表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマザクラ  作者: 兎藤うと
一章 始期編
30/43

4-2 『椿姫の後悔』

アクセスありがとうございます!



 部活終了の時間を迎えてから三〇分ほど過ぎた。

 無人の部活棟は静寂が覆い、眩い太陽が窓から差し込み、朱色の世界が広がっていた。

部室の前まで戻ってきた椿姫は、佑真から貰った鍵を使って開錠して入室する。


「失礼しま~す……、と」


 静かな部室に顔を出す椿姫。部活終了時間とともに出たばかりの部室だったが、椿姫が部室に一人という状況は新鮮味を感じる。毎日のように佑真と透が会話している部室の光景が当たり前だったせいか、二人がいない部室はかなり寂しい気がした。

 佑真が部室で楽しそうにしている姿がないだけで廃墟のような静けさが立ち込めるのも不思議なものだった。だけど、これからは先に来て佑真たちを待つことができる。待ちくたびれたよ、と佑真に向けて言える。

 それもこれも、透のおかげで部外者ではなく関係者としてこの部室にいられる。

 夢にまで見た佑真と一緒に過ごせる唯一の空間。透には感謝してもしきれない。


「……ここまで早かったなぁ。ぜんぶ、透君のおかげ」


 椿姫は、佑真の隣に来るまでの道のりを振り返り、懐かしんだ。

 佑真たちとはまだ日の浅い関係だが、濃厚な時間を過ごした。だからこそ、この部室に佑真たちと一緒にいたい気持ちが募り、次第に胸が苦しくなっていく。

 それもそのはずだ。

 椿姫がこれからすることは、そんな日常を壊すようなことなのだから。

 自分自身の秘密で脅迫され、なりふり構わず保身に走ってしまった。それが徐々に心を許してくれた佑真を、椿姫のために動いてくれた透を裏切ってしまうことになろうとも。

 相談すればよかった。助けを求めればよかった。透にだけでも。

 だけど、それは結果的に佑真に秘密を知られるわけで。結局なにもできなかった。


「今まで時間だけに身を任せて、自分から動こうとしなかった(ばち)があたったのかな……」


 椿姫は情報が大量に詰まった棚に手をかけ、仕掛けられた罠を慎重に解除する。一つ一つ罠を解除していくだけで罪悪感だけが増していく。嫌な作業だ。


「最低な女だ。これじゃ、佑真君の隣にいる資格なんてないね」


 椿姫の独り言。なにを言おうが、理由があろうが言い訳にしかならない。思い留まることもできたかもしれないのに、ここまで来たらもう戻れない。

 今、椿姫が手にかけている引き出しは壮一が引っかかったすぐ隣の引き出しだ。

 佑真が教えてくれた罠の解除法だ。どこになにが収納されているのか、どれがフェイクか、どこが一番危ないか、すべて覚えている。思い出として。

 解除が終わり、引き出しを開けた。

 中から大量のファイルをありったけカバンに詰め込んだ。

 ギャルの注文どおりのファイルを。佑真たちの頑張りを。


「……ごめんね。佑真君」


 懺悔にもならないだろう言葉を発した椿姫。


「………………そういうことか」

「……ッ!」


 瞬間、聞き覚えのある声に動揺し、椿姫は抱えていたファイルを落とす。

 振り向いた先にいたのは、無表情のまま椿姫のことを見つめる佑真だった。



読んでくださりありがとうございます!



20210219再編。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ