運命の日
「ついにこの時が来た……」
あまりよく寝られなかったが、気分の高揚が非常に素晴らしいものであるのを自覚しつつ俺は朝目を覚ました。
「坊ちゃ……お目覚めでしたか。ご支度を整えますので……」
「うん。……いつも言ってるけど、自分でやるよ?」
メイドのイレーヌといつもの様な会話をするが、その会話にも落ち着きがなくわくわくしている。
「ダメです。せめてもう少し大きくなってからに……」
「僕、今日で14歳になるんだけど?大人だよね?」
「……今日の正装の服を見てもらった方がいいですかね?」
主人であるのに自分で着替えようとするケントに呆れたようにイレーヌが礼装を持って来て尋ねる。
「召喚の儀に際しての礼装に補助器具、どこに何を付けるのかお分かりなのですか?」
「……わかりません。ごめんなさい。」
「では、服を脱いでください。」
まじまじと見られると恥ずかしいのだが……そう思いつつケントは寝間着を脱いでいく。
能力は一般値と言われたが、どこかに抜け道はないかと一生懸命鍛えたその体は引き締められ、一般値の最高値に達している。
「では、着替えが済みましたので準備が出来ましたらお館様と奥方様の所にお急ぎください。」
「うん。」
そうしていると彼が幼い時に救った奴隷少女、エスクラがこの場に駆けて来てこの場は賑やかになる……
そんな光景を上空から眺めている人外たちが。
「ケンちゃんに近付くモノは皆殺しだ、皆死ね……邪魔、媚びるな、変な匂いを擦り付けるな……!八つ裂きにして煮るぞ……!」
「まぁその怒りを現在召喚される前でスタンバってるアレらにぶつけな。勝負は一瞬だ。まぁ先に排除してもいいぞ。その代わり全員が敵になるけどな。」
「ぁうっ。わ、わかりました……」
二人の間では恒例の暴走した愛美に薬物をかけて強制的に頭を冷やす作業を行い、愛美を落ち着かせると彼女は手に持っている包丁を構える。
「……排除します。」
「よし、行って来い。」
跳躍。この場に重力などないように感じさせる身のこなしで彼女は魔物の群れに飛び込んで行った。
鮮血が迸り、阿鼻叫喚の図の中でこの世界の神が現場をにやにやしながら眺めている黒ローブの青年に声をかける。
「ん~……流石に、普通の人間で勉強とか一般的なことは出来るけど、戦闘すらしたことない子が僕のコレクションに勝てるんですかね?」
「ハッハ。勝つだろ。」
一笑に付されたことでその神は僅かにムッとして青年に言い返す。
「……もしかしたら、僕のコレクションたちがあなたの弟子に土を付けるかもしれないですよ?そしたら……お、お願い事が……」
「ん?いや、片付いたぞ。」
神が言い淀んでいる内に愛美はその美しい顔に返り血を浴びつつその場にいたモノを殆ど物言わぬ物体に変えていた。
「い、いや。まだ、あの子が……僕のコレクション中最凶の、宝石の七面鳥を意味するチャルチュートトリンが……」
「あぁ、病気と疫病の神。……本物じゃないか。まぁ本物とか連れて行こうものなら普通の魔王どころか魔神が降臨するわけだしな。当然レプリカだろ?それならあの姉の方が病んでる。あいつの勝ちだな。」
恐るべき鳥はヤンデレ七つ道具・ロープで吊るされた後、同じくヤンデレ七つ道具の包丁で頸動脈を切り裂かれて血抜きされている。
「ま、まだ居るし。今度は僕のコレクションの中で本当に、最強なんだからね。アジ・ダカーハ!やっちゃえ!」
「あ、召喚門が開いた。」
「【魔神大帝】様!行って参ります!」
「おう、気を付けて。」
愛美は輝き始めた場所に臨戦態勢を整えて余裕と戦略的に先手を譲ろうとしていたアジ・ダカーハを無視して飛び込んだ。
召喚陣に吸い込まれて行く愛美を見送って神は叫んだ。
「……戦えよ!」
「いや、元々あの門に入る勝負だし……」
そんな神に対して【魔神大帝】は冷静に返すが、神は納得していない。
「アジ・ダカーハも困惑してるじゃん!」
「……仕方ない。俺が相手をしてやるか……」
「やめてください!?」
愛美のいなくなった空間でそんなやり取りがあったが、愛美はいないのでそのようなことには全く気付くこともなかった。