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第2話 私に突破口を下さい

 僕は、一緒に旅することになったルナを連れて、森の出口に向かって歩いていた。

 ルナに聞いたところ、ここは人間が暮らす大陸、エレツ大陸の南側にある森のようだ。

 確か南側は、戦場からは遠かったはずだ。

 なら、少なくとも戦争に巻き込まれるということは無さそうだ。

 そんなことを考えていると、ルナがこちらをチラッと見ながら尋ねてきた。

「ねえ、レンはどうしてこんな森にいたの?」

「どうしてって言われても…何か、目が覚めたら、いつの間にか森の近くで倒れてたんだ」

「いつの間にかって…その前は何をしてたの?」

「覚えてない」

「えっ?」

 ルナは立ち止まり、驚いた表情をして、こちらに顔を向ける。

 それを見た僕もその場で立ち止まり、体を彼女の方へ向ける。

「覚えてないんだ。目を覚ますまで、自分が何をしてたのか…」

「それって、記憶喪失ってこと?」

「そういうことだね」

「じゃあ、私に構ってる余裕なんてないんじゃ…!」

 僕は、心配をしてくれるルナに申し訳なさを感じながら、思ったことを正直に話す。

「何かね、最初はどうでもいいって思ったんだ、記憶のこと」

「えっ?」

「どうしてかはわからない。そんなことないって、頭のなかではわかってる。だけど、心はどうでもいいって、そう言ってるんだ」

「…………………」

「僕が以前、どんなやつだったのかはわからない。だけど、君を見たとき、何かを感じた。放っとけないって思った。だからまずは、君のことを何とかすることにしたんだ」

「そう、なんだ…」

 ルナは顔を下に向け、しばらく沈黙が続いた。

 やがて顔を下に向けたまま、彼女の口から言葉が発せられた。

「私は今まで、誰かの相談に乗ったことないから、何て言えばいいのかわからないけど…私は、記憶を取り戻してもらいたい」

 ルナの発言に、僕は無言で耳を傾ける。

「私がレンの立場なら、不安になると思う。自分が誰かもわからないなんて状況になったら。だから…」

 彼女は顔を上げ、何かを決意したような表情を見せながらこう言った。

「レンが私を助けるって言ってくれたように、私もレンを助けたい!記憶を取り戻してあげたい!」

「ルナ…」

 ……どうせ考えてることなんか、ルナには筒抜けなんだから、もう本音を言ってしまおう。

「正直に言うと、訳わかんなかったよ。頭で考えることと感情が一致しない…なんだか、心に大きな穴が空いたような…」

 僕は自分の胸に手を当てて、話を続けた。

「……何かね、ルナって僕とどこか似てるような気がしたんだ」

「えっ?」

「ルナを見てると、何だか自分を見てる気分になる。もしかしたら、君といると、自分が誰かわかる気がするんだ…だから…」

 僕はちょっと照れくさそうに言った。

「出来れば一緒にいてほしいな…」

 その言葉を聞いたルナは、目を見開いて、やがて涙をポロポロとこぼし、それを両手で拭うが涙は止まらない。

「えっ?ちょっと、何で泣くの?」

 僕は何か傷つけるようなことでも言ったか不安になり、うろたえてしまう。

「だって、嬉しいんだもん…今まで、一緒にいてほしいなんて言われたこと、なかったから…」

 ルナは必死に涙をこらえなければ、また泣いてしまいそうな、しかし笑っているようにも見える顔で話を続けた。

「私も、レンと一緒にいたい…私の力を知っても怖がらなかったのは、あなたが初めてだから…だから、私の方からお願い…ずっと、私と一緒にいてください…」

 僕はその言葉を聞いて、笑顔で手を差し伸べた。

「もちろん。改めてよろしく、ルナ」

 ルナは僕の手を取り、涙を溢しながら笑顔を向ける。

「うん…!」

 

 

 

 先程の話を終えて、僕たちは引き続き森の出口に向かって歩いていた。

 ただ、何だかルナの顔が赤いのが気になった。

 熱でもあるのかと尋ねると、先程のやり取りを思い出して恥ずかしがっているとのことだった。

 レンは恥ずかしくないのかと尋ねられたが、真面目に話をしていたし、恥ずかしい要素は見つからないと答えると、何故かふてくされてしまった。

 女の子は繊細だなと感じた瞬間だった。

 そんなことを考えていると、ぎりぎり聞こえる声で声をかけてきた。

「レン、誰かが私たちを狙ってる」

 それを聞いた僕は、足を止めずに尋ねた。

「本当に?気配は感じないけど…」

「間違いない。心の声が聞こえる…」

 それを聞いた僕は、ルナに隠れてるやつの場所を尋ねる。

「ここから三時の方向でこっちの様子を見てる」

「じゃあ相手に隙が出来たら合図を。こっちから仕掛ける」

 ルナは小さく頷き、相手の隙をつくために耳をすませる。

「相手、集中が切れた!今だよ!」

「わかった!」

 僕は三時の方向に走り出し、剣を抜いた。

 突然獲物が向かってきて動揺しているのか、正面からガサッと音がして、気配も僅かに感じるようになった。

 位置がハッキリとわかり、走る速度を上げると、茂みから突然矢が飛んできた。

「なっ!?」

 矢は僕の頭を狙って進んでいた。

 全力で走っている今の状況ではかわすことが出来ない。

 やられる!そう思った瞬間、背後から岩槍が僕の横を通りすぎ、矢を砕いた。

 後ろを見ると、ルナの手から魔方陣が浮かび上がっていた。

 てことは、今のはルナが放った魔法ってことか。

 助かった!ルナが助けてくれなかったら死んでるところだった。

 何はともあれ、相手との距離も僅かだ。矢を構える時間はもうないはず。

 僕は茂みを抜け、こちらを狙っていた男の前に対峙する。

 その男は、緑のフードを被り、黄緑の服の上にそよ風の模様が描かれた緑色のジャケット、そして少しブカッとした黒いズボンを着用し、膝の下まである焦げ緑色のマントを身に纏っていて、左手には木で作られた弓が握られていた。

「あんたは誰だ。どうして僕たちを狙った?」

 僕は真っ先にそれを尋ねた。

 すると男はこう答えた。

「俺は盗賊だ。盗賊が人から物をとるなんて当たり前のことだろ?」

 単純な理由だった。

 盗賊だから僕らの荷物を狙った。

「だったらこっちも容赦なくやれそうだ」

 僕は右足を少し後ろに引き、いつでも走り出せるよう構える。

 その直後にルナもこちらまで茂みを掻き分けてきて、息を整える。

 相手が持っているのは弓だけで、矢はどこにもない。

 どうやらさっきの一本が最後だったようだ。

 僕は走り出し、盗賊に斬りかかろうとする。

「二人とも伏せて!」

 だが、それはルナの一声で中止することになる。

 突然、水の弾丸が僕たちを襲った。

 僕が斬り落とそうとすると、盗賊の周りに風が吹き、手に魔方陣が浮かび上がり、そこから矢を生み出した。

 その矢で弓をかまえ、弦を引いた。

 そして手を離した瞬間、矢が無数に放たれ、全ての水の弾丸を射抜く。

 僕とルナは、その様子を見て呆然として、すごいと言葉を漏らした。

「そこにいるやつ、出てこい」

 その言葉を聞いて、前後左右から王国の鎧を着た騎士たちが姿を現す。

 そして僕らの正面から胸の辺りに紋章が貼られた騎士の男がいた。

 おそらくあいつが指揮官だろう。

 その指揮官が、口を開く。

「盗賊ロビンよ。今日こそ貴様を捕らえさせてもらうぞ。そして、そこにいるルナ、貴様もな」

 どうやらあの盗賊はロビンというらしい。

 そしてやっぱりルナも狙われているようだ。

 何とかしてこの状況を打破したいが、この数ではさすがに厳しい…

 そんなことを考えていると、ロビンが小さな声で僕たちに話しかけてきた。

「なあ、こいつらに捕まるのと、俺と協力するのと、どちらを選ぶ」

 まるで悪魔の囁きのようだった。

 ここで捕まりたくなければ、悪人である自分に協力しろって…

 だが、ここで捕まるわけにはいかないのも事実。

「協力すれば、この状況をなんとかできるのか?」

「ああ、約束してやる」

 僕はルナの方を見た。

 ロビンが信用できるか、それを確かめるために。

 僕の考えを読んだルナは、頷いた。

 信用しても大丈夫ということだろう。

 ならばここは協力する他ないだろう。

 僕は小さく頷き、協力の意志を示す。

 それを見たロビンは小さく笑い、小声で作戦を伝えた。

「いいか。俺が雑魚どもに矢を放つ。そこで態勢が崩れたところを全力で抜ける」

「わかった」

 作戦が決まったところで、痺れをきらした指揮官が怒鳴り出す。

「何を話している!早く降伏しないか!しないというなら…」

 指揮官が話している間に、ロビンは彼に背を向けて、矢を放つ。

 先程のように無数の矢を放たず、力を一本の矢に集合させ、兵士の壁を容易く貫いた。

「今だ!」

 僕たちは崩れた壁に向かって全力で走り出した。

 

 

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