2-10 『因果oh報』
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誰もが寝静まったであろう深夜の桜葉学園。人気がなくなり、静寂だけが学園を包む世界に一人の男が誰の許可も得ず不法侵入をしていた。
「……クソがッ! クソがァッ!」
月明かりが射し込む窓際に姿を現したのは手塚壮一だった。
佑真から逃げ帰った後、なぜか兄に制裁された。
なんでも佑真から壮一の情報が届いていたらしく、それを知った壮一は弄ばれていることに怒り狂い、兄の制裁から逃亡して情報部に向かっている最中だった。
「なにもかも滅茶苦茶にしてやる……! 低俗の分際でボクに指図しやがって! あいつが集めたという情報を全部かっさらってやる!」
情報部の部室にたどり着いた壮一は鍵がかかった扉を蹴り破った。まずテーブルから蹴り飛ばし、目に入った絵畜生が書かれた湯呑を持ち、床に叩きつけて破壊した。
「低俗は低俗らしく、汚ねぇ豚小屋にいるほうがお似合いなんだよッ! なのになんで……なんでッ! 最近の輩はよ……! なぜッ! ボクにッ! 逆らうん、だッ!」
壮一は部室の品々を破壊し、修繕できないくらいに粉々にしていく。自分の怒りが収まるまで情報部にある物すべてに八つ当たりする。
「低民は大人しく金持ちの命令に従っていればいいんだよ……ッ! ボクは特別なんだ! 人を動かす力を持っているんだ! なのに、どいつもこいつも逆らいやがってッ!」
荒れた息を整えながら、引き出しに手をかける。
そこは収集した情報が大量に保管されている場所だった。佑真たちが収集した、いわば努力の結晶でもある情報に壮一は目をつけたのだ。
「フフフ、ここにある情報を全部売り捌けば……! 情報部に関わってきた全員の人生を狂わすことができる! 信用を失った情報部は廃部、あの低民どもを学園から追放することも可能になる! なによりこれを使えばボクだけに従順なしもべが作れる……! ボクだけの人形が手に入る。ああ、なんて良い日なんだぁ!」
悪人に相応しい笑みを浮かべ、中身を想像しながら大量の情報が書かれた紙屑のためだけに引き出しを勢いよく開ける。
壮一は予想しなかったのだろうか。厳重に保管された場所になにもないわけがない。だが、私欲で周りが見えていない壮一は警戒しなかった。慎重という言葉が頭の片隅から消えるほどに、ただ単純な思考回路で情報部の図中に嵌ってしまったことに気づかずに。
引き出しが全開になった瞬間、金具が外れる音とともに、空中に大きなペットボトルが数本投げ出せれた。一瞬だけ宙を舞ったペットボトルは落下し、元の場所へ戻っていく。
壮一の目線は自然と落下するペットボトルを追いかけ、引き出しの中へ引き込まれていく。そこで目にしたものは、宙を舞ったペットボトルと同じ容器が数本ほど綺麗に並んでいた。それもまた、ペキペキと不穏な音を鳴らして。
「あ?」
壮一は知らないことだ。引き出しは手につきやすい場所にあった。そして情報を取りやすいように少し力を入れただけで錠が外れる仕掛けがされている。
なら、そこにある物は、放課後に佑真たちが椿姫に教えるために仕込んだドライアイス爆弾であり、侵入者が開けた途端、作動して爆発するフェイクの引き出しであること。
壮一はペットボトルの正体がわからず、ただ不思議そうに爆弾を見つめている。
無知で愚かだった。そう簡単に情報が手に入るなんて甘い考えが。そして、佑真たちがテリトリーに侵入した者に慈悲も情けすらかけないことを、爆弾が物語ってることにも。
やがてドライアイス爆弾は膨張を続け、ペットボトルが大きく軋むと同時に爆発した。
張り裂けるような爆発音が静寂を打ち消して学園中に響き渡る。
真正面から喰らった壮一が無事なわけがなく、なにが起こったのかを理解できないまま悲痛な叫びを上げ、耳を塞ぎたくなるような爆発音によって絶叫はかき消された。
………………、そして。
後日。
手塚壮一の停学が決まり。
入院が決まった。
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