1-9 『束の間のひととき』
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壮一が立ち去ってから約一時間。部室には平和が訪れていた。
「はいお茶。ついでに追加の菓子」
「いやだからなんでフライドポテトなんだよ」
なぜか追加されるジャンクフードに突っ込みながら、二人は呑気にお茶を啜っていた。
「で? 本当に送ったの? あの情報」
「ああ、送ったぞ。そしたら報酬くれるみたいだぜ」
「へぇ、律儀なお兄さんだね。それに比べて、どこをどうしたらあんな弟君ができるのか」
「まあ、出涸らしだから、ああなるんじゃねぇの?」
あの出来事があった後、すぐに壮一の兄、手塚明宏に電話をしていた。
壮一の悪行をすべて話し、証拠となる動画や録音データもあると明宏に伝えると、欲しい、と言うので情報部のルールに沿った要求をしたところ、あっさり交渉成立した。
そのおかげでお茶の復讐が終わったので佑真は満足していた。まったりお茶を啜っていると、部活終了を知らせるチャイムが学園中に響き渡る。
『下校の時間になりました。校内に残っている生徒は速やかに下校してください。また、学園に残る生徒は、担当の教師に許可を頂いてください。薄暗くなると危ないですから、寄り道しないで下校してくださいね。さようなら』
チャイムが鳴り終わると、心癒されるような女性の声が学園中に響き渡る。
この時間になると放送部が部活終了のシメとして毎日のように放送が入るのだ。この声の正体は放送部のマドンナと呼ばれる有名な女性生徒の声だ。
「相変わらず、綺麗な声だよねぇ。放送部の天使ちゃん」
「ああ、本当にな。うちに欲しいくらいだ」
「佑真……セキセイインコじゃないんだから、もっと言いかた変えたほうがいいよ?」
「誰がペットに欲しいと言った」
そんなやり取りをしながらテーブルの上を片づけて今日の活動は終わった。
他愛のない会話をしながら昇降口に向かい、各々の靴箱から靴を取り出そうと開ける。
「ん? あれ?」
佑真が自分の靴箱を開けると違和感を覚えた。いつもなら二日前に新調した靴に白い手紙が添えられていたのだが、その手紙が今日にかぎって添えられてなかった。
「どうしたの佑真?」
「いや、なんでもない。ただ今日は手紙がないんだな、と思ってな」
「ふーん、どれどれ……ホントだ。手紙がないねぇ。……可笑しいなぁ」
「なにか心当たりがあるような口ぶりだな」
「い、嫌だな。佑真の勘違いだよ。僕はただ、毎日欠かさず送られてきたラブレターが途絶えるなんて不思議だなぁ、と思って。ここまで送っておいて諦めるとは到底思えないんだよね。なにかしらのトラブルに巻き込まれてるのかなぁ、って考えてみたり?」
「ふーん。まあ、いいや」
やけに必死に弁解する透だが、この件に関して追求しないと佑真の中で決めているので、これ以上訊くこともなく、靴に履き替えて昇降口を出る。透もそれに続く。
「佑真、今日どこかで食べていかない?」
「………………」
「佑真?」
「……ん? ああ、なんでもない。今日もいきつけの店でいいだろ」
「りょーかい。さて、今日はなに食べようかなぁ」
満面の笑みで言う透。そんな透を横目に、佑真は妙な胸騒ぎを感じていた。今日はなかった手紙と透の言うトラブルの話を聞いてから、嫌な予感がしてたまらなかった。
「佑真ぁ、食べ終わったらさ。ゲーセンにでもいかない? 音ゲーで対戦しようぜぇ」
「……。ああ、いいぜ。負けたらジュース一本な」
「乗ったぁ!」
きっと気のせいだ、と思い直した佑真は、透のくだらない話に花を咲かせるのだった。
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