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ブルー・ブラッド傭兵団  作者: 雑魚メタル
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隠された真実 2


 かつて、この国がまだ存在していなかった頃、この辺りには、ベペレルとアナトリアと云う二つの国があった。ベペレルは、優秀な魔術師たちが集い、その真理を求めて競い合う魔術都市で、アナトリアは、豊かな自然に囲まれた、神聖生物の多くが暮らす自然都市であった。

 その昔は、あまりの神聖さに、人の立ち入ること出来なかったアナトリアだが、ベペレルの研究により、人の住める場所へと変わり、生活基盤のすべてを魔術によって賄われていた。一方でベペレルも、アナトリアに生息する神聖生物が、魔術の真理に至る重要な研究材料となっていた為、両国は、持ちつ持たれつの関係にあったと言える。

 崩壊が始まったのが何時だったかは、伝わっていない。が、研究に行き詰ったベペレルが、アナトリアの民を使って、悪魔の如き実験を行ったと云う、幾つかの証言だけが、記録として残されている。

 折りに、突如として現れたアナトリアの青年エルトゥールルは、ベペレルに肉親を奪われた過去を持つ、勇敢な男だった。彼は絶望に暮れるのではなく、同胞を救わんとベペレルに反旗を翻し、其処で創り出された不死身の化け物と戦った。


 長く果てしない戦いが続いた。

 幾度蘇る怪物を前に、唯人であるエルトゥールルは苦戦を強いられた。そこに現れたのが、ベペレルの魔女とアナトリアの騎士との間に生まれた、一人の男。その名をガードナー・スピンディルと言った。

 始めこそ、ベペレルの血を引く男の事を、エルトゥールルは信じなかった。が、そうして、いつしか、二人は戦場で背中合わせるまでの仲になっていた。エルトゥールルは、ガードナー・スピンディルを友と認め、彼も又、己が傅くべき存在として、エルトゥールルを認めたのである。

 並び揃って戦場を駆ける二人の姿は、聖都に居わす貴き竜の目にも留まる事となった。彼らは、その崇高たる精神を尊ばれ、貴きものから青く輝く魔力を授かった。そうして、その力を宿した二人は、ついに化け物の首を斬り落とし、悪魔国ベペレルを滅ぼすに至ったのである。


 首を斬ったのが、その腕だったからであろう。代償として、ガードナー・スピンディルは呪いを受けた。その身は人の理を越え、ゆるやかな死を強制された。エルトゥールルは友の悲しい運命を嘆き、人ではなくなってしまった彼を英雄として迎え入れた。

 アナトリアの生き残りは、エルトゥールルの元、半不死身の英雄を受け入れ、共に国を興した。――それが、此処エッカルドである。アナトリアの救世主エルトゥールルが、エッカルド王として新たに生まれた場所であるから、バース・エッカルドと呼ばれるようになった。

 やがて、寄る年波には勝てずエルトゥールル王は死んだ。そうして、彼の息子が次の王となり、彼も又、父の偉業を称え、ガードナー・スピンディルを英雄と呼んだ。

 しかして、再び王が変わり、一人、又一人と、親しい者たちが死に逝く中、英雄ガードナー・スピンディルは、その身が真に朽ち果てるまで、ゆっくりと老い続け、この国を守り続けているのだ。……




 ***




 話を終えたダラントに次いで、まず口を開いたのは、ラーセンだった。


「あれは、ガードナー・スピンディルの血に着想を得ただけの御伽噺だろう」


 ゼンタには、彼らの云う話の殆どが未知の領域であったが、ラーセンがダラントの言に異議を唱えている事だけは、よくわかった。話の主軸がわかっているのは、大人たちだけだ。


「私も最初はそう思ったわ。けれどスピンディルがドラコニカへ渡ったのはそれが理由なの」

「建国記によれば、大英雄は化け物に勝ったじゃないか。どうして逃げる必要がある?」

「本当に勝ったのならば、どうして今も存在していると思う?」


 ゼンタが目を白黒させている横で、ルベリアとラーセンは素早く言葉を交わした。そうして、問いを問い返されると、ラーセンは何かに気が付いた様子で、息を呑んだ。

 すると、ルベリアは得意そうな顔をした。


「ええ、そうよ。そうなのよ。私もそれに気が付かなかった。英雄とはそう云う者であると、幼い頃から誰もが教えられて来た所為なのよ。ガードナー・スピンディルは、化け物を倒してなんかいない。唯、首を斬り落としただけだったの」


 静かになったのは大人たちばかりだった。ゼンタは、今し方聞いたばかりの話と矛盾している、――生物としての真理からも外れた発言を機に、口を開いた。


「で、でも、普通は、首が落ちたら死ぬでしょう」

「それこそが、化け物が化け物たる所以じゃないのかしら。いいえ、もしかしたら、アレは一度死んで弔われなかった所為で、不死者として蘇ったのかもしれない」


 自信の感じられない少年は、女の明瞭たる声に圧倒され、次を口にできなかった。が、それを気に留めるつもりが毛頭無いルベリアは、更にこう言った。


「王城の連中が、聖なる炎の使い手を探していたことは、当然知っているわよね。あれは、城の地下に埋められていた化け物の首を燃やすためだったのよ」

「わざわざ掘り返してか?」


 と、ラーセンは不可解とばかりに、首を傾げた。


「胴体と離れている内に、首を燃やして、今度こそ本当に葬るためよ」

「それじゃあ、駄目だ」


 ルベリアは自信に満ち溢れていたが、それを直ぐに、ゼンタが断じた。少年は、大人たちの理解と推測に、到底追い付いていないながら、まるでこの世の真理を語るが如く曇り無き眼で、女の言葉を否定した。


「ティサ姉ちゃんは、聖なる炎の使い手じゃないもの」


 ゼンタの言葉を聞くや否や、ルベリアは険しい顔をした。それは、今の是まで少年に対して向けられていたような、無価値な存在に対するのとは違った。そうして又、端から否定してかかって来るものとも、違っている。


「なによ、どういうこと?」


 少年に問う女の声は、変わらず不機嫌そうであり、又、震えていた。怯えの滲んだそれに、ゼンタが僅かに返答を躊躇った、その時である。


「しっ! 静かに!」


 急に、ダラントが強張った声で言った。と、思うと、扉を叩く音が、静まり返った部屋に響く。すると、続け様に、老いて枯れた声が、戸の向こうから聞こえて来た。


「ダラントやぁ、下に馬車が来ているぞぉ」

「おう! ありがとよ、爺さん」


 外へ聞こえるよう、ダラントが声を張り上げた。ゼンタは安堵の息を吐き、彼程あからさまではないが、他の二人も緊張に強張った肩を下した。穏やかなのは、未だ眠り続ける幼い少女ばかりである。

 扉の向こうを歩き去る音がして、ダラントも、漸く、詰めていた息を吐いた。


「話は後だ。今はとにかくアジトに向かおう」


 反論は、誰もしなかった。ルベリアも、このボロ宿を離れられる事に否やは無いのだろう、寧ろ、明らかに気色を浮かべている美しい顔は、やはり貴族らしさからは遠いように思えた。

 ダラントに続いて部屋を出ようとしたところで、ラーセンに動きが無い事に気付いたゼンタは、自然と、不思議そうな顔をして振り返った。――目が合ったラーセンは、驚いた顔をした。そうして、それから、直ぐに人の好い笑顔を浮かべて、こう言った。


「俺はスノーレを起こしてから連れて行くから」


 ゼンタはひとつ頷くと、今度は振り返る事無く、部屋を後にした。

 二人しか居なくなると、ラーセンは、それ迄のにこやかな様子が嘘の様に、表情を失くして、暫しの間、座った儘で居た。――そうして、彼は誰に言うでもなく、こう問い掛けた。


「体と首が離れているのに、どうして化け物は笑えたんだろうな?」


 女の話にあった矛盾を、鋭く突いた男の声は、その表情に反して、随分楽しげなものだった。と、同時に、暗く狂気を孕んだ瞳が、薄暗い室内の僅かな光を反射して、きらりと煌いたと思うと、ラーセンは喉の奥で笑い声を上げた。くぐもった嘲笑は、常の彼を知る者からすれば、驚愕に値するものだっただろう。が、今此処に居るのは、彼の他には、未だ眠り続ける少女だけである。驚きどころか、彼女は何の反応も返せない、――その筈だった。

 眠っていたはずの少女の眼が、そっと開かれる。すると、そこには、夢の残り香すら感じられない、確かな瞳が存在するのであった。




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