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戦場へ向けて

クラウドってステキですね。

iPodで書いてタブレットで投稿しています。

もしかすると、いやもしかしなくともこれはチャンスなのかもしれない。

マルティン=ニーメラーはドレスデン郊外の自宅でコーヒーを飲みつつ考える。

ことの発端はこうだ。

新年早々始まった異星人との戦争。

すでに南米や南阿、オーストラリアでは撤退戦が始まっているらしい。

そこで旧友のエドワード=エドワーズがリヴァプールより突然(深夜二時)連絡を寄越して言うには、NATOに同行していけば安全は幾分保障される。そこでいい写真をとればピューリッツァ賞も間違いない、とのこと。

とても魅力的な提案だ。

フリー記者の彼とフリーカメラマンの自分。

素早い彼は、すでに同行許可ももぎ取ったという。

だが彼には問題があった。

五ヶ月を迎えた重身の妻のことである。

茶色で丸々と太った飼い猫を膝に抱えて冬の晴れ間の日差しを書斎にて浴びるマルティンは、答えの出ない問いに悩んでいた。

「何かあったの?」

しばらくしてパンを塩とオリーブオイルと共に持ってきた妻が尋ねる。

どうやらいつの間にか昼になっていたらしい。

「…友人から、アフリカで仕事をしないかと誘われた」

「それで?」

「迷ってる」

「なんで?」

迷っているのは彼の偽らざる本心であった。

だのにそれをなんで?と問われるとは。

「僕は正直なところ行きたいと思っている。考えれば考えるほど、異星人をフィルムに納めたいって気持ちが昂ぶるんだ」

「だったら行けばいいじゃない」

「そしたら君が!」

「…」

「…」

「たわけがッ!」

一拍の沈黙に続く、まるで妊婦とは思えない一撃が彼の鳩尾を襲う。

拳は軽く握られ、中指と人差し指の関節が凶器となるような握り方だ。

さらに前のめりになったところに追い打ちの裏拳。

顎先にクリティカルヒット。ワザマエ!

「私はあんたなんかに心配されるほどヤワじゃないわよ。どうせあんたはカメラ以外能無しなんだから。行ってらっしゃい」

薄れゆく意識の中、妻の声が聞こえた気がしないでもなかった。


夕暮れの陽を背景に丘の上で紫煙を燻らせる男が一人。

背に担いだM2010スナイパーライフルがモロッコの大地に濃い影を落とす。

ジョン=クック中尉。

アメリカ海兵隊武装偵察隊(フォースリーコン)の一員である。

ジョンの仕事である前哨狙撃兵(スカウトスナイパー)は喫煙者の訓練受講を認めておらず、卒業後もタバコを手のするものは少ないのだが、彼は例外的に愛煙者であった。

仲間からはいつもタバコを止めろと言われている。

「よぉジョン。探したぞ」

そう言って彼の肩を叩く中年が一人。

オーガスタス=ケッペル、特殊部隊Navy SEALsチーム8のメンバーである。

階級は大尉。

サンフランシスコにいる妻はサックス奏者で三人の子供がいる。

「どうなされたのですか?大尉どの」

「なんだ、久しぶりに見たものだから挨拶に来たんだよ。というか、挨拶にくるべきはお前じゃないかジョン」

「おや、大変失礼しましたね」

「見たところ、元気そうじゃないか」

ちなみに二人は地元の先輩、後輩の間柄である。

「まあ、新型がようやくまわってきたんだ。興奮もするさ」

「スポッターは?…その分だと相変わらずか」

「…」

ジョンは中東でのミッションでスポッターを亡くして以来一人でやっている。

「お前の流儀だから何も言わんが、死ぬなよ」

「あんたもだろう、おっさん」

「ぬかせ、おっさん」

「へっへっへ」

ジョンは笑い、オーガスタスは何も言わずに丘を下りて行った。

彼もまた、明日の日の出前には最前線へと向かう予定だ。


一月十四日。

日本国総理大臣の高雄は外務大臣の伊勢、財務大臣の那智、防衛大臣の足柄、内務大臣の日向を引き連れて官邸の一階で宣言した。

「友好国支援のため、閣僚会議は自衛隊を派遣することを決定した。それに伴い艦隊の再編成を行い、持てる全力で以って人類種の生存権の保全に勤める。これは改正憲法九条に基づく集団的自衛権の行使であり、目的は人類種の平和と繁栄にある。目的の完遂を認め次第、派遣団を帰国させる」

そう言い切り、五人は颯爽と各省へ向かって行った。

議会を無視した突然の暴挙、どのような釈明を行うのかと人々は注目した。


ザッと入ったノイズの後に続く男の声。

〈どうだ?〉

〈どんな手品か、衆院は賛成多数で可決だ。参院も同じだろう〉

〈日本が太平洋に再び繰り出すか…中韓が煩くなるぞ?〉

〈黙らせる手筈はある〉

そこで会話は終わった。

収穫はあったのかな、と長良は 低脂肪タイプミルク抹茶クリームフラペチーノ withチョコレートチップ を飲み干し、コートを肩にかけて秋葉のスターバックスを出る。

一月の蒼い月が照らす東京を、しゃんとした足取りでいつもの塒に向かって歩き出す。

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