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第五章 それぞれが思いを語りました

「ちょっとちょっと」

 呼びかけの声が休憩している宇宙人の耳に入った。きょろきょろと辺りを覗う。

「こっちだよ、こっち」

 母船の陰で手招きをしている先輩の姿を見つけた。宇宙人が移動して、先輩に用件を尋ねる。

「なんの御用でしょう」

「円盤をさ、地球で売りだすことにしよう」

「はあ?」

「俺が買い手を探したり、販売したりと一切合財をやるからさ、あんたは納品してくれるだけでいいんだ」

「いきなりなんの話ですか?」

「円盤がどうやって動くのだろうかとか、何で出来ているのだろうかとか、そういう話は俺にとっては、もうどうでもいいことなんだよ」

「はあ」

「これだけは言える、爆発的に売れること間違いなしだ」

「売る?」

「そうだよ。地球で円盤を売って、一緒に儲けるんだ」

「儲けるとは?」

「お金がガッポリと懐に入ってくるということさ」

 宇宙人は首を傾げながら、

「私らが地球のお金を手に入れたとしましょう。それをどこで何に使えというのですか?」

「そうか、月では地球のお金は使えないんだっけ」

「もちろんですよ」

「じゃあこうしよう。月でも地球と同じ貨幣を流通させるんだ」

「そんなことをしてなんになります?」

「欲しいものをたくさん買うことができるだろ」

「今でも欲しいものは手に入れているんですが」

「もっと欲しいだろ。地球とここのお金とを交換できるシステムを作ろう」

「あのですね、月にはお金というものは存在しないのですよ」

「え? お金がないって?」

「そうですよ。それでもちっとも困ることなしに暮らしていけているんです」

「ふーん」

「私たちの生活の中で、お金の必要性は感じませんねえ」

「ちょっと待ってくれ、お金が不要? では聞くけれども、そもそも宇宙人はいったいどんなものを報酬として受け取っているんだ?」

「それは感謝です」

「感謝? そんなものは腹の足しにもなりゃしないだろう」

「なりますよ。日本円に換算したとすると、どうもありがとう、とお礼を言われるレベルの感謝で、だいたい千円くらいでしょうかね」

「ふーん」

「助かったよ、程度の感謝で五百円くらいかな」

「よくわからないなあ」

「将来的には地球でもそういった報酬体系になるんですよ」

「そんなシステムはイメージできないよ」

「何処の星でも同じで、進歩していけば、いずれはそうなっていくものなのです」

「まったくのはてなマークだ」

「今はまだそういったことを聞いたとしてもピンとはこないでしょう。だって、まだずっと先になってから起こることになる話をしているわけですから」

「ふーん」

「進歩というものは、星によって多少の違いが出てきたりもしますが、大方は同じ様な経過を辿っていくものなのですよ。そしてそれは、一段飛ばしで進んで行くことが可能なものでもなければ、高速で次の段階へと移行して行けるようなものでもありません。現在のしくみが今暫くの間続いたその先に、通貨制度から生みだされる弊害が次から次へと表出してきます。それからゆっくりと時間をかけながら幾段階かのステップを踏んだうえで、望むと望まざるとには関わらず、我々と同じ制度へと移行していくことになるのです」

「ふーん」

「ちなみにあなたは、どうして円盤の販売を手掛けたいと思ったのですか?」

「いい金儲けになりそうだからさ」

「あなたは貧乏なのですか?」

「貧乏だなんてとんでもない。充分すぎるほどのお金持ちですよ」

 いつのまにか傍に来ていた後輩がそう口をはさむ。

「そうですか、でしたらこれ以上稼ぐ必要はなさそうですね」

 先輩に背中を向け、立ち去っていく宇宙人。

「待ってくれ!」

 あわてて宇宙人の肩に手をかけ、引き留める先輩。

「まだなにか?」

「本当の理由は別にあるんだよ、そいつを聞いてくれ」

「はあ」

「俺はうちの姉ちゃんのことを見返してやりたいんだ! 円盤の商売で利益を出して見せれば、その願いが叶えられるんだよ」

「よくわかりませんが? なんの話なのでしょう」

「先輩にはお姉さんがいるんですか?」

「ああ、うちの会社の会長さ。やり手でね、姉ちゃんがいてくれたからうちの会社が成り立っているようなものなんだ」

「じゃあ、先輩がお金持ちなのは・・・」

「そう、すべては姉ちゃんのおかげなんだよ」

「そうでしたか」

「お話し中にすみません」

「俺達も円盤が欲しいぞ」

 いつの間にか、一同が勢ぞろいしている。

「私たちに円盤をください」

「円盤だ、円盤をよこせー」

「あーうるさい、うるさーい!」

 宇宙人の、らしくない大声に黙る一同。

「大勢からやいのやいのとまくしたてられても困ります。一度にまとめて対応するなどという芸当は、私にはできないんですから」

「すまなかった」

「訊いて差し上げますから、ひとりずつ順番に話してください」

「ありがとう、じゃあ俺から話そう」

「いーや、僕が先だ」

「俺だ」

「あーもう、収拾がつかないなあ。じゃんけんで順番を決めてください。念のために言っておきますが、宇宙人は万能であるとか、お願いすれば何でも叶えてくれるだとか、そんなことはありませんからね。出来る相談と出来ない相談があるのは宇宙だろうと地球だろうと一緒です。とりあえず、収拾がつかないから話だけは聞くということです、よろしいですね、ふうー」

「はい、わかりました」

 じゃんけんの結果、陳情の一番手は技術者に決まった。


「あなたのお望みはなんなのでしょう?」

「円盤の動力について知りたいんです」

「ほう、動力に興味を持たれたんですか」

「ええ。一体全体、どんな動力を使えば空中で物を浮かせたり自由に移動させたり出来るのだろう・・・私が抱えているこの謎の答えを教えてもらいたいんです」

「それについては教えて差し上げられませんねえ。地球人自らの手でもって見つけだしてもらうべきものなのです。進歩の階段を一歩一歩登っていけば、いずれこの動力へとたどり着きますから、それを待つことですね」

「その日を迎えるまでには、いったいどれくらいの期間を要するものなのだろうか」

「地球が辿ってきた今までの進歩スピードから推測すると、ざっとみて50年から100年といったところでしょうか」

「そんなに・・・随分とかかるものなんだなあ。まあ、技術者の俺をもってしても、円盤が飛んでいる理由が、まだ皆目見当すらついていない段階なんだから、そんなものなのかねえ」

「たったひとつの大発見があっただけで円盤が出来上がってくれて、まぐれ一発即ゴール、なんていうようなわけにはいきませんからねえ。数々の新発見が積みあげられて、やっとのことで成果が表れてくれるわけですから、それくらいの時間は必要ですよ」

「すでに実物が目の前にあるというのに・・・それなのになあ・・・はがゆいなあ」

「あせらないあせらない、地道に歩んで行きましょうよ」

「それは無理だねえ、好奇心に火がついてしまったんだ、すぐにでも知りたい気持ちは増すばかりさ」

「困りましたねえ」

「頼みます、ヒントだけでも貰いたい」

「ヒント?」

「お願いします」

「いいでしょう。うーん・・・あのですね、この月だって、太陽だって、常に動いているということは理解していますよね」

「ええ。宇宙にある星のすべてが動いていて、一つ所に留まっているものは、ひとつとしてありません」

「そうですね。さあ、今の中にヒントがありますよ。まあ頑張ってじっくりと研究してみてください」

「降参です、よくわかりません。第二ヒントをください」

「ずいぶんと早い降参ですねえ・・・じゃあ、月にエンジンはついていますか? 太陽にプロペラがついていますか?」

「うーん、第三ヒントをください」

「あなたねえ、いったい幾つまでヒントを要求するおつもりなんですか?」

「無論、答えが解るまでです」

「どうしてそんなにまでして急いで知ろうとするのでしょう、本当に好奇心からだけなのでしょうかねえ」

「実を言うと、他にも理由はありまして」

「やっぱりそうでしたか」

「直接自分の仕事とは関係のないことなのですが、日本の道路の渋滞を緩和させたいと私は常々思っていましてね。そのためには道の本数を増やしてやることが望ましいと考えていました。道は地面だけに限らず、地下にも通すアイデアを練っていたんです。費用も労力も年数もかかりますが、私にはその線しか思いつきませんでした」

「なるほど」

「ところがです、今回円盤と出会う機会をもらえたことから、夢のような修正案が浮かんできました。空も道路として使うことを作戦に加えるというものです」

「ふむ」

「空でしたら何層もの道を通せます。そこを円盤に通ってもらうのです」

「円盤が大量に流通する時代が訪れてからの話になりそうですね」

「地球人が自力で円盤を作りだすのであれば問題はないでしょ。私が円盤を一台貰えたら、死にもの狂いで研究します。あなた方の持つ技術を必ずや解明して、地球製の円盤を量産してみせます」


 続いては秘書の番である。

「私、車の運転がすこぶる好きでしてね」

「ほう」

「元々、私がうちの会社に採用されたのは、社長の車の運転手としてだったんですが、いつの頃からか、秘書の役割も任されるようになってしまいまして」

「なるほど」

「私のメインの役割は運転手だったのです」

「そういやあそうだったなあ」

 先輩がそう呟く。

「私は円盤の運転もしてみたいのです」


 次は当局の順番だ。

「俺が若かった頃の話なんだが・・・まあずいぶんと昔の事になってしまうんだけどね、自分が天文好きだったということを、今回の騒動の中で思い出したんだよ。そうそう、星座のサークルに入っていたこともあったなあ、なんて具合にね」

「なるほどねえ」

「いやあ、お恥ずかしい」

「なにをおっしゃいますか、恥ずかしいことなんてないですよ」

「そうかい?」

「もちろんです。実にロマンチックな趣味ですよ」

「ありがとう」

「どういたしまして」

「そんなこんなで、昔あったいろいろなことを思い起こしているうちにね、天の川を円盤で縦断してみたいなあ、といった願望が湧き上がってきたんだな」

「円盤の飛行は、認められていないんじゃあなかったですか」

 後輩が口を挟む。

「もちろんそうだ」

「あなたはそのルールを守るべきでしょう」

「なんで?」

「だって、僕に対して散々厳しいことを要求していたじゃないですか。自分でも守るのが筋というものです」

「私は他人には厳しく要求をするが、自分に対しては甘いんだよ、えへん」

「胸を張って言えるようなことですか」


 最後は後輩だ。

「みんなの口車に乗せられて、地球人相手に円盤を売ったりあげたりするなどということはなさらないでくださいね、お願いしますよ。地球で誰もが円盤を持つようになってしまうなんて、僕には賛成できません。取柄のなかった自分がやっと手に入れることができた優越感なんですから、それを奪わないでください」

「はあ」

「地球上では誰ひとりとして持っていない円盤、それが自分の手元にあるということが、私の独占欲を満足させてくれているんです。持っているだけでもうれしいんです。この優越感をずっと感じていたいんですよ」

「ずるいぞ」

「そうだそうだ」

「身勝手です」

 パンパン

 手を鳴らす宇宙人。みんなの視線が一斉にそちらに向いた。

「みなさんの話は、ひととおり聞かせてもらいました」

「さあ、返事をくれ」

 宇宙人に詰め寄っていく一同。

「円盤はお売りしません。あげもしないし、技術も教えません」

「ぶー」

「地球人が円盤を手にするのは、まだ時期尚早であると申し上げた点について、もう少し補足説明をしておきましょう」

「そいつはありがたいことだなあ、ふん!」

「地球人は、乗り物を乗り物として使うだけでは満足しないという面を持ち合わせていますからね。その点もネックになっています」

「どういうこと?」

「どんな乗り物にでも、武器をくっつけて兵器に変えてしまうでしょう。過去の歴史がそう物語っていますよね。陸では車を戦車にしてしまったし、海では空母や潜水艦、そして空では爆撃機だ」

「言われてみれば確かにそうだな」

「新しい乗り物を手に入れたとしても、やはり同じことを繰り返すに違いないでしょう。この懸念を払しょく出来ないかぎりは、円盤を地球人の手に受け渡すわけにはいかないのです」

「そうは言うけど、後輩には円盤をくれたじゃあないか、えこひいきだろう」

「ときたま地球人に対してのテストをさせてもらっていましてね。今回もその一環として円盤を後輩さんに譲渡することを許可されたのですよ。結果はみごとに不合格でした、残念です」

「理由は?」

「今回の搭乗者の中に、武器の専門家がまぎれこんでいたのですよ」

「本当かよ」

「本人の意思でやって来たのか、どこぞからの命令があって潜入してきたのかは解りませんが、純粋な気持ちで乗り物としての円盤に興味を持って参加したというわけではなかったのでしょうね」

「で、その不届き者はいったいどいつなんだ?」

 みんなが宇宙人に注目する。

「私の口から言えとおっしゃるのですか?」

「もちろんだよ。知っているのはあなたなんだからね、教えてくれなくちゃ困るよ」

「それはお断りします」

「え? なんで?」

「犯人に逆恨みでもされたらたまったものじゃありませんからね」

「誤認逮捕でなければ、恨まれることはないさ」

「いやいや、当たっていても恨まれますよ」

「証拠はあるんだろ。そこを突かれれば観念するさ」

「それはそうでしょうが・・・」

「聞かせてくれ」

「嫌ですってば。あなた方内々の問題なのですから、自分たちで調査してください」

「おいおい、メンバー同士でお互いを疑い合えと、あんたはそう言うのかよ」

「そんなのってひどいよ。我々はね、今までお互いを信じ合ってきた仲なんですよ」

「そうだそうだ、俺たちは冷血動物じゃあないんだぞ」

「地球からここまでの長い道のりを、みんなで力を合わせてやって来たんだ」

 宇宙人に向かって熱く訴えるメンバーたち。

「距離はあったでしょうが、時間は大してかからなかったのでは?」

 宇宙人がそう水を差す。

「俺たちはこの旅行の間に強いきずなで結ばれる仲間になったんだ、そういうことを言いたいんだよ」

「初めて顔を合わせたのだって、つい最近のことでしょ。お互いをまだよく知りもしない、そういった間柄なのでは?」

「そう言われると、身も蓋もない。なにしろみんなのことはまだ名前すら知らないんだからなあ」

「そうですよね。でしたら遠慮なんかはいらないじゃありませんか?」

「うーん」

「さあ、自分たちで、犯人を炙り出してください」

「そんなことを言われてもなあ」

「なにも今すぐここで暴けと言っているわけではないのです、あとでゆっくりやればいいんじゃあないですか」

 宇宙人からの忠告には耳を貸さずに、一同がなにやら相談を始めた。顔を突き合わせること一分。

「じゃあ、そういうことで」

 先輩が相談結果を持って宇宙人に歩み寄る。

「犯人は解らなかったよ」

「また随分と諦めの速いことで」

「時間じゃあないよ、充分中身の濃い話し合いをしたんだ。もう降参だ、さあ正解を教えてくれ」

「そう言われてしまうと、教えないわけにはいかないような気になっちゃうな」

「だろ」

「この中にいる武器の専門家というのは・・・」

「のは?」

「いったいどいつなんだ」

「それは彼です」

 指を指されたのは技術者だった。じりじりと後ずさりをする。

「な、なんでわかったんだ!」

「なんとなくそうかなあと」

「へ?」

「まあ、単なるあてずっぽうですよ」

「ちっ、なんだよ、かまをかけやがったのかい。宇宙人というのは随分とこすっからい手を使うものなんだなあ」

「嘘ですよ、嘘。本当はこれを分析して解ったんです」

 一枚の名刺を出して見せる。

「あなたが私に自己紹介をなさったときに、くれたものです」

 名刺には、防衛省、武器調達担当事務官と書かれている。

「分析とは大げさな、ただ読んだだけじゃないですか」

 後輩がつっつく。

「驚いた人だなあ、そんなものを手渡していたのかよ」

 先輩が名刺を覗き込みながら呆れている。

「いつもの習慣で、つい差し出してしまった」

「いいですね、皆さんはもう円盤のことを諦めてください」

 宇宙人が腕時計に視線をやりながら、そう通告する。

「おっと、もうこんな時間になるのか、ちょっと失敬」

 宇宙人が上着の内ポケットから小箱を取りだして、なにやら指先で操作を始めた。5メートル四方はあろうかという巨大なディスプレイが突然目の前に現れた。基地に来る道すがら見かけた月面駐車場が写し出されている。円盤は一斉に離陸を始め、そのまま上昇すると空一面を数万の円盤が埋め尽くした。

「すげえ」

 一同が画面に見入っている中、

「なにをなさっているんですか?」

 技術者が宇宙人に問を投げかけた。

「ちょっと円盤の一斉点検をね。どうです、圧巻の景色でしょう」

「はい、スケールの大きさに圧倒されますよ」

「点検用の光線を円盤に照射して、故障の有無を確認しているんです」

「地面に着地させたままの状態では、その作業は出来ないんですか?」

「え?」

「離陸させるという一見余計なひと手間をかけていることに、何か理由があるのかなと思いまして」

「・・・」

「まさかそんなことに気づいていなかったなんていうことは・・・」

「こうした方が綺麗に見えるのだから、これでいいんです!」

 宇宙人の顔が赤くなっていく。

「それではエネルギーの無駄遣いだなあ」

「ふん、放っておいてくださいよ、どうせやるなら芸術的に見えたほうがいいじゃあありませんか」

 ピカッ

 一台の円盤が点滅を始めた。

「おっ、なんだなんだ?」

 先輩がディスプレイに顔を近付ける。

「円盤の中にまだ残っている者がいたようですね」

 宇宙人の説明に、

「なるほど、そういうことか」

 と、納得した様子の先輩。

「あの円盤の持ち主はと、・・・ああ、またあいつかよ」

 覗き込んでいた小箱の側面についた赤いスイッチを、ふてくされた様子でたたく。円盤が点滅を始めて、列から抜け落ちるようにして飛び立ったかと思うと、二分後には彼らの待つ大広間にその雄姿を現した。中空で停止すると、円盤下部の扉が開いて、床との間に白色に光る円柱が出現した。その光の筒を通って一人の宇宙人が地面に降り立つ。

「おいこら、今日は円盤点検日だろうが、乗っていちゃだめじゃないか」

 怒鳴り声が辺りに響く。

「すみません、中でごろごろしていたら、いつの間にか眠りこけでしまいまして・・・」

 後輩がその宇宙人のもとに駆け寄って行き、肩に手をかける。

「あなたはこの間の不時着宇宙人じゃあないですか」

「おお、あなたでしたか、ようこそ月まで。よく来たねえ。まあゆっくりしていきなさいよ、じゃあ僕はこれで失礼するよ」

 背中を向けて立ち去ろうとする不時着宇宙人。

「ちょっと待ちなさい」

「は? まだなにか御用でも?」

「君と彼とは知り合いなんだろ、だったら面倒を見てあげなさいよ。円盤の中で居眠りをしていたくらいだから、時間はあるんだよね」

「はい、まあ」

「じゃあ、頼んだよ」

「解りました。では、眠い目をこすりながら基地の中でも案内しましょうかね」

「ありがとうございます。でもその前にカメラマンをお願いできませんか? 写真を撮っておきたいものですから」

「写真?」

「そうです、証拠の写真を持ち帰りたいと思っているんですけれど、ここに来てからただの一枚も写していないんですよ。不時着さんと一緒にいるところも撮らせてもらえるとうれしいのですが、いかがでしょう」

「それぐらいのことはお安いご用だけれど・・・・・」

「何か引っかかっているようですね」

 宇宙人は頷きながら、

「今、証拠写真って言ったよね」

「ええ」

「ここで撮った写真を地球に持って帰ったところで、はたして月に行ってきたという証拠として使えるものなのかなあ」

「うーん、確かにねえ。ここに一緒に移っているのが宇宙人なんだよ、と訴えてみたところで、見た目は地球人と変わらないんだものなあ」

「それに、施設の中だって、どこを撮ってみたとしても、日本で写した写真にしか見えないだろうし」

「さっき寄らせてもらった家も部屋も小道具も、すべて日本にある物と同じだからなあ。トイレに貼られた標語まで日本語で書かれているときている」

「そうそう」

「円盤以外は、まるっきり日本と一緒なんだもの」

「立ち入り禁止の区域にでも入って行って、なにか珍しい物でも探してこようか」

「こらこら、あなたは禁止という意味を理解して言っているのですか?」

「あ! そうだ」

 後輩が突然大声を発した。

「ん、なんだい?」

「みなさんそろそろ、おいとまするといたしましょう」

 一同の視線が瞬時に後輩のもとに集まる。

「おいおい、いきなりなんだよ」

「何を言い出したのかと思ったら、帰るだって?」

「そんなのダメにきまっているでしょうが」

「そうそう、俺はまだまだここにいたいね」

「もう随分と見て回ったじゃないですか」

「いやいや、まだ基地の中のほんの一部しか回っていない」

「まだ見ていないところが山ほどあるはずだ。地球に帰るのは基地の中をひととおり回らせてもらってからでかまわないだろうに」

「そう言われても無理なんですよ。明日は仕事があるものですからね」

「え?」

「だって明日は月曜日ですよ」

「まあそうだな、今日が日曜日だものな」

「僕はサラリーマンなんです」

「あのなあ、俺たちは今はるばるお月様までやって来ているんだぞ。会社がなんだ、そんなのは休んじまえよ」

「休みを取りたくとも取れないんです。どうやって会社に届を出せばいいんですか、どうやって連絡を入れろと言うんですか」

「電話しろよ」

「通じません」

「じゃあ、地球に向かって叫ぶんだな」

「ここは裏側なんですよ、声は届きません」

「それじゃあ、無断欠勤でいいよ。この際仕方がないだろう」

「そんなのはだめですよ。無遅刻無欠勤だけが僕の取り柄なんですからね」

「それだけっていうのは実に寂しい話だなあ」

「放っておいてください」

「せめて一日。それくらいなら仕事に穴をあけてもいいだろう」

「だめです。僕は居場所を失いたくありませんから!」

「じゃあ、君だけが帰ればいい」

「はあ?」

「俺たちは残るぞ」

「簡単におっしゃいますねえ。言っておきますけど、円盤を持っているのは僕だけなんですよ」

「俺たちは宇宙人に頼んで後から地球まで送り届けてもらうさ。だから大丈夫」

 と先輩。

「宇宙人さん、ああ言っていますけど、どうでしょうか?」

 技術者が尋ねる。

「いいですよ、お送りしましょう」

「いや、ちょっと待て」

 と、当局が口を挟んだ。

「なによ」

「べつに送ってくれなくても構わないよ」

「おいおい、俺たちにずっとここで暮らせとでもいうのかよ」

「いや、そうじゃない。もちろん地球には帰るさ」

「どうやって?」

「我々にも円盤を融通してもらうんだ、それで帰球する」

「ききゅう?」

「地球に帰るんだ」

 当局の顔が赤くなった。

「ああ、そうなの、そうだね、その方がありがたいや、だったら賛成賛成」

「武器に使う恐れがあるから円盤はあげないって、さっき言われませんでしたか?」

「言われた」

「言われたけれども、やっぱり円盤が欲しいと?」

「さっきの説明にはさあ、俺は納得がいっていないんだよね、絶対おかしいもの。なんといったって後輩は円盤を貰っているんだからな。どんな理由をつけて説明をされても、依怙贔屓は納得がいかない」

「確かにそうですよ」

「俺達にだってくれてもいいはずだ」

「わかってないんだなあ」

 不時着宇宙人が口を挟む。

「なにを?」

「武器にするからダメだというのはね、建前上の理由から言ったことなんですよ」

「なんだって?」

「だってですよ、もしもあなた方の使い方に武器などとしての危険な使用の兆候があることを察知した場合、それを実行に移される前に燃料の供給を止めてしまえば済むことなんですからねえ。それで未然に防げてしまうんです」

「そう言われればそうだな」

「地球人が円盤の燃料を自主生産することは、今の技術レベルではとうてい無理な話なんですから」

「ちょっとタンマ。燃料はガソリンじゃないの?」

「次元が違いますねえ」

 被りを振る宇宙人。

「燃料についても勉強しなきゃいけないなあ」

「じゃあ、俺達に円盤はくれないなどと言っていた本当の理由はなんなのだろう?」

「円盤をあげない本当の理由はですねえ、あなた方からは何ひとつしてもらっていないということなのですよ」

「は?」

「へ?」

「後輩さんは、困っていた私を助けてくれました。だからそのお礼に円盤をさしあげたんです」

「だったらそう言ってくれればよかったのに」

「そういうことって、自分の口からは言いにくいでしょう」

「そんなことはない、俺は言えるぞ」

 先輩がそう言ってえばった。

「あんたは特別なのさ」

 当局が笑いながら言う。

 秘書が宇宙人に駆け寄り、

「宇宙人さん、肩を揉みましょうか」

「俺は足を揉もう」

 みんなして宇宙人を囲むと、マッサージを始めた。

「なんだよなんだよ、そんな理由だったとはなあ」

「さっきまでの拒絶はなんだったんだろう」「星によって価値観は違ってくるものなんだなあ」

「そりゃあ、関東と関西でさえ違うんだからね」

「もったいぶったおかげで、ありがたみを強く感じるでしょ、よかったじゃないですか」


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