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戦火をくぐり

呉サーバーから大湊に左遷されたら、エラー猫がへってすこし寂しい

「あんの大馬鹿もんがああ!ハワード!艦隊を率いて陸奥の艦隊を支援してくれ!最大船速でだ!」

〈I Sir. (オーライ承知した)〉

さらに艦隊を二つに割る判断。

アーレイバーグ級駆逐艦ハワードに率いられてこんごう艦隊に向かい、ひゅうがは単艦すずつき救援に向かう。

セイロン沖海戦の第二幕があがる。


「しかし艦長、すずつきを見捨てる結果になりましたが」

「あいつはタフだ。そう簡単には沈まんよ」

こんごうCIC、艦長の陸奥は砲雷長の利根の問いに返す。

「我らの任務は敵の殲滅。今人類は全線戦で後退中だ。だから、一秒でも早く、各国司令部は祝砲を挙げたがっている。駆逐艦一隻の沈没はいい悲譚になるしな。"味方の死を乗り越えて任務を全うした艦隊"。盛り上げるにはちょうどいい」

「…」

「ジャミングで長距離通信もノイズが混じる。特に敵に近づくに連れてだ。衛星を見る限りでは本隊も三つに別れた」

「何ですって?」

ソナーのオペレーターが訊ねる。

「そのままさ。空母とひゅうがと護衛艦隊。空母はセイロンに戻りひゅうがはすずつき救援に。残りの艦隊はこっちに来ている」


「艦長、すずつき乗員の離艦を確認。牽引用意整いました」

「ご苦労様」

ひゅうがは艦尾から綱を張り、すずつきを引っ張り出した。目指すはセイロン。

「助かりました」

「どうせひゅうがじゃ駆逐艦の快速戦闘には追いつけない」

ひゅうがの武装は貧弱だ。

戦闘ヘリ四機と対空機銃二基とVLSのみ。

前線にいても邪魔だろう。

こんごう艦隊とハワード艦隊はインド洋のマダガスカルとジャカルタの真ん中くらいの海域で合流し、十六隻の艦隊となった。

要はインド洋のど真ん中だ。

ジャミングはだんだん強くなり、艦隊内でも無線はノイズにまみれたまま日没を迎える。

三本の単縦陣を組みノイズの方へ、ノイズの方へと東へと向かう。

「日没です」

「総員、常にクールかつスマートでいろ。帝国海軍の伝統だぜ」

「艦長…お供します」

「ついて行きますよ!」

「…そうか。ならば野郎ども、来い!」

紅い月が照らす海原で、ついに二つの艦隊はお互いを捉えた。

「発光信号だ。海自艦だけで突入する、米印海軍艦艇は空気読んで乱入しろ、と打て」

シャッカシャッカと信号灯が明滅する。

「シヴァリクより返信、"我も共に行かん"」

「返事をだせ。"連繋不能"だけでいい」


セイロン沖海戦第二幕は敵のミサイルから始まった。

「総数三十、来ます!」

「東から三本を落とす。あとは他に任した」

陸奥の狙い通り、通信もなしに十隻の海自艦は三本づつ撃破。

なぜ撃破できたかというと、空気を読んだからだ。

三本づつ落とせば問題ない、と。

一斉に舵を切り敵との距離を詰める。

シャッカシャッカ…

シャッカシャッカ…

発光信号が盛んにやり取りされ、"奏艦の神様"と唄われるきりさめ艦長の指揮のもと突撃が開始された。

よいづき航海長のそれよりも洗練され、無駄のない采配で海龍の群れは漆黒の夜空に白浪を蹴立てて突撃する。

「発光信号、ミサイル撃ち方始め。グリッドT-H-15」

シャッカシャッカ…

先頭のこんごうから順に、ミサイルが飛翔()んで行く。

今回はステルス相手ということで邪道を行く。

海域に艦隊が収まるほどのグリッドを描き、衛星写真とカンをもとにそこに敵艦隊が入り込んだときにミサイルを撃ち込む。

「ミサイル一部撃破されました。撃沈一隻、被弾四隻」

「ミサイルが足りんな」

VLSとはミサイルランチャーの一種だが、従来のものと異なりミサイルの保管場所でもある。

弾薬庫からそのまま発射しているとでも言うべきか。

ステルス性と被弾時の安全性を考え、ついでに装填もしやすくした結果が甲板をぶち抜いて埋め込んだ垂直発射だ。

こんごう型は九十セル、むらさめ、あきづき型は三十二セル。

「敵艦隊視認!」

マストによじ登った水兵が、双眼鏡で敵を見つけた。

「…残存ミサイル一斉発射用意!」

「まるで常識外れですね」

「ここで仕留めるからいいんだよ」

シャッカシャッカ…

命令は各艦に伝えられた。

「全艦用意よし」

「グリッドS-G-21」

「目標振り分けろ」

「指定よし」

こんごう、きりしま残弾六十三発。

あきづき、てるづき、ふゆづき、よいづき、みかづき残弾十五発。

きりさめ、いなづま、さみだれ残弾二十八発。

「撃ち方始め」

()ぇ!」

締めてその数二百四十発。

イージス艦一隻が探知できる目標数は約二百と言われる。

「ロシア式対艦ミサイル飽和攻撃だ。だがまだ終わらんよ。ここからは日本式を魅せてやろう」

シャッカシャッカ…

シャッカシャッカ…

全艦が最大速度で海面を走る。

「目視照準撃ち方始め」

艦が盛大に揺れる中、速射砲も発砲開始した。

この十隻の集中放火を食らって生きて帰れる艦はそうそういないだろう。

「着弾まで十、九、八、七、六、五…着弾、今」

高速機動に目が眩んだ隙に、対艦ミサイル飽和攻撃と速射砲。

これは海自の決戦ドクトリンとして受け継がれることになる。

「目標全艦撃沈…いや、一隻残ってます!」

「敵艦ミサイル発射!十発です!」

「払い落とせ!」

レーダーに映るターゲットは十。

全てこんごう狙いのコースか。

速射砲が必死で払いのけようと砲弾を送り込むが間に合わない。

「総員、衝撃に備えよ」

コンソール上のKongoと記されたマーカーに座薬チックなマーカーが重なる。

同時、致死的な揺れが襲う。

「艦長…!」


CICは酷い有様だ。

コンソールは火花を散らし使い物になりそうもない。

オペレーターも頭から血を流していたり、頭が飛んでいたり。

航海長は機材の隙間からそれらしい手足が千切れて見えていたり。

「誰か…生きてるのか?」

利根は軋む身体に鞭打って階段を登る。

一方艦橋では、衝撃から立ち直った副長が手すき連中を救援に向かわせていた。

階段で利根とすれ違った彼ら。

白い手すりにもたれかかる利根は、右腕をだらりとさせていた。

「砲雷長!」

「CICは?」

「艦長以下生死不明者多数。CICの艦内電話も断線した。急いでくれ」

「了解」

ようやく艦橋にたどり着く利根。

すでに旗艦の被弾で混乱した艦隊も、きりしまが指揮を引き継いで防御の火線を張っていた。

〈きりしまよりこんごう!被害状況知らせ!〉

「砲雷長、任す」

「こちら砲雷長。艦長以下CIC要員は私を含めて重軽傷者多数。死者も出ている」

〈副長…〉

「艦隊総員、きりしまに指揮権を移譲する。きりしまに倣え。本艦は戦線を離脱の後に、艦隊の救助を待つ」

これ以上の戦闘継続は不可能ゆえの指示だった。

「副長!敵艦砲撃!」

「取り舵回避!」

ここも無傷ではない。

舵輪には赤黒いなにかがてかてかしている。

副長は躊躇いなく手をかけ自らが操舵手の役を果たす。

「砲雷長、医務室で包帯もらって来い」


星々が見守る中、こんごうの周囲に水柱が立つ。

きりしまクルーは、遅れて現れたひときわ高い水柱が崩れた向こうに、崩壊した艦橋構造物最上階の天井部を見た。

イルミネーターというミサイルの最終誘導を司るパラボラや、大きなマストが深く抉られている。


「艦長、速射砲残弾少なし」

「これまでか。....艦を特攻させたとして、奴を沈められると思うか?」

きりしまCICが絶望に染まった時だった。

「ミサイル探知!ハープーン!」

「んな?」

「発射元は…ハワードです!」

〈ハッハァー!第七騎兵隊の到着だぜ!〉

〈ヒュー!砲撃始め!〉

空気を読んで乱入した米印艦隊の止めの一撃。

かくして敵艦隊は海底の漁礁となった。


「誰か生きてるか!?」

きりしま副長に率いられこんごうの艦橋に乗り込んできた救援隊が目にしたものは、片腕を失いつつも精神力のみで舵輪の前に立つ砲雷長の背中であった。

「利根砲雷長!しっかりしろ!誰か担架と包帯!」

大穴の空いた艦橋で、死屍累々の中に立つ砲雷長を写した写真は、この海戦が決して楽な戦いではなかったということを初の人類の勝利に酔いしれる人々に刻み込んだ。

榛名、霧島、長門がうちの主力です

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