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合流・激突

 山を飛び、キスをしてしまい、谷を越え、デートで始終腕を絡ませたり恋人繋ぎをし続け、湖を渡り、ディープキスまで済ませたケントと愛美はとうとう人間界最後の町に着いた。


 そこで、現在怒りに目を燃やした愛美とケントの直前の死者であり、この世界の現勇者が睨み合っていた。


「……まさか、この世界でもお目にかかるとは思っていませんでしたよ……お義姉さん。」

「……あなたにお義姉さんと呼ばれる筋合いはないわ。エリコさん。」


 睨み合う両者、震える大気、地響きの鳴る地面。ケントは頭を抱えてその場に項垂れていた。


(あー……一緒に事故に遭ったんだから、エリコが死んでた可能性も……あったよ。一応、助けたつもりだったんだけどなぁ……)


 ケントの幼馴染にして、延々と才色兼備ながら同じ学校に進学してどんな手を使ったのか知らないが毎回同じクラスになり、担任が顔を青褪めさせて席を隣にしていた美少女、エリコが勇者の武具を全て装備してこの場に立っていた。


「ケン君……また会えて嬉しいよ?もう、ニガサナイカラネ……?」

「おかしくないか!?」

「もう……慌ててトラックに撥ねられて、ケン君を助けに入った私を我が身を犠牲にしてまで突き飛ばすくらい私のことが好きなんだから……ニガサナイ……」

「最後おかしいだろ!?つーか、やっぱ……一応、助けたよな……」


 最期の記憶は捏造ではないらしい。であれば、何故彼女は……


「……きちんと助けられてなくてごめんね?目の前でケン君が死んじゃったから……私もショック死しちゃったの。」

「無駄死に!」

「でも、神様は私とケン君をまた合わせてくれたの……そう。これが神の思し召しなの……ゼッタイニ、ニガサナイ……」

「俺の前世の知り合いってこんなのばっかりだったの!?」


 そこでケントはそう言えばと静かになっている愛美を見る。彼女はわざとらしさをにじませる手つきで契約の輪を慈しんでいた。


「……で、何よ。」

「これを、見てわからないのかな……?もう、あなたに出る幕はないって……」


 勝者の冠のように左手の薬指を掲げる愛美。それをエリコは鼻で笑う。


「どうせ、ケン君から買ってもらったのを勘違いでもして自分でつけたんでしょう?」

「ケンちゃん……言ってあげて?誰が、この指につけたのか……そして、この契約の輪の材料を……」

「……僕が、つけた……材料は、僕の髪を中に入れて神銀でコーティング……」


 この時点で勝敗は決した。そのまま後ろ向きに倒れる勇者に対して完全に勝ち誇る愛美は【ヤンデレ姉の嗜み(エルシスタスク)】の1つ、盗聴器を用いて契約文を宣言するケントの言葉を再生し、ダメ押しで止めを刺す。


「わかるかしら?これが、勝者。将来、共に歩むと、誓われた……これこそが私がケンちゃんに相応しいと言う事実!何せ、本人が、言ってるのだから!」

「うぐ……そ、その指、叩き切って、私の指と入れ替える……!」


 それでも尚も反撃しようとするエリコに愛美は勝者の愉悦が滲む笑みで彼女を見下しながら続ける。


「あらあら、ケンちゃんの思いと宣言を踏み躙るのですか!そうですか!やはりあなたのような方はケンちゃんには相応しくないですわね!」

「うぐぅ……い、言わせておけばぁ……!」


 戦闘が、始まった。


「ケンちゃん。これ、闇の衣。危ないから着ておいて。」

「……ケン君。そんな女のなんて所詮防御力ないからさ、この女神の羽衣を羽織っておいた方がいいよ。」

「あら?そんな羽衣、あなたの胸と同様に防御力も皆無そうですけどね?」

「あの衣だってお義姉さんの知能程度しか防御力がなさそうですが?」


 武器がぶつかる。


 この世界の神々から、また歴代の勇者たちの力が乗せられた聖剣と人切り包丁が凄まじい音を立てて衝突し、火花を散らして衝撃波で空が割れる。


「あら、あなたのようなお馬鹿さんには私の成績もわからないのですか?」

「勉強と、地頭を一緒にする方がお馬鹿さんじゃないんですか?」


 勇者の光の魔術が放たれ、通常の人間の視神経が焼き切れるような力が愛美に向かって飛び立ちそれをロープが螺旋状の盾になって受け止める。

 勇者パーティは初めて見るエリコの本気の力に全力でイレーヌ達と協力して防御陣を固めていた。


 ケントは、何ともない。


「お義姉さん。大人しくしてくれませんか?ちゃんと両手両足を切除して生かしてあげますし、結婚式にも特等席で招待してあげますから。」

「あなたこそ大人しくしてください。その死体はちゃんと私とケンちゃんのマイホームの庭に埋めて綺麗な花が咲くようにしてあげますから。」


 空に放たれたロープから毒薬が雨の如く降り注ぐ。光の盾でそれを中和した瞬間に、愛美が懐に入って掌打を叩きこんでエリコに発勁を捻じ込み、気を失わせたかに思ったが、彼女の聖装はそれを通さない。


「厄介な、方ですね……!前世でも、今世でも!」

「あなたこそ、前世でも今世でも邪魔ですね……!」


 この激闘は2昼夜飲まず食わず続けられ、結果は僅かに愛美が勝つがケントが止めに入ったところで限界を迎えてノックダウン。


 魔界と人間界の境界付近で起きたこの大規模な戦闘により人間も魔族も慎重派が生まれ、両勢力は一時的に休戦することになった。




 取り敢えず1部完結です。読了ありがとうございました。

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