What a Fuck Mad Scientists !
実はタイトル回収。
「どうだ?」
「だめだ。もう直せない」
「弱ったな」
五月二十一日、ベラス。
アフリカのアンゴラ、大西洋岸の町。
二人のカメラマンがイギリス陸軍の装甲車の日陰でカメラを弄っていた。
カメラを弄っているのがフレデリック=ジョン=ウォーカー。
「あいつのカメラを借りるか」
隣にいるのはマルティン=ニーメラー。
ドイツとイギリスのジャーナリストだ。
もう一人いたジャーナリスト、エドワード=エドワーズは死んだ。
「どうして死んでしまったんでしょうね」
「...坊やだからさ」
四月のヴィクトリア湖の畔に彼は埋葬された。
苛烈な市街戦を生き残った二人はなおも戦場で写真を撮り続けている。
「二人とも、後方から増援が来ましたよ」
彼らと行動をともにするジョン=エリオット大尉。
二人が背中にしている装甲車の車長。
「シチリアからやっと出てきたやつらですよ」
ヘルベルト=ヴォールファールトはベラスの町に到着した。
現在の戦線はベラス南方四十キロ。
(シチリアとは空気がまるで違う)
シチリアでの経験で理髪師として専門学校卒業程度には腕をあげたヘルベルト。
基本的に丸刈りだが、頭髪規定に触れない程度のおしゃれをする男たちも多かった。
銃の練習も週三くらいで欠かさず、あいた時間は筋トレと勉強に励んだ。
「カメラマンがくるぞ。前線にいる唯一の民間人だ」
入ってきたのはイギリス陸軍の士官と二人のカメラマン。
後方からきたと言うことで、いろいろな質問がかわされた。
「そういや他の戦線はどうなってるんだ?こっちに補充されるはずの部隊が来れなくなったとか聞いたぞ」
それは三週間前の話。
フランス軍一個歩兵師団を増強するはずなのに、実際に来たのはオーストリア軍三個歩兵中隊。
歩兵師団の次に投入されるはずの隊を前倒しで送り込んできたのだ。
「オーストラリアだって予想されてる。日本が東チモールを奪還し、オーストラリア上陸も夢じゃなくなったんだ。そのフランス軍部隊は上陸戦もできる精鋭だったはずだ」
「それじゃあもうすぐこの戦争も終わるのか?呆気ないな」
残念がる様子を一部の兵士が見せる。
それはシチリアからの兵士が漏らした一言。
いまだ硝煙と砂が視界を覆う、狂気に充ちた戦闘を未経験な兵士の一言。
その一言で、前線組と後方組の間に見えない壁が出来たようだった。
そしてその壁は前線組が一方的に作ったものだ。
「んだごら?もっペン抜かしてみぃや」
一人のオランダ人士官がキレた。
「な、なんだよ」
「なにが呆気ないな、だァ?そんなに戦争がしたいのか?お前さん、人を撃ったことねぇだろ」
あるわけねぇよ、とスペイン人兵士がたじたじと言う。
「そんなに戦争がしたけりゃお前らだけで行ってこい」
出撃の度に増える墓標。
損害を出していない部隊などない。
その兵士の一言は仲間の死を乗り越えて生きている前線組の琴線に触れたのだ。
「そこまでだ中尉。そこの軍曹も意図的に言ったわけではあるまい。貴重な盾だ。減らすな」
ジョン=エリオットだ。
十五人の部下と民間人一人を失っている彼の言葉は重く響いた。
「誤射は減らせよ」
彼はそう言って立ち去った。
「弟さんが家をついだんですか」
「ええ。私は手伝いです」
ヘルベルトとマルティンは市内のカフェで休んでいた。
黙っているがフレデリックもいる。
「戦争ってどんな感じなんです?」
「みせましょう」
そういってマルティンはカメラのメモリを取り出した。
無言でタブレットを差し出すフレデリック。
それを受けとりメモリを差し込む。
「人?‥死体ですか」
「ああ。軍上層部はこの手の死体を隠してる。獣耳の人間なんてバチカンが認めるともおもえし、リアリティーがない。ヨーロッパにこんなのがいたら魔女狩りが始まるかもな」
「日本製のアニメで誤解というか理解...のようなものは進んでいるが、人と違うものに対する拒絶、人に近い容姿ならそれはなおさらだ」
軍では箝口令が敷かれ、民間人が入るまえに死体は撤去される。
「だがいつまでもは持つまい」
「上は公開時期を検討中だそうで」
ほーん、とヘルベルトは相槌をうつ。
「各国とも極秘に死体や捕虜を民主的に研究しているそうだ」
「諜報合戦も大変そうだな」
五月二十四日。
「大統領。日本が提唱したオーストラリア上陸作戦、無駄が多すぎるのではないでしょうか」
「コクラン。いい加減敗北主義は聞きあきたよ。もっとマトモな台詞は言えんのか?これじゃバービー人形の方がまだかわいくて使い道がある」
ジャック=クロフォードの嘲笑をトマス=コクランは聞き流す。
「潮時ですか」
「なんだ?スーパーの大安売りに間に合わないってか?」
「‥国務長官の任を退かせてもらいます」
一同はざわめかない。
「ようやくその気になったか?鈍いねぇ。亀の方がもっと機敏に動くよ」
屈辱にわななくこともない。
コクランはもはやジャックを目障りなだけのカーネルサンダースとしてしか認識していないのだ。
(こいつがファストフード店の経営者になったら三日で破綻かな)
「‥そうだ、共和党もやめよう」
「とち狂ったか老人!」
「なにを考えている!」
今度はざわめいた。
彼らの狭隘な思考空間から生まれたチンケな想定を一歩外れた行動を取られたことが屈辱らしい。
「政界から足を洗う。こんな腐臭のなかでは息が詰まるんでな」
かつかつとドアに向かって歩を進める。
「...若造。この国には革命権がある。夜道には気を付けろよ」
ジャック=クロフォードはサディストだ。
そして外面を完璧に見せる達人だ。
優しそうな顔で近づき、気がつけば裸でベッドに縛られている。
外交もそうやってきた。
国民は不況からの脱却を成し遂げたジャックを強烈に支持した。
(夜道には気を付けろよ、だぁ?その言葉そっくり返すぜ老害)
「首相。オーストラリア上陸作戦の件です」
「ああ、参加だ。オーストリアはもともとうちの領土だよ。むざむざ亜人に明け渡す義理などない」
ロンドン。
ライオネル=クラブは紅茶にブランデーを滴ながら金勘定を始める。
「日本は東南アジアの権益が欲しいらしい。だがオーストリアとニュージーランドはうちのものだ」
側近にむけて尊大にいい放つ。
「最大限の装備でむかえ。王国は臣下を見捨てないということを世界に知らしめろ」
「首相。オーストラリア上陸作戦の件です」
「参加するしかあるまい。一個戦車中隊くらいでいい。うちにオーストラリアまで行く能力はないし、ここで力をすりつぶすわけにもいかん。あんな土地は亜人にでもやればいいのだ」
ベルリン。
ヨアヒム=シュプケは側近に告げる。
オーストラリアは不要だ、と。
「むしろそこと国交を結びたいものだ。貿易の方が儲かるし人も傷つかない...そうだ、駐日大使を呼べ」
ドイツ時間午後四時。
「東京は日付が変わる頃ですが」
かまわん、とにべもない。
しばらくして電話口にたったエーリヒ=トップの声は、まだ頭が正常に動いていないような声だった。
〈...〉
「おい、寝るな」
〈..申し訳ございません、情報収集に忙殺されておりましたゆえ〉
言外に“なに起こしてくれとんじゃワレ”と言いたげなエーリヒ。
ヨアヒムは不機嫌さを分かりやすく隠したその声に気押されないようにするしかない。
「日本で何かあったのか?」
〈はい。ヨコスカの研究施設でバイオハザードがあったともっぱらの噂です〉
バイオハザードだぁ!?そう叫んでしまったヨアヒム。
廊下からバタバタと足音が近づいてきた。
近くにいた大臣や官僚を刺激したかもしれない。
「何事ですか!」
大したことはないんだ、と釈明する。
騒ぎを押さえるために三十分かかってしまった。
「すまん、待たせた」
〈あ、今しばらくお待ちください〉
応答したのは二十代くらいの女の声。
〈あと三分お待ちください〉
「エーリヒはどうした」
〈...仮眠しております〉
護衛艦きりしま。
先任伍長の夕張はアイスモナカを食べていた。
「そういや先任。イタリアの空母を修理中で俺たちがドックに入れないって本当ですか?」
「ああ、軽空母カヴールだ。横須賀にいるらしい」
「なんでイタリアのドックにいかないんすかね」
食堂にいた千歳と千代田が不平を述べる。
「どうだか。空母のノウハウを欲しがったんだろう。それに俺たちならドックなしでも問題ないって信頼があるんだろ」
よく言い切れますね、と千歳。
胡散臭いッす、と千代田。
「知人が上の方にいるんだが、こっそり教えてくれたんだ」
どや顔で夕張はそう言った。
「じゃあ、機密漏洩の罪で君を告訴しよう」
後ろから声がかかる。
その声の主は
「艦長...」
「いかにも、艦長だ。被告人、夕張先任伍長。罪状、国家機密漏洩罪。申し開きはあるか?」
「強制労働を要求するっす」
「右に同じく」
千歳と千代田が言いたい放題言う。
「待ってください艦長。これには海よりも高く山よりも深い訳がありまして..」
艦長は聞く耳を持たないらしい。
「当臨時軍事法廷は貴官に次の処罰を与える」
艦長は厳かにかく言った。
ハーゲンダッツ買ってこい、と。
ちなみに日本国憲法下においては、軍事法廷に正当性はないことを記しておく。
「別に見送らなくても構いませんから!逃げませんから!」
自転車にのってコンビニへ向かう夕張。
夕張は深夜の道が好きだ。
誰もいない道の真ん中を通る征服感と背徳感が堪らないらしい。
(しかし、いやに静かだ)
自転車をとめ、コンビニの自動ドアを潜ったときだった。
「何奴!」
ナイフをもったフルフェイスヘルメットの男がいた。
「御用だぁ!」
しかし深夜の道路に興奮した夕張に敵はいない。
近づきながら戸棚にあったポテトチップスを投げつける。
怯んだすきに懐に入り込み、ナイフを握る右手を押さえて一本背負い。
慈悲もなく背中から着地した敵のみぞおちにニードロップ。
フルフェイスのバイザーを上げ、掴み、揺さぶる。
「ところでハーゲンダッツを売ってくれないか」
五月二十七日。
ワシントンを離れる夫婦がいた。
「大丈夫なの?」
「なに、退職後の自由な暮らし程度は憲法で保証される」
〈Ladys and Gentleman...〉
アナウンスに従い、旅客機に乗り込む。
「いくらあの若造が愚かでも、民間人が多数乗るこの機体を落とすことはできん。アメリカの信頼にかかわるしな」
「成田で大使館の職員に連れ戻されるとかは?」
「日本政府との根回しはすんだ。なにより君もいる。問題ない」
まぁまぁ、と婦人は微笑む。
「若い頃のようにはいきませんわ」
「はい、由良です。お二人は登場されました。CIAも乗っています」
〈ラングレーは放置でいい。いざとなったら分かってるな?〉
「抜かりなく」
ポニーテールの日本人が大きな荷物を抱えて飛行機にのりこむ。
先の夫婦の後ろの座席を二つ確保しているらしく、その大きな荷物を通路側においていた。
〈May I have an atention pleas, this plane....〉
(潜水艦が航路の下に等間隔で張っているらしい。前の方には阿武隈もいる。大丈夫)
能代、鬼怒には劣るものの、第一線で働く諜報員の由良と阿武隈。
今回の作戦目標はVIPを無事に日本へつれていくこと。
〈ご苦労、何事もないのが一番だ〉
「ええ。VIPの警護は任せるわ」
成田空港。
トマス=コクランとその婦人は面倒なことに巻き込まれることなく太平洋を越えた。
〈由良、三日後、再度アメリカにいってもらう。いいな〉
「ええ。仕事ね」
ああ、仕事だ。
内務大臣の日向は電話を切った。
(称号の導入も昨日決定した。これで士気も上がるかな)
称号。
能力に応じて与えられるものだ。
最上級が“ニンジャ”。
ついで一等、二等、三等情報員となる。
ニンジャは四人。
阿賀野、能代、鬼怒、酒匂。
由良と阿武隈は一等情報員だ。
(財務省日銀にもてこ入れが必要だ。だがまずはマスコミだ。手始めに株価を大暴落させてやる)
シンガポールには各国の外交と軍の関係者が集まっていた。
日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、フランス、カナダ、イタリア、中国。
議題はオーストラリア攻略。
「敵はオーストラリアを制圧し、こちらの世界の情報を大いに仕入れたと想定される」
「こちらが持つ情報は極めて少ないんだがな」
これらの国以外も兵を出してはいる。
だが、捕虜を獲得し、研究できている国は少ない。
異世界側でも言葉に多様性があるようで、言語学者たちは頭を悩ませていた。
(その点日本は捕虜がナッソー国とアルマタ連邦のみであったのが幸いしました)
日本の代表の一人は不知火二等空佐。
参謀本部付きの才媛。
空自で一番ヤバい女、プロフェッサーゼロなどの異名を持つパイロット。
アラスカで行われた演習において、米空軍の切り札たるリヴァイアサン小隊と対決し、全機弾切れドローとした“大蛇小隊”の二番機だ。
乗機は海洋迷彩をベースに、尾翼に部隊のシンボルである稲妻を描き、主翼に朱で“桜花爛漫死屍累々”と書きなぐった単座機。
それにコンフォーマルタンクを増設したF-2改だ。
大蛇小隊の機体のみにタンク増設が行われた。
彼女が翼をなくしたのは日本の戦闘機事情に原因があった。
F-2はもともと数が少ないのに生産ラインを閉じられた機体だ。
さらに地震で流されて破棄された機体もある。
それに従来のF-4ファントムEJ改の寿命と、それを代替するF-35AライトニングⅡの開発の遅れ。
そして若手企業の扶桑重工が提案する新型戦闘機。
アメリカのYF-23と似た形状の菱形の主翼で尾翼はX字。
石川島播磨重工(IHI)のエンジンを二基搭載し、期待されるスペックはF-22ラプターと同等。
単価は未定だが可能な限り抑える。
組み立ては三菱が担当し、国内企業の技術の粋を集めたエース機とマイナーチェンジした量産機を作る予定。
違いは機動性と速力にある。
エンジンは同じでも耐G装置が高級品なのだ。
そのぶん単価もはねあがる。
それが完成するまで大蛇小隊は地上勤務に回し、機体を酷使しないパイロットに機体を使わせるのだ。
そうやって小隊の四人は翼をなくした。
しばらくは教官職につけられるはずが、不知火は教官に向いていなかった。
やがて無愛想で遠慮のない不知火は本部付きという閑職に落ち着く。
むろん閑職だけあって決まった仕事はない。
出勤免除で各国を巡って情報を集めるのが仕事といえば仕事であった。
要は航空ショーや基地祭の視察であり、乱暴に言えば公費を使った観光である。
「オーストラリアの広大な国土を制圧する負担は、輸送の面倒くささと相まってアフリカ戦線に相当する。日本は海空軍主体で陸が少ない。アメリカも南米を受け持っている。ロシア主体で攻めるには補給がもたんだろう」
不知火はロシア代表の言葉に添える。
「日本は東南アジア戦域に確実な輸送ルートを二本用意しています。そして護衛をつければ通れるルートは五本。派兵はともかく輸送についてはお任せください」
「ならばミス不知火。戦車師団を上陸させることは?」
「上陸地点一帯が先行した部隊によって均されていれば、問題ないでしょう。例えば精鋭の小部隊を浸透させて火点を叩いておけば、のんびりと揚陸可能です」
敵の潜水艦がでたらどうするんだ、戦略爆撃機や中長距離弾道ミサイルの釣瓶打ちは防げるのか、という問も飛ぶ。
「飛行場やそこはうちのSASが奇襲して潰しておこう」
「対潜哨戒に絶対の自信をもつ我が国に言うことですか?」
「駆逐艦を遊弋させておけばいい。海底にソナーも仕掛けよう」
日英米の主張でそれらは止揚された。
「結論をだそう。特殊部隊を投入し、敵情偵察。そしてロシア陸軍を中心にオーストラリア北部のパースおよびポートダーウィンを制圧する」
パース、ポートダーウィンは先の自衛隊による奇襲で基地機能を半減させられている。
滅ぼすには絶好の機会だ。
「日中がおもに海輸を担当、インドネシアを戦略物資集積所として、本会議に参加する各国は余剰戦力を投入し、無理のない戦線拡大を行いつつオーストラリア攻略を目指す。同時に敵に疲労を強いる」
佐賀県伊万里市。
扶桑重工業株式会社の本社がある街だ。
「ドーモ、愛宕さん、青葉さん。最上です」
「ええ。どうもよろしく」
防衛省技術開発研究本部の技術将校、愛宕と青葉は博多駅から鳥栖、肥前山口、有田と乗り換え、松浦鉄道で伊万里駅に着いたところだった。
技術開発研究本部は横須賀の海自施設内にある。
しょっちゅうバイオハザードや爆発事故を起こすあの研究施設だ。
「車へどうぞ」
最上は扶桑重工の社長。
三十代の若手だ。
とぼけた男だが、確かな手腕を持っている。
扶桑重工は三年前に立ち上がった企業。
三菱やロッキードなどの軍需産業関係企業にいた人材をどこからともなく集めてきて、すでにいくつもの新兵器の提案を防衛省に行っている。
戦車の自衛システムや新型の攻撃ヘリ、新型戦闘機などだ。
工場は小さなものを持つのみで、そこでは試作を行う。
製造は大企業に委託し、開発のみに特化した企業だ。
二人の技術将校をのせた白いエルグランドは町の北部へ走っていった。
市内を流れる川を越えた先の、持ち主がいなくなった荒田圃を埋め立てて造った本社は、木の温もりを感じられて、環境にもやさしい間伐材で建てられている。
照明は自然の光を取り入れる造りだ。
「うちに来た技術者たちはなかなか良くやってくれています」
最上はどや顔でそう言うものの、愛宕と青葉は返事をしない。
「すごいところだ」
「ええ。まだ横須賀にいるのかと思いましたよ」
開け放たれた障子戸の奥では、白衣を着た男女がアニメを見ていた。
ブルーレイディスクが畳の上に山積みされて摩天楼を築いている。
「波動エンジンでも作るのでしょうかね」
「きっと反射衛星砲だろう。ほら、冥王星の戦いだ」
五十インチの画面のなかでは、天から降り注いだ一撃に戦艦が大きくその巨体を震わすシーンであった。
「ここは第七研究室...彼らには野戦簡易病院の設計を指示していましたね」
最上は呑気なものだ。
(なんで野戦病院の思索に宇宙戦艦が要るんだ?)
「期限は?」
青葉の問いかけに、そんなものありませんと答える最上。
「期限は切らずに、やりたいようにヤらせます。それゆえ自由奔放な発送が渦を巻いて英国面に堕ちたナニかが出来上がるのです」
暗黒面には堕ちません、と自信満々。
「むしろ暗黒面のほうが常識の幅を広げたら理解できる分ましですよね」
「ああ。英国面に堕ちたものはどんな提案が?」
食堂の壁に張られたコルクボードの前に最上は歩いていく。
食堂では白猫と黒猫が肉球つきの棍棒と、どんぐりめいた防具をつけられて寝そべっていた。
うちのマスコットですよ、と最上の秘書が耳打ちする。
「これですね」
最上は一束の紙を持ってきた。
「これは先月分。マッハ五でかっ飛ばす戦闘機です。機銃もミサイルも積みません。ソニックブームでぶっ飛ばす...らしいです」
その黒いA4用紙一面に白抜きで書き込まれている詳細。
無言で秘書がルーペを差し出した。
「...なんだこれ」
白い字だと思っていたのは空白だったのだ。
それよりさらに小さな文字で、白い紙にびっちりと書き込んであるのだ。
しかも白文字だけでも立派な提案書の形式をとっていた。
「震えがきますね。横須賀って平和だったんだ」
「これはまだいいほうです。おかげで新型戦闘機のための耐G装置開発ができましたから」
大気圏戦闘を想定しているはずなのにロケットエンジンを四基。
ジェットでは吸気が追い付かないのだ。
というかまんまロケット型である。
効率良くソニックブームを産み出すために、いくつかのブレードをつけられた有人ロケットだ。
イジェクションシートはソニックブームに切り刻まれないように機体尾部から後方へ打ち出される。
エンジンの乱流は計算されつくし、シートというかコックピットごと脱出するのだが、シートはスラスターを取り付けられており、全自動で姿勢制御と安全圏への退避、機密保持のための自爆が行える。
「次はこれ、木製布張り複葉対艦攻撃機です。“ツルギウオ”と呼んでおりますが、まるきりWWⅡのソードフィッシュですね。しかもA4五十枚にも渡ってレシプロ木製布張り対艦攻撃機の必要性を説いています」
「いつ使うんですか」
「さぁ?これは未元物質の存在を前提としています。そしてその未現物質を前提に別の研究者が提案したのがこちら。人型はロマン、だそうです」
七十枚ほどの束を渡す最上。
その未現物質とは、波形と粒子、双方に変化しうる性質を持ち、次元の狭間に存在する次元断層を作るという。
その複葉機は次元断層に潜って遠距離を飛べるという。
人型機なら断層の位相差を動力にする。
未現物質はこの世界にも存在するが、これまで科学的な手法では認識することすらできなかった。
それを何らかの方法で発見すれば、科学的でない、いわば魔法が使えるようになる、との仮説だ。
「いまいち理解しかねます」
「私もなんです」
もはや英国面ではない。
それどころではなく、もはやファッキンマッデストサイエンティストの巣窟といったところか。
最上はやれやれ、といった表情で愛宕に同意する。
人型を再設計した研究者いわく、未現物質は五次元的な存在であるという。
縦、横、奥行き、時間軸、平行する世界線。
これで五次元だ。
「つまり...平行世界は四次元ではなく、五次元であるということか?」
「そんな旨のことを言っていました」
「もしかしたら、オーストラリアの敵も平行世界的に繋がっているんだろうな。技術レベル的にも同等だ。轡を並べて同じ方向を向いているのかも...」
「愛宕さんまでマッドサイエンティストに堕ちたんですか...」
青葉は呆れたように呟く。
やはり愛宕は技術開発本部の人間であることは疑いないらしい。
それをいうなら常識人ぶった青葉も技本の人間であるのだが。
※おまけーね
コンビニ強盗のニュースです。
昨夜十一時頃、横須賀市のコンビニで強盗事件が発生。
警察が見たのは倒れ伏す不審者でした。
通報した店員は「頭がおかしそうな人がハーゲンダッツを買うついでに倒したんです」と供述しており、事実確認が急がれます。
艦長「おい夕張。お前じゃないだろうな?」
夕張「やですなー艦長。私がそんなことできるわけないじゃないですか。国民に愛される自衛隊ですよ?」
艦長「誰のセリフだ」
夕張「伊たm‥アバババ」
ちとちよ「著作権利権団体が見ています!」
ほんとごめんなさい。




