炎の巨人獣
火山のふもとの平地にて、ファイダを中心に囲むようにして、4人は戦っていた。
「我が流星の如き剣技を受けてみなさい。シューティングスターラッシュ!」
セインの鮮やかな剣の連打にファイダが怯みをみせて首を縮ませる。
「後ろを取らせてもらったよ。そーら、叩くよ!」
オサダが手にした六角棒を力任せにファイダの腰に叩き付ける。ファイダは怒りをあらわにしてそちらを振り返る。
「これを使う時が来たか。それー!」
エンデが懐から取り出した大きなムチでファイダの背を叩いた。ファイダは足を広げて大地に倒れた。オサダが関心したような声を上げた。
「そのムチ強いね。どこで手に入れたの?」
「カジノで頑張ってコインをためてもらいました」
「なるほど」
「とどめは俺が刺すぜ! くらえ、久しぶりの半チート!」
公太郎の双剣が立ち上がろうとするファイダを斬る。ファイダは今度こそ倒れて動かなくなった。
「やれやれ、お嬢さんにとどめを持っていかれてしまいましたか。まあ、女性に勝ちを譲るのも男の美学というものか」
セインは堂に入ったしぐさで剣を納めた。
「やったー! ファイダを倒したよ、公ちゃん!」
エンデは飛び上がって喜んだ。公太郎はどこか物足りない気分だった。
「こんなものなのか。フリーザーに比べたら全然たいしたことなかったな」
そこにちっこい少女の姿をした神様が現れた。
「今回は4対1でしたからね。他の3人も強かったですし、楽に感じるのはそのせいでしょう」
「そっか、そういうことか」
「お疲れ様、みんな」
「お疲れ様」
公太郎達が戦いの終わりをねぎらっていると、そこにフィオレが走ってやってきた。
「公太郎ちゃん! いったい何と戦っているの!? ファイダは!?」
「フィオレ! 来やがったのか! そいつがファイダだよ。安心しな、もう倒したぜ!」
公太郎は倒れた赤いトカゲを指さして笑って見せた。フィオレの顔色が変わった。
「違う! そいつはファイダなんかじゃない!」
「え? だって、ファイダは赤いトカゲだって」
そう言いかけた時、再び火山が噴火した。
そして、火山の火口から多くのトカゲの群れが姿を現した。
「そんな・・・・・・ファイダがいっぱい・・・・・・」
エンデが驚いた顔で見上げる。公太郎も同じような顔をしていただろう。
「いったいどうなっているんだ・・・・・・?」
「違う、あいつらはそうじゃない。本当のファイダはあいつ」
フィオレだけが戦う決意をした者の瞳をして、その姿を見つめていた。
なおも吹き上がり続けるマグマが巨大な人の形を作り出していく。そこから伸びる二本の太い腕が火山の斜面へと叩き付けられる。そして、前のめりになって垂れ下がったその頭部に巨大な一つの瞳が開かれ、その下に広がった裂けた口から世にもおぞましい産声が放たれた。
『よくぞ来た。神に選ばれし少女。そして、恐れを知らぬ人間達よ。まずは我が力を見届けよ』
その瞳から一筋の光が迸る。遠くの景色が一瞬のうちに炎の海に包まれていった。人間達はただ息を呑んでその光景を見つめることしか出来なかった。
『この戦いは神へと捧げる神聖なる舞台。この力を見てなお恐れず向かってこれる者だけ来るがよい』
誰もその場を動けなかった。ただ、フィオレだけが前へ出た。
「安心して。みんなはわたしが守るから」
フィオレは大剣を手に火山を昇って走っていく。炎のトカゲの大群が迎え撃つように一斉に動きを開始した。フィオレはそのうちの半数をたった一振りで一気に壊滅させてしまった。
フィオレはそのままファイダの頭を狙って飛ぶ。ファイダの瞳から発射されるレーザーをフィオレは剣で受け止めた。だが、受けきれずに火山のふもとの平地の向こうまで弾き飛ばされてしまう。剣によって軌道を外されたレーザーが遠くの景色を赤く染め上げていった。
みんなが声を失って見ている中で公太郎だけが違和感を感じていた。フィオレが苦戦しているように感じたからだ。
「フィオレ! お前、まだ本調子じゃないんじゃ・・・・・・」
「大丈夫! わたしに任せて!」
「フィオレ・・・・・・」
「これで決める!」
フィオレは剣を正面に構えて精神を集中した。剣から光の刃が伸びていき、天をも貫くほどの長さとなっていく。
フィオレはそれを振りかぶろうとして、ふらついた。苦しそうに顔を歪ませ、剣から光が消えてしまう。
それを好機と見たのか、さらにマグマの中から数を増やした赤いトカゲの大群が一斉に山を下りて、たった一人の少女へと向かっていった。
その場の誰もが動けなかった。ただ、公太郎だけが走り出した。
「公太郎、何をするつもりですか? 今のあなたではあれを止めるのは無理です。今はせめて彼女を応援しましょう。わたし達に出来ることはそれだけです!」
「冗談じゃねえ! 俺はフィオレを助けるんだ!」
「公太郎!」
公太郎は神様の制止を振り切ると、3倍の速度で赤いトカゲの大群の前に立ちはだかり、その勢いを止めようとした。だが、それはあまりにも多勢に無勢だった。公太郎はいとも容易く吹っ飛ばされてしまう。
「なんでだ・・・・・・なんで俺じゃ守れねえんだよ・・・・・・」
公太郎は現実世界のことを思い出していた。
平凡だった頃の自分。あの頃は世界のことなんて何とも思っていなかった。ただ自分だけが強く楽しくありたくて、そのために妖精に力を借りて自分の世界を破壊することまでやってのけた。ただ、自分のためだけに。
<いつからなんだろうな・・・・・・>
公太郎は青い空へと手を伸ばした。
<いつから俺は何かを守りたいなんて思うようになったんだろう・・・・・・?>
その手を掴んでくれる暖かい手があった。膝枕をしてくれた時には微笑んでいた顔が今では泣いていた。
<そうか・・・・・・俺はこいつのために・・・・・・>
公太郎はそっと彼女に微笑みを返した。
「泣くなよ。俺達ってそんなキャラじゃなかっただろ?」
「公太郎ちゃん!」
公太郎が気が付いたのを見て、フィオレはぱっと顔を輝かせた。そこにちっこい少女の姿をした神様が現れた。
「公太郎、気を付けてください。今のは半チートが無ければ即死でしたよ」
「へっ、ありがたい能力だな」
公太郎は体の痛みを我慢しながら立ち上がる。
「公太郎ちゃん、大丈夫なの!?」
「お前こそ大丈夫なのかよ」
公太郎は手を差し伸べる。
「もちろん!」
フィオレはその手をとって立ち上がった。二人、敵の姿を睨み据える。
赤いトカゲの大群が迫ってくる。
「まずはあいつらを何とかしないとな」
その時、トカゲの前できらめく閃光があった。次々とトカゲの頭を突き崩し、その隊列を乱れさせていく。
「喝ッ!」
さらに一瞬響き渡る声が空間ごと凍らせるかのようにトカゲのグループの動きを止めてしまう。
さらにうなりを上げる長いムチがトカゲの軍団を叩き伏せていく。
「わたしの剣技は流星の革命。女性だけを戦わせるなど、わたしらしくない失態でした。ここからは名誉挽回とさせてもらいます」
「おじさんも良い所を見せないと、若い子達に舐められるわけにもいかないからね」
「ザコの相手は任せて! このままボスも狙っていくけど!」
「お前ら・・・・・・」
公太郎がともに戦った三人の姿に声を失っていると、さらにトカゲの後ろに現れた人影があった。
「俺のことも忘れるんじゃねえぜ!」
ファルコンの爪がトカゲの尻尾を切り裂く。
「さすがはトカゲ。尻尾はよく切れるな。おっと!」
数匹のトカゲが振り返って前足を叩き付けてくるのを、ファルコンは身軽な動きでかわし、再び岩陰に身を隠した。
ファルコンは同じ行為を繰り返し、トカゲの群れが混乱状態に陥っていく。
「わんわん!」
そこに犬が走ってきた。犬はジャンプして空中で回転すると、そのまま高速回転へと移行して空飛ぶ円月輪となって縦横無尽にトカゲの軍団を切り裂いていった。
「犬つえー!」
「公太郎ちゃん!」
「ああ!」
フィオレの声に公太郎は振り返る。そっと彼女の背後に近づき、その体を支えた。
「公太郎ちゃん?」
「俺がお前を支えてやる。だから、さっきの一撃を今度こそお見舞いしてやれ。今日だけは主役を譲ってやるよ。俺もお嬢さんってやつにな」
「フフッ、変なの。でも、やるよ。せっかく譲ってもらったんだしね」
フィオレは剣を構え、精神を集中する。剣から光が伸びて天をも貫くほどの長さの輝きとなっていく。
その光景をミスターカボチャは見晴らしのいい遠くの丘から見ていた。
「このまま終わるかね。せっかくこれを作ったんだけど」
その足元の地面にはそこだけ綺麗に整地された滑走路のような地面が伸びていた。




