再会の間
父様、母様、そして姉上とイレーヌ。最後にエスクラが見守る中で僕は詠唱を終えて、そして最後に名を叫んだ。
「いでよ!我が共にして未来を歩むパートナーよ!」
「きゃっ♡登場と同時にそんなこと言ってくれるなんて……お姉ちゃん頑張った甲斐あったよ♪」
「ん?」
召喚陣が光を失う中で現れたのは、何故か見覚えのある人物。僕は言葉を失った。
「――ところで、ケンちゃん?そこの女の子たちは、何かしら?」
「愛美姉ちゃん!?な、何で!?え、何で?」
前世での見覚えのあるその美貌。何度からかわれて困ったことか。その彼女が顔に鮮血やエプロンドレスに青い血と思われる何かをべったりと付着させて包丁を構えて目から光を失わせてこちらを見ている。
「ねぇ、そこの女の子たち……まさか、ケンちゃんと……付き合ったりしてないでしょうねぇぇぇええぇぇぇぇぇえぇぇ?」
ぐりん。
髪の毛を振り撒きつつ人間としては危険な水準で首を反転させる前世の姉と同じような姿をした美女。
「け、ケント……早く、契約を済ませなさい。」
父様が辛うじてそう言う。父様を守護している精霊が怯えているのが目に見えており、僕は勇気を出して目の前の存在に尋ねた。
「な、汝の名を……」
「やだぁ、さっき呼んでくれたじゃない。愛美って……ウフフフフフ。」
「わ、我が名はケント。」
「知ってるわ。前世でもおむつからお世話したケンちゃんよ?今世もしっかり見守ってたからね♡…………勿論、そこの、変なのと、仲良くしてたことも……」
包丁が不気味に光る。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……
「汝は……我が道に沿い、歩むことを……」
「誓うよ?そんなの言われるまでもないじゃない。」
「で、では、ここに契約の証として……」
「指輪がいいな。」
契約の輪。相手がどのような存在でもいいようにある場所に固定すれば自動で締まるその輪。
例えば、獣型だと首輪に、父さんのように精霊や人型だと腕輪にするのが一般的だ。
だが、目の前の彼女はにっこり笑って左手の薬指を差し出す。
「はい。どーぞ。」
「あ、あの……精霊さんにはない文化なのかもしれませんが……左手の薬指は婚約を交わすことと同意義でして……」
エスクラがおずおずと口を挟むが今の愛美姉ちゃんには眼中にすらなく、話しなど聞こえていない。
僕の持っているこの契約の輪と僕にだけ集中している。
「はい、どーぞ?」
召喚陣から勝手に出て来て愛美姉ちゃんは僕に迫る。無意識にその分だけ下がる僕。詰める姉ちゃん。
「どうして、逃げるの、カナ?」
「ケント、その召喚獣は異常だ!キャンセルも……」
「あら、お義父様、それは無理ですよ?彼の契約できるほかの召喚獣は皆殺しにしてきたので。」
艶やかに笑う愛美姉ちゃん。その言葉に父さんは絶句した。
「だって、ケンちゃんが……他の召喚獣に目移りするなんて許せないもんね……仕方ないよね?」
華やぐ笑顔が眼前に迫っている。だが、僕は引き攣った笑みしか浮かべられない。
「め、愛美姉ちゃん……こんな、怖いことしたこと……」
「だって、ケンちゃんがずっと一緒って言ってくれたのに勝手に死ぬんだもの。じゃあ、私がこうなっても、仕方ないよね……?」
その点に関しては全責任が僕にある。悲しそうな姉ちゃんの顔を見ると僕は何も言えず、その手に契約の輪をかけた。
かけて、しまった。
「じゃあ、お返し。はい♪【永久なる赤い鎖】裏切っちゃったら許さないんだから♪」
僕の左手の薬指に蛇のような何かが絡みつき二重になると指輪化した。それを見て姉上が止めに入るが僕に触れた瞬間僕の心臓が跳ねた。
「かっ……!」
「あっ……け、ケンちゃんが……許せない。あんた、何をしてくれたの……?」
「あなたこそ!あなたが元凶でしょう!?」
「説明する前に触れるなんて……何て悍ましく、図々しい泥棒猫……この運命の赤い糸はね、あたしとケンちゃんの絆の証だよ……他者が触れるとその証が私の代わりにお説教するんだから。」
姉ちゃんの明るい声に対して僕の胸の動機は収まらなかった。そんな僕を心配そうに覗きこみながら超至近距離の姉ちゃんは何かを飲ませて僕を回復させると朗らかに告げる。
「じゃ、魔界に行かないとね。この国じゃ……精霊と人間の結婚は認められていないし……」
「はぁっ!?」
驚く僕。止める家族。様々な表情の中で姉ちゃんはにっこり笑っていた。