1-8 『不運にも』
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……。
「クソッ! あの情報部どもめが!」
情報部から惨めに退散してきた壮一は、掃除ロッカーを怒りに任せて蹴りつけていた。
自業自得なのにも関わらず、自分が悪いんじゃない、すべてあの情報部が悪いんだ、と身勝手な解釈で正当化しようとしていた。壮一が反省するはずがない。未だに自分が特別だと思っているのだから。当然、自分が悪いとは思っていない。
「覚えてろよ、情報部……!」
壁に寄って、俯きながらそう言った。
だが、激情というものはそう簡単に収まってはくれない。壮一は、どうしたものかと考えたが、良いアイデアが思いつかず、途方に暮れていた。だが、今の壮一は鬱憤を晴らしたくて仕方がなかった。行きつけにでもいこうかとも考えていた。
そのとき、女子高生が視界に入った。
「……。そうだ、アイツがいたじゃねぇか」
ニチャァ、と壮一は笑う。
「待ちたまえ、君」
「……。な、なんですか?」
壮一が声をかけると、女子生徒は嫌々言葉を返す。
「君は例の娘だよな? この学園では人数こそ少ないが顧客を持っているあの」
「ひ、人違いじゃないですか?」
「いや、確かに写真で見た顔と一致する。おまえだろ」
黙り込む少女に、壮一は思ったよりゲスな笑みを浮かべる。
「ボクはちょっと疲れていてだね。君がボクのストレス発散を手伝ってくれると助かるのだが。金額は弾ましてもらうよ。一時間後指定した場所に来い」
「い、いや……。本当に人違いです! それでは!」
慌てて逃げようとする少女に、正直、壮一はイラッときた。
「おい!」
逃げようとする少女を思い切り殴っていた。鈍い音が廊下内に響き渡り、少女は殴られた勢いで、壮一が蹴りつけて半開きになった掃除用ロッカーに身を打ちつけて倒れてしまう。衝撃で空いた掃除用ロッカーからは、ホウキや塵取り、中に立てかけてあった半分の掃除用具が倒れ、少女を下敷きにする。
そして、壮一は掃除用具を掻き分け、倒れ込む少女の髪を掴み、宙へと持ち上げる。
「ボクの言うことが訊けないのか! ボクは手塚グループの者だぞ! 逆らったらどうなるかわかってるはずだ。底辺の売女がッ!」
「……けど、わたしは」
怒声を浴びせる壮一に、少女は霞むような声で断ろうとする。
「……。そうか。それじゃ仕方ない。この写真を学園内に広げるしかないな」
壮一は懐からある写真を取り出し、少女に見せる。
その写真を見た少女は目を見開いた。自分の姿が映っている写真である。
「やめ、て、ください……。言うことを聞きますから……! なんでもしますから……! それだけは……本当に……やめてください……!」
震える声で壮一の誘いを受ける少女。本心は嫌だとしても逆らうことができない状況。苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、小刻みに震える少女に目もくれず、返事に満足した壮一は用済みになった物を捨てるかのように髪を放した。
「フン。最初から従ってればいいんだ玩具が。一時間後にいつも男を連れ込んでいる場所で待っている。来なかったらどうなるか、わかるよな?」
壮一はそう言い残してその場から立ち去った。
残された少女は上体だけを起こし、自分を抱きしめようにして身を縮こまる。静寂に満たされる廊下に、彼女の抑え込もうとした悲痛の感情が声となって漏れ出る。誰一人といない陰る廊下で、気持ちが落ち着くまでただただ独りで慰めるのだった。
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