プロローグ
『君は……10000000000000000000番目だね。』
唐突に、何もない空間に声が響いた。それを聞きとって俺はまさかの事態に対して期待に胸を躍らせる。
『おめでとう。んじゃ君のお望みどおりに異世界に行って来て。目標とか理由とかは……特にないけど、まぁちょっとした身内の流行りに乗っていてね。君の前のぞろ目くんに魔王退治とかは任せたからそういう類の強力な能力付与は出来ないけど、何か欲しいのある?』
(……何か、この神様適当な感じだな……威厳とか……)
彼が心中でそう思うと声が再び聞こえてきた。
『あ、舐めたこと言ったから通常能力値は一般人に固定ね。』
彼は心を読まれたことで驚き、動揺を誘われる。
(っ!心を読まれたっ!?む、無心で考えないと……え、と、えぇっと……)
『今ちょっと心狭いとか言ったから能力も一つまでしか付与しない。』
「しょ、召喚術で!この世界の最も強い存在を召喚できる能力をお願いします!」
彼はこれ以上何か余計なことを考える前に望みの願いを言った。能力値が低いのならば誰かに戦わせればいい。すでに彼が異世界で何かと戦うことを前提で話しているのが伺える力強い言葉だ。
『オッケ。まぁボクは戦いに行かないから多少の召喚獣にしてっと。んじゃ……まぁアレだね。君を送る世界はこっちで勝手に決めるよ。んじゃ良い人生を。』
そして、神様の発言と共に彼は異世界へと旅立って行った。
ある少年が人生を終え、別世界へと旅立ったそのほぼ同時期の地球にある日本。その中の片田舎にある安田家ではしめやかに通夜が行われていた。
「うぅ……ケンちゃん……どうしてお姉ちゃんを置いて行っちゃったの……?」
「馬鹿もんが……親より早く死ぬ奴があるか……」
通夜では事故死をしたのにまるで眠っているかのように安らかな顔をしている少年が入っている棺に多くの人が言葉を投げかけている。その輪から外れた場所に、亡くなった少年のすぐ上の姉が忘我の状態で佇んでいた。
彼女はまるで夜の帳をそのまま閉じ込めたかのように黒く、そして艶やかな髪をしており都会を歩けばスカウトが土下座してでも事務所入りを懇願するような美貌の持ち主だ。そんな彼女はその端正な顔を沈痛な面持ちに染め上げていた。
「……そうよね。ケンちゃんがお姉ちゃん置いて行くわけがないもんね。千佳ねぇはまだしも私はずっと一緒って言ってたもんね?」
彼女を慰め、そしてあわよくばという下心を持つ者たちが時折耳にするのは彼女のその様な言葉。彼女の弟は彼女を置いて行くわけがないといったモノ。または彼女と彼女の弟の過去を回顧し慈しむ声。そして時折放たれるのは特定の女性たちに対する殺意。
声をかけたいと思う人物たちも今は見送りにして葬式に参加しようという風に思わせるには十分な殺気を放つ彼女は壁際に一人だった。
そして彼女は一人外へと出て行く。
「……ケンちゃん。こっちなの?」
「お、おい……愛美ちゃん何処に行くん……!?」
弔問しにやって来た人が一人でどこかに行く彼女を見て声をかけるが彼女は聞こえなかったかのようにそのまま進み、突如俊敏な動きを見せて走り去って行った。
そしてこの後彼女の姿が見られることはなかったという―――