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第六章 地球で、例の店で・・・

いよいよ完結、最終話です。

 ギィ

 開き始めた扉を素早くすり抜けて、先輩が店内へと入っていく。ドアを開けたのは例によって秘書だ。

「こんばんは」

 出迎えた店員に、先輩が声をかけた。

「おかえりなさい、ご無事でよかったでげすね」

「俺たちが旅に行っていたことを、あんたがたも知っていたのかい」

「ええ、人づてに聞いていました」

「そうかいそうかい」

「その旅行に行ったメンバーがこれからやってくるからさ、今日も特上のドリンクと食事をよろしく頼むよ」

「かしこまりましたでげす」

 先輩と秘書が食事を始めていると、ひとりまたひとりと店に集まってきた。

「こんばんは」

「よお」

「遅くなりました」

「よお」

 最後の到着になった後輩が席に着いた。

「これで全員が揃ったのかな」

 みんなで顔を合わせるのはあれ以来だ。

「じゃあ、再会を祝して」

 先輩が乾杯の音頭をとる。

「乾杯」

「乾杯」

「料理は店に任せておいたからさ、出て来たものを適当につまんでくれ」

「・・・」

「ところで、みんなその後どうよ」

「・・・」

 皆の口は重く、率先して話そうという者が出てこない。先輩が痺れを切らして後輩を突っついた。

「後輩、君はあれからどうしていたんだい?」

「僕から話を始めるんですか?」

「ああ、頼む。この一連の出来事のとっかかりは君だったんだからな。ここは先陣を切ってくれよ」

 後輩がワインに手を伸ばす。一口喉を潤してから、ゆっくりと話し始めた。

「宇宙人から私宛に葉書が届きましてね」

「葉書?」

「ええ。読んでみましょうか?」

「うん、頼む」

 内ポケットから葉書を出す後輩。

「暑中お見舞い申し上げます」

「暑中見舞いかよ、宇宙人からそんなものが送られてくるとはなあ」

「追伸、つきましては円盤を没収させていただきます。連帯責任ですので、あしからず」

「暑中お見舞いと円盤没収通知が一緒くたになっているんだな」

「ええ」

「それでつまりどういうことになったのよ」

「書いてあるまんまのことが起りました」

「ほう」

「・・・連帯責任って、どういうことなんでしょうか、どなたか心当たりのある方はいませんか?」

「ふーむ」

 しらばっくれる先輩。

「先輩は一体何をなさったんですか?」

 後輩が先輩の顔を覗き込む。

「おいおい、連帯責任だと書かれているだけだろ、俺が原因だと決めつけるなよ」

「では、先輩には身に覚えがないというんですね」

「まあ、ない事もないかなあ」

「いったいなにをしでかしたんですか?」

 先輩の顔十センチにまで自分の顔を近付けていく後輩。

「うーん」

 先輩が横を向いて唸っている。

「葉書にはまだ続きが書かれていいます、読み上げますよ」

「う、うん」

「監督不行き届きでしたね。あなたにはリーダーの資格はありません、そう書かれています」

「ふーん」

「僕は地球のリーダー資格も失ってしまったようなんです」

「いつの間にリーダーになっていたんだ?」

「僕だって知りませんでしたよ」

「自己申告していたんじゃあるまいな」

「それはずうずうしい話だ」

「先輩、さっさと白状してください」

 先輩は葉巻を灰皿に置くと、椅子から重い腰を上げた。

「円盤をね、一兆円でJAXAに売りつけようとしたんだよ。ところがさあ、電話口にでたのがあそこに潜入していた宇宙人らしくてさ。円盤をそいつに取り上げられちまったんだ」

「そりゃ没収されるでしょうよ。しかしなんでまたそんな行動に出たんですか? 普通に乗っていればよかったものを」

「俺はね、円盤を元にして大金を生みだしたかったんだよ」

「やっぱり、お金儲けですか」

「ああ」

「まったくもう」

「たださ、たったの一台ぽっちでは商品にはならないだろ」

「いただいたものでしょ、売り物ではありませんって」

「うちのグループ会社が一丸となって円盤の複製を試みてみたんだが、どうもうまくいかなくってさあ。技術レベルが違い過ぎるようで、まるで歯が立たなかったらしいんだよ」

「はあ」

「コピーの一台すらできやしないんだから、大量生産どころの話ではないよな。商品化は不可能だと諦めたときに、ふと思ったんだよ。だったら一番欲しがりそうなところに高値で売り払ってしまおう」

「困った人だなあ。ふうー」

 力なくため息をつく後輩。そのタイミングに秘書が声をかけてきた。

「後輩さん」

「はい、秘書さんなんでしょう? あなたもこんな社長を持って大変ですねえ」

「実を申しますと、私も円盤を取り上げられてしまった口でして・・・」

「えっ、秘書さんもなにかやらかしたんですか・・・」

「面目ない!」

 頭を下げる秘書。

「はじめの頃はおとなしく円盤ライフを楽しんでいたんですが、運転に慣れてきたところに、眠っていたはずのスピード狂の気が目を覚ましてしまいましてね。土星の輪にはぶつかるわ、太陽には突っ込みそうになるわで。こっちとしてはスリルを味わえるからと楽しんいたのですが、宇宙人の側からしてみると、ひやひやさせられることの連続で、気が気でなかったようです。運転している自分よりも、あちらの方々の方が恐怖を感じてしまったらしくて」

「それで没収ですか」

 秘書が頷く。

「あなたの運転は常軌を逸していて、大きな事故を起こしかねません。そんな場面を見せられたくはありませんから、とのことで・・・」

「ふーん」

「円盤は燃料補給で基地へと行ったきりで、私のところへはとうとう戻ってきてはくれませんでした」

「円盤がフルスピードを出して飛び回っていたのでは、確かに危なっかしいわなあ」

 当局が話し始めた。

「俺はおとなしく乗っていたんだがなあ。中空で静止させた状態で、のんびりと星空を眺めていたんだよ」

「使用に問題点はなかったんですね」

「初めはね」

「あーあ、あなたも最初だけだったんですか」

「あるとき、辺りのビルの方へとふと目をやってみたら、住人が喧嘩をしていたり、変な踊りをしていたりと、けっこうおもしろい場面に遭遇してね」

「のぞきですか」

「違う、眺めていただけだ!」

「宇宙人はそうは思ってくれなかったんでしょ」

「まあ、そういうことにはなるな」

「で、結果的には円盤を没収されてしまったわけですね」

「円盤に覗き趣味があるなどと、風説が流れ始めたらたまったものではないと、それが没収の理由だったよ」

 続いて技術者が口を開いた。

「平和利用をしましょうと、自分の希望を伝えてみたところでなあ・・・うちの上層部はなあ・・・」

「うんわかった、君の言うとおりにしよう・・・そうは言ってはくれなさそうだと思えたわけだ」

「なるほど」

「武器として使用されてしまうことが嫌だったんだよなあ」

「うんうん」

「そういったわけで、俺は円盤を手に入れたことを職場には報告をしなかったんだよ」

「はあ」

「俺っておしゃべりだからさ、本当は言ってしまいたくてしかたがなかったんだけどね。ぐっと我慢をしていたんだな」

「なるほどね」

「あとは技術者としての俺が何をどうすべきかだったんだ」

「ふんふん」

 みんな技術者の話をおとなしく聞いている。

「最先端技術の集大成である円盤を手に入れることが出来たんだ、実にうれしかったよ。なんといったって俺も技術者のはしくれなんだからな」

「うん」

「分解をして、ひとつひとつの部品を入念に調べてはみたんだが、今自分の持っている知識を総動員してみても、外も中もなにがなにやらちんぷんかんぷんさ。理屈を理解していないから、円盤を元の姿に戻すことも出来ない始末で、もちろんもう飛ばすことは叶わない」

「はあ」

「宇宙船がやってきて、粗大ごみとして回収されてしまったんだよ・・・」

「なるほど、ここにいるメンバー全員が、僕が連帯責任を負わされた原因だったんですね」

 後輩がそうつぶやいて、うなだれる。

「面目ない」

「円盤をあなたの基に残しておいたとしても、メンバーがあなたのところにやってきて、必ずや悪さを始めることでしょう。これからは友達を選んだらどうですか? そう書かれてあったのはこういうことからだったのかあ」

「随分と長い追伸だなあ、ははは」

 先輩はもう立ち直ったようで、口が軽やかだ。

「みんな平等でよかったじゃないの、なあ」

 などと言っている。

「平等ですって? どこが平等なんですか、あなた方が加害者で、僕は被害者でしょ。あーあ、円盤のことは誰にも言わないで、あのまま一人で乗っていればよかったなあ」

「今更言うなよ」

「これで元の単なる貧乏サラリーマンに逆戻りだあ」

「俺たちだって元に戻ったんだ。みんな一緒、それでいいじゃないか」

「やっぱり俺たち地球人にとっては、円盤を手にするのがまだ早すぎたんだろう」

「なにを解ったようなことを」

 後輩が先輩にくってかかる。

「解ったような、じゃない、解ったんだよ」

「そもそもがですよ」

「まあまあ」

 先輩と後輩が引き離される。

「少しずつ成長しましょう・・・か」

 当局がそうつぶやく。

「宇宙人が、そんな意味のことを何度も言っていたっけなあ」

「欲は程々に持っているくらいでちょうどいいということが、よーく解ったよ」

 嘘かホントか先輩の口からそんな言葉が出てきた。

「日々コツコツと地道に研究していれば、それでいいのかもしれないなあ。結果は時代の成り行きに任せると・・・」

 そう言ったのは技術者だ。

「たとえ小さくとも新しい発見をした、その瞬間に立ち会えることをうれしく思えと・・・」

「解ったんだねえ」

「そこに至るまでの苦労も、また面白いものであると」

「うん、そうなんだろうなあ」

「やっぱりまだるっこしいことは俺には無理かなあ」

 これは先輩だ。

「そこで、足るを知る、の登場ですよ」

「あれ? それはどっかで耳にした言葉だなあ」

「欲張り過ぎない方が身のためだという事を意味していましたよね」

「諦めたくはないぞ」

 技術者が力強く言う。

「その気持ちは持ち続けていていいんですよ」

「ヒントをいっぱいもらったことだし、宇宙人に出来て俺に出来ないというのは悔しいことだしな。なんとか円盤の謎を解明してやりたいんだ」

「諦めないけど急ぎ過ぎない、マイペースでやればいいんじゃあないですか」

「せっかちが俺のマイペースなんだがなあ、ははは」

「思い出が残ってくれているから、今の俺は満足しているよ」

 しみじみと当局が言う。

「未来のことが思い出になるというのも妙な気分ですね」

 秘書が珍しく表情をほころばせた。

「いい夢を見させてもらったよ」

 これは先輩の口から出た言葉だ。


「お客さん、飲み過ぎですよー」

「なんだとー、誰に対してものを言っているんだあ」

「あなた方全員に対してですよ。まったくもう、酒に対しての足るを知るがまるっきり出来ていないじゃあないですか」

「うるさい、これが飲まずにいられるかっていうんだ」

「宇宙人達とも円盤とも、もうお別れになってしまったんだぞ」

 店内はいつの間にか人で一杯になっている。隣のテーブルの客が後輩に声をかけてきた。

「あなたたちのテーブルは随分重い空気で満たされているでげすねえ。陽気に飲めないものなんでしょうか?」

「俺たちのことは放っておいてくれ。落ち込む時には徹底的に落ち込んでいたいんだ」

 他の客は全員宇宙人。すでに酔っぱらっているメンバーたちにはそれが見えていない。

「月行きの便が出る時間ですよー」

 店員が店内の客に向かってそう叫んでいる。

「なんだ? 大月行き? 電車か?」

「店が終電の案内をしてくれているんだろうな」

「まあいいや、今日は車で送ってもらうことにしよう。秘書さんわるいけどあとで僕を送ってくださいな」

「それは無理です。今日は私も飲んでしまっているものですから」

「月行きの白タクが来ましたよー、ご利用の方どうぞ―」

 店員が入口でそう叫んでいる。

「さっきから大月大月とうるさいなあ。中央線からなにか貰っているのか?」

「また大月行きかよ、俺は逆方向なんだよね。しかたがない、タクシーで帰るか」

「そのときは僕も相乗りさせてください」

「あーあ、こんなときに円盤があったらなあ」

「そうですよね」

 月へ戻る宇宙人たちがテーブルの横をぞろぞろと通っていく。

「月のことをつい思い出しちまうよ。円盤に会える日がまた来てくれるのかなあ」

 この店に来れば店員も客も宇宙人ばかり。そのことに彼らはいつ気付くのだろうか。彼らの思い描く未来の世界は、紆余曲折を交えながらではあるが、始まり始めている。


最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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