私は未だ恐怖に震えながら、訊ねました。

 すると宰相閣下は、悪戯っぽく口の端を反らして、こう仰いました。


「宰相たるもの、この国のすべてを把握していなければならなくてね。伝手はどこにでも広くあるものなのだよ」


 この時を以て、不肖ヨアニスは宰相閣下に対し、抗い難い憧憬と尊敬とを抱くようになったのでございます。オビチュアリ様が手紙を彼に託すよう言った事にも、納得がいきました。が、そうして、我が心の奥底では、悋気の炎が燃え立ったのでございます。

 宰相閣下は、今ばかりは愚盲になった様子で、私の心に燃え広がる炎に気付いてはおられませんでした。或は、酷薄な人にとってしてみれば、この程度の妬みや嫉み、気にする事ではないのかもしれませんでした。


「まさか今にして彼女の方から証拠を掴んで来るとは思わなかった。いずれ王妃にでもなった折りに頼めれば良いと思っていたのだが……」


 おそらく宰相閣下は、オビチュアリ様をお褒めになったのでしょう。しかし、私にはどうやっても喜べる事ではありませんでした。拳を強く握り締めて居なければ、この手は腰に佩いた剣へと伸びていたかもしれません。

 が、やはり宰相閣下はそんな私の様子に、全く関心を示されませんでした。


「ヨアニス、これを我らが同志へと届けてはくれないか」


 宰相閣下はそう言って、私が運びました手紙を付き返してくださいました。そうして、真意を問うべく顔を上げた私と目が合うと、又、悪戯っぽく微笑まれました。


「生憎とこの身分になってからは市民街を歩けなくなってね」

「私に市民街へ行けと仰いますのか」


 再び私は、体中が一時に凍えるような心持ちがいたしました。が、その起因は、前に感じた惧れからではありません。恐怖とさえ、違っています。私の中に在った差別的な意識が、――今まで気付かないふりをしていた選民思想が、この時を機会として、顔を擡げたのでございました。

 その折りに、宰相閣下はこうも仰いました。


「彼女がこれを本当は何処に預けたかったのか。私に渡すよう言ったその意味が解らぬ程、愚かな男ではないだろう。そうして、彼女もそう思ったからこそ、君に託したのだ」


 面前の暗がりが、急に明けたようでした。我が心の中で目覚めた悪感情の数々が、忽ち側へ向いたとでも申しましょうか、一時に形を潜めたのでございます。そうして、この眼が、希望を抱きながら輝いたのが、宰相閣下にもお判りになったのでしょう。


「盟主には『ミロシュの使い』と言えば通じる」


 宰相閣下は秘密の合言葉をお教えになると、再、冷酷無慈悲で不人情な御方となって、私の事など気にも留めないようになりました。が、その心根には優しさがあることを、私は今し方知ったばかりでございましたから、何も惧れることはありませんでした。


「このイオ・ヨアニス、騎士の名に懸けて、必ずや神聖同盟の主にお取次ぎいたします」


 騎士の礼に則って、恭しく、こう宣誓すると、私は宰相閣下の執務室を出ました。

 部屋の外は、先と変わらず暗く静まり返っておりました故に、私は足音を忍ばせて進みました。が、ふと、その時でございました。窓から射した月明かりの下に、オビチュアリ様の美しい御姿を幻想したのでございます。私は漸く、空に浮かぶ月がたいそう美しい事に気が付きました。

 すると、私の頭の中に、ある一つの信託が下ったようでした。――月の女神が如く美しいあの御方をお救いする為であれば、地に堕ちた如何なる者たちの手を借りようと、月も神も、お赦しになるに違いないと、そう思ったのでございます。……




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