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進行

「……何か、あった?」


 愛美が戻って来たとほぼ同時に睨みを効かせつつケントにそう尋ねるのを見てケントは内心で冷や汗をかきつつ平静を装って答える。


「なにも、なかった。」

「……嘘は、よくないからね……?これから匂いを嗅ぐけど……先に、何か言うべきことがあったら、聞くけど……?」


 目から光を失せさせて包丁を持つ手に力がこもる愛美。それを見てケントは必死に頭を巡らせる。


「えぇと、何かって、もしかしたら姉ちゃんと考えの違いがあるかも……」

「そこの淫乱なメス共に誑かされてない?例えば、頭を撫でさせられたりとか、してない……?」


 ピンポイントで告げられてケントの目は思わず大海原を泳ぎ始める。


「そ、し……あ、な、撫でたかも……しれないけど……」

「…………そう。」


 無表情。無感動。無機質。そんな声音で愛美は包丁を両手に持って急に笑顔を作り上げてケントに尋ねる。


「それで…………どっちなら、殺していいのかな?いや、どっちを、殺すべき、なのかな?」

「りょ、両方、殺さないで……欲しい……」


 地面が踏み砕かれた。


「……どっちも、ダメ?ナンデ?どっちか、ナデタんでしょう?」

「れ、練習だから、その、メグ姉を撫でる。」

「……なぁんだ。そうなの?」


 張り付けられたような笑みから普通の笑みに変わると愛美は包丁を持ったまま両手を合わせる。


「下手でも、ケンちゃんに撫でられることに意味があるのに。練習なら私をずっと撫で回せばいいんだよ?」

「あ、アハハ……アハハハハ。それだと、メグ姉の頭が、疲れるでしょ?」

「それでもいいのに~♪」


 和やかな空気になって、逃れきったとケントが思った瞬間、目の前を高速で何かが横切り、木に何かが突き刺さる音が大量にした。

 その音に驚いてケントが振り返ると夥しい数の包丁がイレーヌとエスクラの服を木に縫い付けていた。


「ホント……良かったよ。ケンちゃんがいない間、非っ常に不本意ながら、面倒を看てたのはアレだから……あんまり、殺さない方が良いかなって、思ってるんだから……ね……?」


 ぞっとするような美しい笑顔と共に頬に手を添えられるケント。しばし見つめ合った後、照れたようにして顔を放した愛美は包丁を消して二人を地面に落としてケントに笑いかける。


「さ、行こ♪」

「う、うん……」


 心配するような視線にも反応されて何もできないケント。そんな彼に木にしていないと言う笑顔を向けて睨まれる二人。


 そんな一行は次の町へと進んで行く。


 そろそろ次の町が見えるくらい歩いた頃、日が高くなっておりケントの汗の寮や匂いなどでそろそろ喉が渇いただろうと分かった愛美は飲み物を準備してにこやかにケントに渡した。


「はい、疲れたでしょ?」

「……ねぇ、それを僕に飲めって言うの……?」

「?うん。何か変かな?」

「……何もかもが。」


 手首をすっぱり切って血を流しこまれたコップを渡されてケントは逆に血の気が引いている。

 そんなケントに対して既に傷も塞がった愛美は首を傾げた。


「でも、ケンちゃん私特製のトマトジュース好きだったよね?」

「好きっていうか……トマトは嫌いだけど、あれだけは飲めた……まさか……?」

「うん。私の血が入ってたんだよ~?ケンちゃんにね栄養満点の飲み物を飲んでほしいから、きちんと栄養管理して絞ったんだ~今は、お姉ちゃんの嗜みで色々出来るんだけどね。」


 吐き気がした。そんな感情が表情に出ていたのか愛美は慌てて説明を付け加える。


「ほ、ホントはね?最初、私もちょっと躊躇ったんだよ?」

「ちょっとだけなの……!?」

「いや、ケンちゃんが中学校に入って2年目、私と一緒にお風呂に入ってくれなくなった後までは流石に入れようとすら思わなかったよ。」

「………………何て言ったらいいのか分かんない……」


 本当に、何て言ったらいいのか分からない。笑えばいいのだろうか?


「あの頃は、まだよかったけど……その後、合法的に飲ませるにはどうしようかって考えたら……牛乳好きだったよね?」

「好きって言うか……身長が、ね……」

「だから、私の母乳も好きかもって思ったの。」


 意味が分からない。


「でも、ケンちゃん以外とそういうことするつもりもない私は……母乳が出せないから、その原料である血でいっか。と思ったわけ。」

「……何から何までアウトなんだけど……え、僕、本当にメグ姉の血入りジュース飲んでたの?」


 愛美はそこでどこかの魔神の言葉を思い出した。想いは相手に押し付けると重くなる。だから相手が引いたら魔法の言葉を用いて余分な想いは回収するべきだと。


「うふふ~冗談だよ~?」

「……どこからどこまでが……?」

「ケンちゃんの想像にお任せしま~す。これ、飲まない?今、私ってね精霊の一種だから……まぁこの血も樹液みたいなもの。美味しいよ?」

「え、遠慮しておきます……」


 精神都合上、自分に最もいい選択をすることでケントは自らのことを守って無事に次の町へと着くことが出来た。




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