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第四章 月へと旅立ちました

「飛行中はずっと念波を送り続けているのかい?」

 先輩が後輩に問いかける。

「いいえ、僕は行き先の指示を出しているだけです。あとは自動操縦機能が働くようで、勝手に目的地まで連れて行ってくれるんです」

「免許も持っていない君が操縦しているのだから、おおかたそんなことであろうとは思っていたんだが、実に便利にできているものだなあ」

「車の運転の方がまだ大変そうだ」

 当局が口を挟む。

「おいおい、彼のやってくれていることに、ああだこうだとケチをつけなさんなよ」

「そうそう、気分を害して、やっぱり地球に戻るとか言い出しかねないぞ」

「ああ見えて、融通の利かない面を持っているようだからな」

「そうそう」

「あのう、そういった陰口は本人のいない所で言うか、聞こえないように小声でつぶやくかしてもらえませんかね」

「あれ?」

 当局の叫び声が盤内に響いた。

「なんだい、どうかしたのかい?」

「気のせいかなあ、円盤のスピードが落ちているような・・・」

「まさか故障なんていうことは・・・」

「技術者先生がここにおられるじゃないか、なにかあっても対処してくれるからさ、大丈夫だよ」

「それは無理な相談です」

 迷うことなしに即答する技術者。

「円盤は、見るのも乗るのも今日が初めてなんですからね。私もみなさんとなんら変わりのない素人にすぎません」

「そうなのかあ」

「なんだか心細くなってしまったよ」

「様子がおかしくなってきているのはスピードだけではないようだぞ。さっきから機体が左へ左へと引っ張られていっている気がするんだけど・・・」

「やっぱりそう感じる?」

「うん。ずっと動いてはいるけれど、月との距離が変わっていないよ」

「横移動しかしていないということか」

「月の裏側に向かっているんだな」

「後輩、そういうことなのかい?」

「さあ・・・僕は月に行けという指示を出しただけなものですから」

「たったのそれだけ?」

「ええ。月のどの地点に基地があるのかを知りませんので、他に命令の出しようがないんです」

「じゃあどうして動いているんだ?」

「うーん」

「あっ、そうか」

「なによ」

「おそらくですが、基地の近くまで来た時点で、操縦系統をロックされたのではないでしょうか。そして、より安全な基地からの誘導操縦へと切り替えられた・・・」

「さすがは技術者だ、ありえる話だよ」

「それだったらいいんですが」

「うん、故障したのでないのであれば、これでまあひと安心だ」

 一同の表情が安堵へと変わったのもつかの間、

 ガクン

「おっ」

「今度はなんだ」

 速度を落としています、とのアナウンスが船内に流れた。一同は体を飛ばされぬよう、壁に手を当てて踏ん張る。

「どうしたっていうんだ?」

「また障害物との遭遇か?」

「それらしいものはあたりに見当たらないが・・・」

 円盤の速度がますます落ちていく。

 キュウ―ンンン

「あーあ、止まっちゃったよ」

「まいったなあ、どうなっちまったんだ?」

「発進するようにと、円盤に指示を出してみてくれ」

 先輩が後輩を振り返ってそう指示を出す。

「やってはいるんですが、反応してくれません」

 外の様子に視線を廻らし続ける乗組員たち。今の彼らに出来ることといえば、それくらいしかないのだ。

「なんだ、あれ」

 正面、月の方角からこちらへと迫ってくる物体があることに、先輩が気付いた。目を凝らして観察すると、それはガラス張りの円錐形をしており、中には人影が映って見える。

「月の住人だろうか」

「見た目は我々となんら変わりがないようだな・・・」

「口に何かを咥えているぞ、武器なのか?」

 ピッピッピッ

「なんだよ、笛かあ」

 音を響かせながら距離を縮めてきて、円盤の前三メートルのあたりでピタリと停止した。

「私はこの基地の監視員です。あなた方の訪問目的を聞かせてください」

 宇宙人が円盤の中に向かって問いかける。

「月の見学をするためにやって来ました。できることならついでに燃料の補給もしたいなあとも思っています」

「わかりました。基地まで誘導しますので、私の後ろについてきてください」

 ピッピッピッ

 笛を鳴らしながら円錐がバックを始めた。円盤は引っ張られるようにしてその後に続く。

「宇宙空間だというのに、なんで音が聞こえてくるんだろう」

 後輩がそうつぶやく。

「細かい疑問はもう持ちなさんなって。いくら考えを巡らせてみたところで、どうせ我々には解りっこないことばかりが起る世界なんだからさ」

 先輩がそうくぎを刺す。

「な、そうだよな、当局さん」

 賛同を求められた当局が、浮かない表情で気にかかることを漏らし始めた。

「なんだか順調というか、ずいぶんと簡単に行き過ぎていやしないか?」

「なにがよ」

「月が我々を受け入れたことさ」

「そう言われてみると、やけにあっさりと通してくれたよなあ」

「突然見知らぬ地球人がやって来たというのに、ろくに調べもせずに入れてくれるなんてなあ・・・」

「いきなり銃を突き付けられて尋問を受けることになったとしても、おかしくはない状況だよなあ」

「そんな目に合うのは嫌ですけどね」

「もしも彼らが侵入者に対して容赦をしないという信条の種族だったら・・・」

「ここで撃ち落とされでもすれば、月の衛星となって永遠に軌道を回り続けることになってしまうぞ」

 ピッピッピッ

「その疑問には、私がお答えしましょう」

「うわっ」

「でたっ」

「あっち側に話が筒抜けだったのかよ」

 宇宙人からの呼びかけにうろたえる一同。

「まあ、せっかく来てくれたのだから、歓迎してさしあげましょう、というのがあなた方の来訪を受け入れた理由です」

「はあ」

「仲良くいこう、が今年の宇宙標語でもあることですしね」

「へえー」

「なんだか、安心してもいいようだな」


 月の表面の様子を目視で確認できる程度の距離にまで近づいてきた。いくつものクレーターが眼下を流れていく。やがて円盤は、地球からは決して見ることのできない、月の裏側へと回りこんで行った。表側ほど明るくはないのだが、光はあった。人工的にライトアップされているのであろう。乗組員たちは円盤の壁面にへばりつき、初めて目の当たりにする月の景色を眺め続けている。

「あれはなんだ?」

「どれどれ」

「地面にたくさんの粒々が見えるだろ、きれいに並んでいるようだけど」

「うん、見える見える」

「車じゃないのか?」

「それを言うなら円盤だろう」

 地面が近づくにつれ、粒々の形状がはっきりとしてきた。

「やっぱり円盤だ」

 駐車場が、あたり一面どころか地平線の彼方にまで続いているのだ。

「すごいや、円盤だらけだよ」

「みごとな光景だなあ」

「題名は忘れてしまったけれど、以前観た映画に、こういったシーンがあったなあ」

「うんうん、こんな場面、俺も観たことある」

「あれはここで撮影されたものなんじゃなかろうか」

「まさかあ、CGだろ」

「でもさ、もしもここで宇宙映画を撮らせてもらえるというのであれば、特撮に掛かる手間と時間をかなり省くことができるなあ」

「なんといっても、本物の宇宙人と円盤が揃っているんだものね」

 月面がいっそう近づいてきた。円錐が進んで行く先には、円形の穴が大きく口を開けて待ち構えている。

「円盤にしろあの穴にしろ、丸い形をしているな。宇宙人は基本、丸が好きなのかねえ」

 穴の中へと二機が入って行く。

「なんだか月に飲み込まれるような感じだな」

「どうかこの先は安全なところであってくれますように」

 岩肌がむき出しになった壁面を眺めながら、トンネル状の通路を奥へ奥へと進んで行くと、目の前に広大な空間が突如として現れた。

 ピッピッピッ

 円盤は空間の真ん中へと誘導されて、静かに停止した。

「みなさん、外に出てきてください」

 円錐から円盤に向かって、そう指示が出された。

「おい、降りて来いとさ」

「危害を加えてきたりはしないんだろうな」

「大丈夫だろ、やさしい感じだよ」

「印象はそうだね」

「まあ、確かに第一印象はね・・・」

「さあ、行くか」

「うん。ここはおとなしく指示に従うしかないだろうし」

「そうだよな、他に選択肢は浮かばないもの」

 行こう行こうと口にはするものの、なかなか足が前に出て行かない一同。

「よっこらせと」

 やっと覚悟の決まったメンバーから順番に飛び降りていく。

「ずいぶんと広い空間だなあ」

「柱も無しでこの広さかよ・・・。よくひしゃげてしまわないなあ」

「ここでは重力を調整しているんでげすよ」

「ふーん、あなた方は重力のコントロールまで出来ちゃうんだあ」

「諸先輩方が長年蓄積してきてくれた知恵のおかげです」

「ふーん。でも、いったい何のためにこんなに広い空間を造ったんです?」

「円盤には超特大サイズのものもありますからねえ、それらを収容するためにはこれくらいの空間が必要なんでげすよ」

「そうでげすか」

「あっ、今私の真似をなさいましたでげすね」

「ええ。さっきから気になっていたものですから。あなたはなんかおかしな日本語を使っていますよねえ」

「そうでげすか?」

「ええ、変ですよ」

「ここの言語指導員から学んだものなんでげすがねえ」

「その指導員というのは、いつどこで日本語を覚えたんでしょう?」

「さあ」

「とにかく、あなたが口にしている言い回しは、今の日本では使われていないものなんですよ」

「でもまあ、私の伝えたいと思っていることがあなたにちゃんと届いているのですから、言葉の多少の違いは構うことないでしょう。地球にだって、地域によって方言がありますよね。月特有の訛りがあったとしてもいいじゃあないですか」

「まあ、そういわれればそうだけど」

「日本語の月訛りねえ・・・」

「さあ、こちらへどうぞ」

 案内されてやってきたのは大広間の奥のまた奥。日本家屋というか、二階建ての典型的な建売マイホームがズラリと並んでいる。

「ようこそ月へ」

 玄関先で、別の宇宙人が出迎えてくれた。

「あっ、どうも」

「お世話になります」

「手土産なしで来てしまいましたが・・・」

「そんな気遣いはけっこうですよ。さあ、みなさんどうぞ中へ」

「ちょっと聞かせてもらってもいいかな?」

「ええ、なんでげすか」

「ここは本当に月なのかい?」

「はい、そうでげすよ」

「この家から受ける印象なんだけどね、どこをどう眺めてみても日本の工務店が建てたものとしか見えないんだけどねえ・・・」

「我々が自力で建築したものですよ。地球研究の一環事業として、日本の家屋と同じものを作ってみたんです」

「ふーん」

「盗んで運び入れたものじゃあないんだ」

「失敬な。この程度の建築物なら、真似をして作ることなどお茶の子さいさいですよ。我々の知らない技術が使われているというわけでもありませんからね」

「ふーん、器用なものだねえ、感心したよ」

「ありがとうございます。ご納得いただけましたか?」

「まあ、なんとなくだけどね・・・」

「でしたら、どうぞ中へ」

 促され、家の中へと入って行く一行。

「おいおい、畳部屋まであるぞー」

 勝手に先に入りこんでいた先輩の声が奥から聞こえてきた。

「畳は良いものですからねえ、日本家屋を造るときには外せませんよ」

「ほう、あんた方にも、和の心というものが理解できるのかい?」

「ええ、ほんの少しばかりではありますが・・・」

「ふむふむ、謙虚さも学んでいるようだな」

「あなた方日本人の足元にも及びませんけどね」

「にくいことを言うねえ」

「今はおべんちゃらも入れておきましたが」

「ははははは」

「いやあ、それも含めて実に日本的だよ。別の星の住人といえども、なんかこう親近感が湧いてくるなあ」

「畳の上に寝っころがって、テレビで野球観戦をする、なんていうのは実に良いものですよねえ」

「ちょっとタンマ!」

「はあ?」

「そりゃ良いものに間違いはないんだけれど、宇宙人がそんなことをやっちゃあまずいんじゃないのかなあ」

「なんででしょう」

「だって、そんなのって宇宙人らしくないだろ」

 被りを振りながら熱弁を振るう当局。   

「畳の上でくつろぐことは我々にとっても気持ちのよいものなんです。それが地球人だけに認められている特権だとでもおっしゃりたいんですか」

「違う違う。ただ単に、俺からのお願いなんだよ。ともすればだらしなく映ってしまう可能性のある様を、あなた方に真似をして欲しくはないんだ。俺が抱いている宇宙人のイメージが崩れていってしまうからね」

「はあ」

「頼むから俺をがっかりさせないで欲しい。日本の良さを理解してくれているというだけで、我々にとっては充分にありがたいことなんだからさ」

「はあ、そうですか」

「最先端の知能を持っていて、最先端のグッズを使いこなしていて、いつでも知的でいる、そういう姿が俺があなた方に対して持っているイメージなんだからさあ」

「うーん、あなたが想像なさるのは勝手ですが、ひとりよがりで造りあげた理想像をこちらに押し付けてこられてもねえ・・・あっ、立ち話もなんですから、どうぞどうぞ」

 入り口から、奥の間へと移動していく一同。そこが畳の敷かれた部屋になっており、先輩はこたつの中に足を入れてすでにくつろいでいる。

「どうぞ、みなさんもゆっくりなさってください」

 各々が部屋の中のぐるりを見渡す。

「壁の塗り付けが、なんだか派手だよなあ」

「そうかい? いいセンスをしていると思うけど」

「これが? いいセンスだって? 赤、青、黄色だぜ。全体的なつくりはかなりの完成度だというのに、この壁だけはちょっといただけないなあ」

 意見が割れた。

「少しだけですが、自分たちの文化も加味させてもらっているんですよ」

 宇宙人が、そう説明を挟む。

「なるほどねえ」

 ガチャッ

 格子戸の向こう側で物音がした。一同揃って耳をそばだてる。

「腹が減ったなあ」

 先輩の声だ。いつの間にこたつから抜け出したのであろう、冷蔵庫の扉を開いて中を覗きこんでいるのだ。

「あなた方宇宙人は、ここでは何を食料にしているのでしょうか」

 後輩が宇宙人にそう尋ねる。

「故郷の星とおなじものを食べているのですか?」

 技術者が質問をかぶせていく。

「あなた方地球人とおんなじ物を食べています。食料からなにから、現地での調達が基本になっていますからね」

「ふーん」

「そうだ! お腹が空いているでしょうから、蕎麦でも茹でましょうか? みなさん長旅をしていらっしゃったんですものね」

「そんなあ、いいんですかあ?」

「私が今朝打った麺が、まだ残っているはずですから、それをお出ししましょう」

「ぜひ、お願いします」

「用意ができるまで、どうぞくつろいでいてください」

 すっくと立ち上がるやいなや、台所へと駆け込んでいく宇宙人。一同がこたつに足を入れると同時に、包丁の音が聞こえ始めた。それぞれが改めて部屋の中をきょろきょろと眺める。

「この壁をどこかで目にしたことがあったような気がするんだけど・・・」

 後輩がつぶやく。

「まさか自分の家の壁と一緒だなんていうことは?」

「いやいや、それはないですよ」

「そうだよな、住宅でこの色使いはないよね」

「あれえ、どこだったっけかなあ・・・」

「美術館かい?」

「前衛的な物を扱っているところに行けばこういった物がありそうだけど、覚えがありません・・・」

「うーん、他にはどういった場所が考えられるかなあ」

「落書きだろう、どこか心当たりはないかい?」

「落書きですか? 落書きをこんなに丁寧には描かないでしょう」

「そうかあ」

 宇宙人がお盆にどんぶりを乗せて戻ってきた。

「お待たせしましたあ」

 こたつの上にお盆ごと置く。どんぶりからは湯気が立ちのぼってきて、なんともいえない香りが部屋に広がる。

 おお!

「さあ、召し上がれ」

「はい」

「ごちそうになるとしますか」

「うまそうだなあ」

 一同がどんぶりへと手を伸ばす。

「いただきます」

 ズルズル

 蕎麦をすする音が部屋の中にこだまする。

「うん、いけるいける。かなりのもんだ」

「そうですかあ、ありがとうございます」

「出汁もよく出ているね」

「よかったー」

「おみごとです」

「どうぞおかわりをしてくださいね」

「ありがとう」

「うまいうまい」

 ズルズル

「おっ、肉まで入っているぞ」

「鴨蕎麦かな?」

「いいえ、ウサギ蕎麦です」

「ブッ」

 吹き出したのは先輩だ。

「月にウサギはつきものですからね」

 宇宙人がさらっと言ってのける。

「本当なのかよ」

「俺はもう飲みこんじゃったぞ」

「あははは、うそですよ、日本人にウサギは出しません」

「ああ、よかった。引っこんだ食欲が戻ってきたよ」

「日本人にウサギを食べる習慣がないことは知っていたんだね」

「ええ、それくらいのことは」

「それくらいって、かなり詳しい人でなければそこまでのことを解りはしませんよ」

「そうでしょうか」

「その領域に知識が及ぶまでには、さぞや長い年月がかかったことでしょう」

「いやいや、お恥ずかしい」

 次は技術者から質問が投げかけられた。

「あなた方は、どこか他の星に住まいを持っていて、通いでここまで来ているのでしょうか、それとも、たどり着いてから代々ここで暮らし続けているのでしょうか」

「あのですね、月に生命体は存在していない、地球ではそう教えていますよね」

「ええ、そう習いました」

「それは正解ですよ。現在我々が暮らしてはいますが、元からいたというわけではありませんからね。生命体の存在していなかったこの月に我々の祖先がやってきて、そのまま住み着いたのがこの基地の始まりです。ここで生まれる子供たちもいるにはいますが、基本的には故郷の星で生まれ育った者が成人して、故郷の星と月との間の入れ替わりを繰り返しているんです」

「それはいつごろから始まったことなのでしょうか」

「地球時間で数千年といったところですかね」

「ふーん」

「ちなみにあなた個人がここに滞在している期間はどれくらいになるのでしょう」

「2年とちょっとですね」

「えーっ」

「そんなに短い期間で地球の言葉も料理もマスターなさったんですか?」

「ええ、まあ」

「すごいですね」

「天才だよ、うん」

「これはこれは、お上手な人たちですねえ」

「いやいや、お世辞で言っているわけではありませんよ、正直にそう思っています」

「いやだなあ、何にも出ませんよお」

「なにをおっしゃる。すでに蕎麦をごちそうになっていますよ」

「あっ、そうでしたね。こいつは一本とられましたなあ、ははは」

「あははは」

 ガラガラガラ

「やあ、ようこそいらっしゃい」

 ドアの開く音と挨拶の声とが同時に聞こえてきた。一同がそちらへ振り向くと、廊下から別の宇宙人が笑顔を覗かせている。

「どうも、おじゃましています」

 挨拶を返す一同。笑顔の宇宙人がもう一度ぺこりとお辞儀をしてから、蕎麦打ち宇宙人の方へと顔を向け直し、

「ジュースを貰っていっていいかな?」

 そう尋ねた。

「ああいいよ、勝手に持っていきな」

「わるいね、サンキュー」

 台所で冷蔵庫からペットボトルを取り出した宇宙人は、

「じゃあみなさん、どうぞごゆっくり」

 そう一言告げて戻って行った。一同が軽く会釈をして彼を見送る。

「なあ、宇宙人さんよう」

「はい? なんでしょう」

「この基地には大勢の宇宙人が滞在しているんだろうけど、それぞれ別々の星からここに集まって来ているのかい?」

「いいえ。ここに常駐で滞在しているのは、うちの星からきた人間だけですね」

「へっ? たったひとつのところから?」

「ええ」

 頷く宇宙人。

「生命が存在できる星は、なにも地球だけというわけではありませんからねえ。この広い宇宙には、地球と同じような星が、表現はよくないかもしれませんが、ごろごろと無数に存在しているんですよ」

「はあ」

「その沢山ある星の中から我々はなぜ地球を選んでやってきたのかと言いますと、それは、この地球が我々の星の近所にあったからなのです。どこの星の人たちでも、まずは自分らの暮らす星から一番近いところへと進出していきます。他の有人星からですと、地球まではかなりの距離になりますからねえ、うち以外の星の人間がここを目指してやってくることはそれほど多くはありませんよ。この近くでの用事のついでに知り合いに会いにくるだとか、長旅の途中休憩に立ち寄るだとか、そういったことががたまーにあるかなあと、そんな程度ですね」

「ふうーん」

「外部の人間が誰一人として訪ずれたことがないという星も宇宙にはたくさん存在しているんですよ」

「この宇宙では、地球が特別な星だというわけではないんですね」

「そうです。・・・がっかりさせてしまいましたか?」

「ええまあ、ちょっとね」

「でもね、他の星から地球がどう見られているかなどと、なんら気にすることはないですよ。地球人と我々にとって特別な存在であることに変わりはありません、それでよいことなんじゃあありませんかねえ」

「あなたは地球が特別な星だと思ってくれているのですか」

「もちろんです。ここには長く滞在しているわけですからねえ、そりゃあ愛着が湧きますよ。あって当然です。地球には順調に進歩していって欲しいなあと、応援もしているんです」

「うれしいねえ。あなたにはずっと月にいてもらいたいなあ」

「それはちょっとご勘弁を」

「えっ? だめなの? だって気に入ってくれているんだろ」

「それはそうなんですが、元々ここに長滞在する予定で来ている訳ではいないものですから」

「そうなのかあ」

「理由は?」

「はやいところ次の星へと進んでいきたい、そういう願いが第一にありまして・・・」

「はあ?」

「失礼、言葉が足りませんでしたね。実を申しますと、私は今現在、長い旅路の途中にありましてね」

「はあ?」

「地球以外にも、いろいろな星を回っていく予定なのです」

「なんでまた」

「修行です。滞在中の星で、ある程度の成果をあげると、そこよりも一つ上の進化過程にある星へと移動することが出来まして、そこでまた修業をする。我々はそういったことを繰り返す旅をしておりましてね」

「はあ」

「ボードゲームのようでしょ」

「ですね」

「その旅のスタート地点が、ここ月なのです」

「そういえば、あなたはここに来てから二年経ったとさっき言っていましたよね。まだスタート地点から出られていないということですか?」

「恥ずかしながら・・・」

 顔が赤くなるのも地球人と一緒だ。

「なるほど、あなたがボードゲームをしているということは解りました」

「違う違う、ボードゲームみたいなもの! さっき言ったのはたとえ話であって、実態は人生勉強を積んでいく旅なのです」

「ふーん」

「かなり厳しい修行なのですよ、いやほんと」

「ちなみにその旅とやらへは、星から命令を受けて参加しているのですか? それとも自身が望んできているのですか?」

「自分の意志です」

「ほう」

「生まれた星の外に一度は出てみたいと思いましてねえ、それで手をあげたのです。コースについてはいろいろな選択肢があったのですが、まあ、この定番コースが無難かなと」

「なるほど、我々の地球が定番旅行コースとして指定されているのですか」

「ええ。しかもスタート地点ですよ」

「それはとっても光栄なことなのでしょうが、どうしてこの地球がスタート地点に選ばれているのでしょう」

「現在のコースの組み立て作業を始めた当時、地球に文明が芽生える兆しが見えていたからなのですよ」

「ほう。当時、という限定的な表現をなさっているところが気になりますね。そこのところも含めてお聞かせ願えませんか」

「どんなレベルの進化段階にあるかは、星ごとに様々でしてね」

「年齢が星それぞれで異なるでしょうからねえ」

「そうなんです、おっしゃるとおり」

「なるほどね」

「大宇宙には、星々が文字通り星の数ほどありまして、老齢、壮年、若年と、ありとあらゆる年代層の星が存在しています。それは文明にも当てはまることでして、原始、古代、中世など、年齢に見合った文明段階をそれぞれの星が迎えていくのですね」

「ふむふむ」

「我々の祖先は、あらかじめ星の文明レベルを一段階から十段階までに分類しておきましてね、それぞれの文明レベルにある星を順番に渡り歩いていくことにしたのですよ。その星か、またはその星の衛星に滞在して修業をするわけです」

「へえ」

「学習も同時にできる旅なのですよ」

「ふーん。学習と言うけれど、いったい何を学ぼうというのです? あなたたちの星の文明は地球なんかよりも、ずっと発展しているのでしょう。未発達な星から得るものが、何かあるのかなあ」

「たしかに本国は進んでいて、地球に比べると遥かに住み心地は快適です。寒くもなく暑くもない。栄養のある食事にも事欠かない。病気になったとしても完治する。街を歩いても安全で身の危険を感じない。至れり尽くせりです」

「まったくうらやましいかぎりだ」

「しかしね、生まれたときからすべての面で行き届いている環境、そんな中で生活をしていると、ちょっとね・・・」

「なにか問題でも?」

「健康や安全はあって当然のものだと思ったままで暮らしていますと、ありがたみというものを感じる機会を得られませんから、ご先祖や諸先輩方への感謝の気持ちが育まれにくくなってしまうんです」

「なるほど」

「そこで、この旅の出番なのですよ」

「ふむふむ」

「原始時代のレベルから、人類が文明を謳歌する時代まで、それぞれの段階を迎えている星々を、順を追って訪ねて行けば、自分が現在恩恵を受けている文明のありがたみを感じる手助けになりますし、生命体の進化について系統立てて勉強することもできます。言ってみればタイムマシンのようなものですかね」

「なるほどね。地球もその一翼を担っているわけか」

「ええ」

「しかしなんだなあ、地球がスタート地点で、文明レベルでいうところの第一段階であるということは、他の星と比べてずいぶんと遅れているということになるのか」

「コース決定当時はそうでした。しかし現在では第二段階に近い星へと進化していますよ。地球が旅のスタート地点ではなくなる日も近いでしょうね」


「どうですか、月の居心地は?」

 そう問いかける声に、後輩が後ろを振り返った。そこに居たのは、不時着した円盤を修理にやってきた宇宙人だ。

「やあ、その節はどうも。ここの居心地ですか? 実にいいものですよ。けれど、なんだか地球との違いをあんまり感じませんね」

「この施設内では、重力も酸素濃度も地球と同じ数値を設定してありましてね」

「ふーん、そんなことまで出来ちゃうんだあ」

「持っている文明が、地球よりもはるかに進んでいるという証だな」

「じゃあ、ごゆっくり」

 修理屋宇宙人がそう言いながら接待宇宙人の方へと寄っていく。

「もうそろそろだぞ」

 接待宇宙人が、壁掛け鳩時計に目をやった。

「うん、そうだな」

「ん? なにか始まるの?」

 先輩が問いかける。

「これからお見えになるお客さんの到着時間が迫ってきていましてね」

「ふーん」

「実をいいいますと、その船の一行は、休憩でこの家を使うことになっておりまして。申し訳ありませんが、そろそろ部屋を開けてもらってもよろしいでしょうか」

「それはもちろんですよ」

「すみません。つい長居してしまいました」

「すっかりくつろがせてもらいまして」

「お客さんがやってくるって言ったけど、まさか地球からなんていうことは・・・」

「いやいや、別の星からの方々ですよ。定期観光船の団体さんでして」

「へえー、じゃあ、忙しくなるんだねえ」

「いやいや、たいしたことはありません。ここは土産物屋を並べたりしているわけではありませんから、みなさん単に小休憩で立ち寄っていかれるだけなのです。リピーターのお客さんの中に、畳を気に入られた人たちがいらっしゃるようでして、その方々のリクエストに応えて、ちょっと寄り道していくだけなんですよ」


 一行が家からぞろぞろと出ていく。

「うわあ、でっかい円盤だなあ」

 先頭で外に飛び出していった先輩が、声をあげた。さきほどまでは何もなかったはずの場所に巨大な母船が停留しているのだ。船内からは宇宙人たちが出てきはじめている。その人波を分け入って、技術者が船の中へと進んで行く姿が見える。それに気付いた接待宇宙人があわてて追いかけた。

「おいおい、何処に行くつもりなんだ、何処に」

 入口ドアの前で追いついて、声を張り上げながら技術者の右肩に手をやる。

「何処って、この船の中ですが」

「ちょっとお尋ねしますけれどもね、ここはあなたの家ですか?」

「いいや、違いますよ」

「そうでしょ、ということは、他人の家みたいなものですよね。そこに断りもなしに入っていくことが、やってよいことだと思いますか?」

「家には見えないけどなあ」

「屁理屈は言わないの! あなたはこの母船の乗組員ではないんでしょ」

「まあね」

「まったく、油断も隙もあったものじゃないなあ。入っていくことに躊躇はなかったのですか? 」

「私、元々の職業が泥棒でして」

「おいおいおい、なんか怖いことを言いだしたぞ」

「それから産業スパイに職替えをして、その後現職に付き、今に至っているわけなんです」

「危ない奴が混ざっていたものだなあ」

「ですから、たとえそれが他人の家であろうと、どこへでも抵抗なく入っていけるんですよ」

「こりゃあ目が離せないぞ」

「探究心が他の人よりも旺盛に出来ているんでしょうね、そこに火がつくと、つい社会人としての常識が欠落した行動に出てしまうんです」

「おっかないことを平然と白状する奴だなあ」

「恐縮です」

「あんた一人に対して二、三人の監視が必要だよ」

 二人のそんなやりとりを横目に、他のメンバーも母船の出入り口へとつながるスロープをあがって行く。

「おいおい君たち、今の私の話を聞いていただろ。なんでダメだと言っている傍を入っていくのかなあ」

「だって中の様子がずごく気になるんだもの」

「とにかく入って行っちゃダメ。中は目に毒、注意です」

「でも、すでに一人見当たらない奴がでていることだし」

「なんだって?」

「この中に入ってしまったんじゃあないのかなあ」

「まったくもう。誰だよ、そのしょうがない奴は」

 宇宙人がメンバーの顔を確認する。

「あ、技術者がいないぞ。たった今説教をしたばかりだというのに、いつの間に!」

 宇宙人が、降りてくる旅行客を押しのけながら宇宙船の中へと入っていく。ドアの脇に隠れていた技術者がひょっこりと顔を出し、堂々と中へと入って行った。


「はあはあはあ」

 背後から聞こえた息切れの声に技術者が振り返ると、こちらを睨みつける宇宙人の姿がそこにあった。両手を自分の太ももに乗せ、息も絶え絶え、やっとのことで立っている。

「ついにみつけた・・・。ずいぶん探しましたよ」

「あのさあ」

 悪びれる様子もなく宇宙人にそう話しかける技術者。

「この宇宙船の中は、自分が見たことのない素材で作られた物だらけだったよ」

「あなたの眼にはそう映るかもしれませんが、宇宙の中ではごくごくありふれた物質ばかりなのですよ」

「これらがごくありふれた物だって? 宇宙には当たり前にある物を使っているというのかよ。だったら地球人が今持っている技術レベルで宇宙の中へと打って出ていったとしても、まるで歯が立ちそうにもないな」

「今日のあなた方は、遠い未来の世界を目の当たりにしているようなものなのですから、無力感を持ってしまうのも仕方のないことですよ」

「あんたらの技術力が欲しいなあ」

「いずれは手に入ります」

「すぐに欲しい」

「それは無理なお話です」

「あんた方の眼にはさあ、地球人は古臭い道具を使って不便極まりない生活をしているように映っているんだろ。地球人のそんな様は、端から眺めていて歯がゆく感じたりはしないかい?」

「ちょっかいを出して、知っている技術を少しだけでも教えてあげたいなあ、と思ってしまうことがあるにはありますよ。けれど、そのような行為は宇宙では禁止されていますからねえ。けして地球人の為にはならないことですから」

「そこを曲げて頼まれて欲しい。円盤のことについてどうか私にご教示を」

 宇宙人の足元で突然土下座姿になった技術者。

「おおっと」

 驚いて、身を一歩引く宇宙人。

「どうかお願いします」

 宇宙人は、ゴホン、と咳払いをひとつ入れてから、こう語り始めた。

「地球での空の移動手段は、今はまだ飛行機やヘリコプターが主流の時代でしょ。そこから突然円盤の時代へと移行するようなことになってしまえば、技術の階段を幾段もすっ飛ばすことになってしまいます。それは地球人にとってはとてももったいないことなのです。進歩の階段は、どの段にも発見したときの喜びが用意されているものですからね。うれしさを一段一段味わいながら、ゆっくりと進歩していきましょうよ。なにもそんなに急ぐことはないじゃありませんか」

「そうはいっても、未来の姿を知ってしまった今となってはねえ」

「月で暮らしている我々の生活も、おんなじような進み具合で来ていましてね。この基地も元々はなんにもないところから作り始めたものなんです。基礎からこつこつと、いくつもの段階を一段一段踏みしめながら、今日までやってきました。それは現在でも続けられています。毎日少しずつですが、基地の環境が良くなっていく。これは実に楽しいものですよ」

「楽しいかねえ・・・」

「この話はこれまでにしておきましょう。さあさあ、ここはよそ様の船の中なんです、みなさんのところに戻りますよ」

 宇宙人に促されて一緒に外へ出ていく技術者。

「おかえりなさい」

 後輩と当局が出迎えてくれた。

「あれ?」

「あれって、なにか?」

「今度はメンバーが二人も足りませんね、なんで?」

「あなた方が戻ってくるのを待ちくたびれて、あそこに入っていっちゃいましたよ」

 指し示したドアには立ち入り禁止区域、と書かれてある。

「あの注意書き、読めるはずですよね」

「日本語だからねえ、おそらく読んだでしょう」

 急いで中へと駆け込んで行く宇宙人。


「はあはあはあ」

「よお」

 笑顔で宇宙人を迎える先輩と運転手。

「ここは立ち入り禁止区域なんですってば」

「何を言っているの、そういうあなただって侵入して来ているじゃないの」

「私はあなた方を制止する目的で入って来たんです」

「いっしょいっしょ、同罪だよ」

「ここに何があるのかを私は既に知っているわけですから、べつに入っても問題はないんです」

「自分だけ知っているなんて、そんなのずるいじゃないか」

「そうですよ、情報は共有すべきでしょう」

「あなた方と私たちでは立ち位置が違うでしょうが」

「秘密主義反対、隠し事はいけませんよ」

「そうだそうだ。これは昔から思っていたことなんだけどさあ、あなた方宇宙人は、地球人に対して隠し事が多すぎるよ」

「なんですか、それは?」

「地球に足を運んだときに写真や映像に時折撮られているだろ。大出しはしないけれど、チラチラと小出しで姿を見せるのは何故なんだい? それと、地球人に円盤を見せびらかせるだけ見せびらかせておきながら、その技術を授けてはくれないというのはどういうわけなのかねえ。我々に対して、あなた方の進んだ文明のお預けを食らわせることが狙いなのかい?」

「ああ、その件ですか」

「それとさあ、どこかの国の政府であるとか、テレビ局だとかに接触してこないというのも解らない。どういった理由からなんだい? なんで公の場に登場してこないんだい?」

「うんうん、そこに疑問を持っているのですね」

「もしも身の安全を心配してのことだったら安心していい。宇宙人の訪問を受けることとなれば、地球人は友好的な接し方をすると思うぞ」

「そうですとも」

「なんといっても言葉が通じてくれるというのがありがたい、ほんと助かるよね。おかしな誤解を招いてしまう確率が低くなるからさ」

「はい」

「双方が共存共栄できるというメリットこそあれ、デメリットになるような点は思い浮かばないよ」

「いったいいつになったら宇宙人と接触できる日が訪れるのだろうかと、大勢の人たちがずっと待ち望んでいるのですよ」

「そうそう、俺も早く宇宙人に会いたいなあ」

「おいおい、今現在会っているのはどこの誰なんでしょうね」

「うーん、あんたはなんか違うんだよなあ」

「違わないでしょ、本物なのですから」

「いやあー、違うなあ」

「うん、そうそう」

「もっと宇宙人らしい宇宙人に会いたいものだよなあ」

「どういうことでしょう」

「遠くの星から苦難を乗り越えてはるばる地球までやってきたっていう感じが出ていないとさあ・・・」

「そうそう、それほどまでの苦労をしながらも、よくぞこの地球まで来てくれました、それじゃあ末永く一緒に仲良くやっていきましょうよっていう流れが欲しいんです」

「うんうん」

「我々にそれを求められても叶えてさしあげることは出来ませんね。ここに来ているそもそもの目的が、地球人が想像しているものとは違っているのですから」

「へ? そうなの?」

「あなた方の大方は、宇宙人は、地球人に会いたいがためにはるばるここまでやって来ているものだと思っているんでしょ。その説が正しいというのであれば、もちろん宇宙人の側からアプローチをしていきますよ。ところが接点を持とうとしている様子が見受けられないというのが現実ですよね。それはね、ここに来た理由が残念ながら地球人の考えているものとは異なっているからなのですよ」

「ここで、さきほど言っていた話へと繋がってくるわけか」

「そうです。この月が我々の冒険のスタート地点になっていますから、皆がここへと集まって来はします。ところがなんですけれども、その中に長滞在を望んでいる者はおりません。皆が皆、ここでの修行をさっさとクリアして、次の地点へ移動していこうという腹づもりなわけですからね、地球と接点を持とうなどとは考えていないんです」

「姿は見えども近寄っては来ないというのはそういうわけだったのですか」

「ええ」

「せっかく来ているんだから、ぜひとも公の場所で我々地球人と対面をしてほしいものだながなあ」

「今はまだ早いんですってば。イレギュラーで偶然会ってしまう場面以外で接点を望むのは無理があります」

「じれったいなあ」

「説明がくどくなっていたら申し訳ありませんが、つまり、我々も含めて、いわゆる宇宙人と交流をするためには、地球の文明レベルがまだまだ低く、時期尚早の段階だということなんです」

「あなたのその言い分は、地球人としてはちょっと受け入れがたいものですね」

「はあ、なぜでしょう」

「円盤が地球で初めて目撃されてから、すでに何年経っていると思っているんです?」

「そうそう、数十年経っているはずだ」

「年数が経ったんだからもういいだろうと思われてもねえ・・・」

「何が言いたいのかな」

「あなた方はまだまだ青いというんです」

「日々進歩してきていると思うぞ」

「そうそう、コンピューターだってあるし、ずいぶん進歩しましたよ」

「人工衛星だって飛ばしているんだぜ、それでもダメだというのなら、じゃあいつならいいんだい? それを教えてくれよ」

「それははっきりと答えられます。地球人が自力で他の有人星にたどり着けるようになってからですね」

「ふうん」

「接点を持とうとしている星と星とを対比して、文明レベルに圧倒的な差が存在している場合、技術の伝達が一方通行になってしまうでしょ。それは避けたいところなのですよ。つまり、交流が始まるのは双方が持ちつ持たれつの関係を保てる状況になってからのお話にしましょうね、ということなのです。地球は星間での相互扶助が可能な文明レベルにはまだ至っておりません。その相互扶助が出来る技術レベルに現在あるかどうかを判断する目安となるのが、その時使っている移動手段なのです」

「へえ」

「ただですね、地球人がせっかくここまで頑張っているのだから、進歩のヒントくらいはあげたいなあ、ルール違反にならない程度の手助けはしたいなあ、という気持ちもなくはないんです」

「はあ」

「時折、ちょっとだけですが、円盤を見せていますでしょ、それはですね、あなたがた地球人の目指す進歩の目標物としてとらえてもらえればいいなあ、という意図があってのことでもあるのですよ。目標物が目に見えると、研究努力を注いでいく方向を絞り込みやすいでしょう。我々がささやかな親切心からやっていたことなのです」

「はあ」

「物事を成し遂げるにあたって、目標が見えているのとそうでないのとでは大違いですから。目指す方向が解ればがぜん力が入ってきます。円盤を見せることは、これを自分たちの手で製造できるよう頑張って研究してください、そいうメッセージになっているのです」

「ふむ」

「人間は動物や植物の真似をして進化をしてきた部分があるでしょ」

「そうだな。飛行機を飛ばせるようになったり、光合成を利用できるようになったり」

「そうです。鳥や植物を研究して、その真似をしながら進歩してきているのです」

「大勢の人が何年何十年、コツコツと地道な観察を積み重ねてきたんですよね」

「その苦労が報われて出来たのが、人類の進歩の歴史なのです」

「考えてみればまだるっこしい話ですねえ」

「そうだそうだ、イライラするから単純にいこう。あなた達は我々が持ち合わせていない技術を持っている。だからそれを教えてくれる。それでいいじゃないか、減るものじゃなし」

「技術を丸ごと教える行為は、規則で禁止されているんですってば。知識を積み上げていくせっかくの楽しみを奪ってしまうことになりますからね。円盤を少し見せるくらいのところで勘弁してください」

「けち」

「まあまあ。我々が手を貸さなくとも、遅かれ早かれ、いずれは自力で円盤を作る技術段階へと到達できるんですから、しばらくの間はそこまでに至る進歩の過程を楽しんでください。文明の階段を一段一段じっくりと味わいながら登って行きましょうよ。途中でいろいろと発見をしながら、自力で一歩ずつ登っていくのが良いのです」

「いやだ、すぐ知りたいぞ」

「私の今の話、ちゃんと聞いていましたか?」

「進化して行きましょうということですよね」

「それだけじゃなかったでしょう」

「頼むから、早く教えてくれ!」

「なんでそうなってしまうんですか。話の展開からいけば、なるほどねえ、確かにあなたのおっしゃるとおりです、安直に新しい技術を手に入れようとした自分たちのことが恥ずかしいですと、お見それしなさいとまでは言いませんが、反省はしてもらいたい場面ですよ」

「あんたの言うように、地球人が頑張って研究を続けて行ったとしよう。しかし、それが報われるかどうかはわからないじゃないか。大発見の機会をうっかり見落としてしまうかもしれないし、目指す方向とは見当違いの道を歩んでしまうという未来も可能性としてはあるんじゃないかい?」

「大丈夫ですよ」

「あんたはそれを保証してくれるのかよ」

「それは出来かねますが・・・」

「じゃあ円盤の造り方を教えてくれ」

「あのねえ、たとえばですよ、クイズ番組で、簡単に答えを発表してしまったら、面白みに欠けますよねえ」

「うん、それはそうだな」

「鬼ごっこをするときに、始まってすぐに鬼の前へとのこのこ出ていったりはしないでしょ」

「うん」

「いくら頑張っても解らないという場合には教えるということも世の中にはあるにはあるでしょうが、それはもっと先になってから考えるべきことでしょう」

「地球人はもう充分に頑張って研究してきたよなあ」

「ええ、もちろんですとも」

「教えられない理由はそれだけではありません。こっち側の都合というものもありましてね。違反行為がばれると私が罰を受けることになってしまうんですよ」

「ふーん」

「最新の技術を教えるなという、宇宙の規則を破ってしまったら、旅のスタート地点よりももっと遠いところまで飛ばされてしまうんです。ふりだしよりも後ろへ下がるなんてことは、まっぴらごめんですからねえ」

「ふーん」

「さあ戻りますよ」

 宇宙人は、入ってきたドアへと二人を促し、みんなの元へと連れ帰った。


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