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第5話 私にアジトを見せて下さい

 ファントムとの出会ってから三日後。

 王国に向かっている僕たちに壁が立ち塞がった。

「うわぁ…」

「どうしよう、これ…」

 そこには、一般人が一列で並んでおり、兵士が怪しいものを持ち込んでいないかなどの確認をしていた。

 そう、検問だ。

「今の僕たちじゃ、絶対に引っ掛かるよね…」

「そうだね…」

 おたずね者が二人もいる状況で(僕も含まれてるかもしれないが)検問なんて無謀にも程がある。

 どこか別の道はないだろうか…

 そんなことを考えていると、ロビンが一つ提案をしてきた。

「なあ、あそこから王国に行けるんじゃないか?」

 ロビンが指差した先は、山だった。

 その山は、見上げるととてつもない高さで、所々急な場所もあった。

 一応道は出来ているが、かなり険しい道のりになることは確定だった。

「何の準備もなしにこの山を越えるのは無理だと思うよ?」

「ああ、わかってる。だから一度俺のアジトに戻って、準備するんだよ」

「ロビンのアジト?」

「ああ。ここから西に行ったところに、洞穴があるんだ。そこをアジトにしてるんだよ、俺は」

 まあ、いつ終わるかわからない検問を待つよりは、山を登った方が早いだろう。

 それに、あまりじっとしていると、ファントムに出会うかもしれないし…

「よし、それじゃあ行こうよ!ロビンのアジトに」

 話が纏り、僕たちは西にあるロビンのアジトに向かった。

 

 

 

 僕たちが西にあるアジトに向かってから二日が過ぎた。

「何か、思った以上に遠くない?このままじゃ街に着いちゃうよ?」

「ああ、だってアジト、街から近いし」

「ええ!?」

 僕は驚きの声をあげた。

 街の近くにアジトを作るなんて、いつ見つかるかわかったもんじゃない。

 そんな所に盗賊のアジトを作るなんて…

「はは!レンは予想通りの反応だな!ルナは反応してくれなかったが…」

「ごめん、心の声聞いちゃったから、知ってて…」

「そういやそうか…くそー次からルナを驚かせる方法を考えないとな」

「あはは…」

 本気で悔しがるロビンに対して、苦笑いをするルナ。

 だが、そんな彼女の表情は、何だか楽しそうだった。

 きっと、今までこう言ったやり取りをしたことがないから嬉しいのだろう。

 僕は、若干ずれてきた話題を元に戻すため、声をかける。

「ルナを驚かせる方法は後で考えるとして、何でそんなところにアジトなんて作ったの?」

「ああ、それはあれだ。灯台下暗しってやつだよ」

「灯台下暗しねえ…」

 本当に効果あるのかなあ、あれ…

 まあ、場所によってはあるのかもしれないけど、僕は怖くて試せないや。

「まあ、どんなところかは見てのお楽しみだ」

 ロビンはニカッと笑うと、スキップを始めた。

 ……随分とテンション高いな。

 初めて会ったのは最近のはずなのに、もうイメージが崩壊している。

 僕たちと会ったことで、昔に戻ったってことなのかな?

 だとしたら嬉しいけど…

「ロビンさんは嬉しいんだよ。自分のために何かしようとしてくれることが」

「えっ?」

「レンが臨む世界が、今の自分にとっての、唯一の希望なんだよ。その希望があるから、今を生きたいって思えるの。ロビンさんも、私も…」

「そっか…そうなら、嬉しいな」

 僕の臨む世界を、どれだけの人が臨むかはわからない。

 だけど、僕の臨みが希望を与えているのなら、こんなに嬉しいことはない。

「おい、どうした?置いてくぞ」

 ロビンは振り向いて、僕たちに手を振る。

 僕とルナは、互いを見合った後、ロビンのもとに走り出す。

 

 

 

 あれからしばらく歩いたところで、街が見えてきた。

 遠目から見たところ、白い建物がほとんどで、何だか神秘的な雰囲気を醸し出している街だった。

「街が見えてきたってことは、アジトまではもう近いの?」

「ああ、ようやくアジトを披露できるな」

 ロビンはアジトを見せるのが楽しみでたまらないようだ。

 街の横を進んでいると、洞穴の入り口を見つけた。

「ロビン、もしかしてあの洞穴が…」

「ああ、俺のアジトだ!」

 その洞穴は、どう見ても街から丸見えの場所にあった。

 灯台下暗しの意味を理解しているのだろうか。

 そのことに突っ込もうかと思ったが、ぐっと堪えて洞穴の中に入っていく。

 しかし入ってみると、そこには何もなかった。

「…………………」

「…………………」

「…………………」

 それを見た僕たちは絶句した。

 足下を見ると、数人の足跡が残されていた。

 おそらく誰かが持ち去ったのだろう。

 何も大丈夫じゃないじゃん!

 アジト見つけられてるじゃん!

 荷物盗られてるじゃん!

 僕とルナは、そんな感情を込めた眼差しでロビンを見る。

 ロビンはこちらの視線に気づかずに、肩を振るわせていた。

「………った」

「えっ?」

「誰が盗ったああああ!」

「うわあ!?」

 何か呟いてると思ったら、突然叫びだしたロビンに、僕たちは肩をビクッとさせた。

「誰が盗った!俺の命に等しい道具を、一体誰が!」

「ちょ、ちょっと落ち着いてロビン!」

「これが落ち着いていられるか!今すぐ犯人を特定しないと!」

 物凄い怒りだ…

 一体ここには、どんな大事なものが…

「キャアアアアアア!」

「!?」

 とそんなやり取りを洞穴でしていると、外から女の悲鳴が聞こえた。

「誰かの悲鳴!」

「行こう!」

「ああ!」

 僕たちが洞穴から出ると、近くで赤い長髪に黄緑のカチューシャを頭につけ、青いヒラヒラしたツーピースを着た女性が、三つ首の狼のような化け物に襲われていた。

 あんなの、見たことない…

 もしかして、あれがルナとロビンが言ってた、魔物ってやつなのか。

 僕は危機感を覚えながらも剣を抜き、二人もそれぞれ武器を構える。

 僕とルナが魔物に向かって走り出し、ロビンは弓で僕たちの援護をする。

 ロビンは魔物に向けて矢を放ち、一直線で突き進む。

 だが魔物は矢の接近に気づき、軽々と矢をかわす。

 その魔物を、僕が斬りかかるがかわされてしまい、距離をとられてしまう。

 だけど、これで襲われていた人と距離を離すことが出来た。

「早くここから離れて!」

「は、はい!」

 女性は、急いでこの場から離れる。

 これなら目の前の敵に集中出来る。

 だけど、あの魔物の速さは、普通に戦っても勝ち目はない。

 なら、一瞬の隙をつくしかない。

「ねえ、ルナ。あの魔物の隙、一瞬でもいいからつくれないかな?」

「うん。一瞬なら、ロビンさんとならなんとかなると思う」

「よし、それじゃあお願い!」

 僕はロビンにアイコンタクトで、ルナに伝えたことを伝えた。

 するとロビンは不敵な笑みを浮かべて、頷く。

 どうやら問題はないようだ。

 ロビンの反応を見たルナは、魔物に駆け寄り、二人で交戦を始める。

 僕は全身のマナを高め、いつでも魔法を使えるよう備える。

 マナとは、全ての生物に宿る命の源である。

 マナにはそれぞれ属性というものがあり、火、水、風、地、光、闇の六つに分かれている。

 全ての生物は、六つの属性の中から一つの属性のマナを宿しており、それに応じた魔法が発動できる。

 ちなみに僕は光、ルナが地、ロビンが風といった感じである。

 魔法を使うと、体に宿ったマナを消費するため、使いすぎると死の危険がある。

 だから魔法はマナの残量を計算して戦うのが定石である。

 戦況を見てみると、実力は五分といったところだった。

 個々の力だとこちらが不利だが、二人で連携することでそれをカバーしていた。

 だが、長期戦になれば明らかにこちらが不利。

 ならば、一撃で決めるしかない。

 僕は魔法の準備を終わらせた状態で、魔物に攻撃を当てる隙を伺う。

 するとそのチャンスがやって来た。

 ルナの攻撃をかわした魔物の足をロビンが射抜き、動きが止まった。

 今しかない。

 僕が魔法を発動させると、足下に魔方陣が浮かび上がり、光が僕を包んだ。

 そして僕は光の速さで魔物に駆け寄り、一瞬で魔物の目の前まで距離を縮めた。

 剣は光を纏い、それを振るうと 魔物は真っ二つになった。

 僕は魔物を倒したことを確認すると、その場で大の字で倒れ込む。

「ちょ、ちょっとレン、大丈夫!?」

「大丈夫大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」

 今の魔法はかなりマナを使うため、一度使うとかなりの疲労が溜まる。

 なので普段は使わないようにしている。

 僕は呼吸を整えてから立ち上がり、剣を鞘に納める。

 すると、ロビンと魔物に襲われていた女の人が、こちらに歩み寄ってきた。

「あ、あの、ありがとうございました!魔物から助けて頂いて…」

「いえ、当然のことをしただけですよ」

 僕は言葉を返すと、なにやら女の人の顔が赤いことに気がついた。

「あの、大丈夫ですか?顔赤いですけど…」

 僕の言葉に、女の人は肩をビクッとさせ、体をもじもじし始めた。

「ああ、そうですか…気づいてしまわれましたか…それでは、仕方ありませんね…」

 何のことを言っているかさっぱりの僕に、女の人は僕に抱きついてきて、耳元でこう囁いた。

 

 

「私、あなたに惚れてしまいました…」

 

 

 この時、僕の脳は停止した…

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