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三月攻勢

二月二十三日に発生したハワイ沖海戦。

北上する敵艦隊と、それを防ぐべく出撃したアメリカ大平洋艦隊の激戦。

海自の潜水艦も参戦していた。

アメリカ大平洋艦隊は戦力の半数を喪失あるいは損傷。

西大平洋にまで後退し、大平洋は軍事的空白地帯となった。

海上自衛隊はもとより防衛に特化した海軍であるがゆえに遠征にはむかない。

けれどもグアムやウェーク島など、太平洋戦争中に大日本帝国の支配下にあった島々をなぞるよう、余裕のない艦隊をやりくりしながら東大平洋に展開している。

ロシア海軍も北大平洋に原潜や艦隊をまわし、アメリカの穴を埋めようとしている。

ハワイは三か国の軍艦が補給を受けられるように整備が進む。

来月にはロシアが弾薬を運んでくるだろう。

日米は規格が同じものを使うことが多いのでそのまま使えるが、専用のミサイルなんかは来月輸送される。。

中国海軍は東南アジア海域を支配しようとしたが、数で勝るはずの日本の小艦隊よりも戦果をあげられず、乗員の規律も乱れているため東南アジア諸国からあまり好まれていない。

そしてその結果日本の負担がさらに増えるのだ。

インド洋は中東やインドの海軍、米軍、NATOが展開。

大西洋は米軍とNATOの担当だ。


二十八日に発生したガダルカナル沖海戦。

日本の小艦隊と中国海軍が敵泊地に夜襲を仕掛けた。

その昔鉄底海峡(アイアンボトム)と呼ばれた海域での戦闘。

「突撃いいいいいい!」

行き遅れのアラサー女が艦橋であげた叫び声を合図に六隻の護衛艦が急襲。

初撃で敵空母は轟沈。

中国艦隊の誤射と見まがうほどのへたくそな射撃も数撃ちゃあたるの法則に従い、軽艦艇を数多破壊した。

「司令官。我々は攻撃に参加しなくともよろしいのですか?」

「中国海軍に華を持たせてるのよ。散る前くらい英雄譚がほしいでしょ?」

突入から数分もせずに海自六隻はガダルカナルに接近中の“新手の敵空母”を撃破すべく西進。

泊地には中国艦隊が残された。

敵戦艦二隻が唸りをあげて砲を撃つ。

駆逐艦が接近してミサイルを放つ。

電子妨害が活発に行われ、チャフや煙幕が放たれる。

第三次ガダルカナル沖海戦のような混戦に陥りつつも、両艦隊は着実に敵を減らしつつあった。

「司令官。さすがに輸送艦を空母と間違えたと言い張るのは無理があるのでは?」

「いいのよ、混戦だから。当直の記録ももみ消してるわ」

二隻の“輸送艦“を通りすぎざまに殴り付け、スクリューだけをうまく破壊して反転。

ガダルカナルへ引き返す。

沈めないのは乗員が脱出する時間を稼ぐ、シーマンシップにのっとった理由と、帰り際に拿捕していこうかという身も蓋もない理由の二つだ。

「中国艦隊も敵艦隊も、いい感じに減ってるからこっちは怪我なく帰れそうね。ミサイルいける?」

「ジャミングがひどくてとてもではないですが..」

「主砲。撃って」

「目視照準..()ェ!」

中国艦隊、損傷率六割。

敵艦隊、損傷率九割。

日本艦隊、無傷。

この海戦により、東南アジアが日本の影響下(マーケット)になることは確実になった。


三月十六日。

その日はついにこれまで単独勝利を収めていない米軍が本気を出した。

「日向大臣、報告です」

「聞こう」

いわく、十五日。

米軍は攻勢限界を迎えつつあった敵をパナマ運河にて迎撃。

陸軍が戦車を前面に並べて盾とし、歩兵の浸透戦術にて出鼻を挫いた。

続き空軍に守られた空挺部隊が敵の後方基地を奇襲。

A-10サンダーボルトの重火力は対空陣地破壊作戦にていかんなく発揮された。

五機編制になったリヴァイアサン小隊やラプター、イーグルなど空軍が“最強空軍“の威信にかけて制空権を確保。

それと前後してSEALsが飛行場を海からの電撃的奇襲で陥落させる。

空挺に浮き足だった敵主力に、オスプレイから飛び降りたデルタフォースが浸透。

敵の混乱は致命的なものになり、米軍の無線妨害で混沌に拍車がかかる。

陽が沈むと同時に再度デルタフォースがオスプレイから飛び降りた。

標的はただひとつ、敵の司令部。

混乱を治めるべく東奔西走していた彼らは、月のない闇夜の襲撃者に組織だった抵抗を見せることができずに潰滅。

とどめに陸軍が戦車を前進させ、ついに敵は遁走を開始した。

「米軍も落ち着いてやればできるじゃないか」

ジャムを一匙舐め、紅茶を含む。

「....。んっん。次です。NATOが大西洋にて大海戦を行いました」

同十五日、中部大西洋にて北上する敵艦隊主力を英仏海軍が迎撃。

フランスの空母、シャルル=ド=ゴールは大破。

イギリスのクイーン=エリザベスも中破。

損傷率は四割。

敵の推定損傷率は五割。

「痛み分けか」

「英仏の主力は半年は出てこれないでしょう。もし他に損傷艦がいなければ、ですが」

大型艦の修理には時間がかかる。

ならば早めに終わる軽艦艇を優先することもある。

「大西洋艦隊の米軍空母は、パナマ反攻作戦に投入されていました」

アメリカは今次戦争において規模や錬度のわりに戦果をまったくといっていいほど挙げておらず、戦前から続く不況と合わさり株価は下落。

凍結される新造艦計画もあった。

「英仏がアメで修理すれば、今回の反攻成功と合わさってアメリカ経済も好転するだろう」

そして英仏はアメリカの首輪をつけられる。

「報告は以上です」


「榛名上級一佐、補給開始です」

「ご苦労様です」

補給することが彼らの任務であっても、榛名は礼を欠かさない。

潜水艦母艦じゅんよう船務長の一尉は、自分より階級が高い相手に頭を下げられたことに驚きつつも好感を感じていた。

(立派な人だな)

じゅんようの甲板上にあるクレーンで、魚雷が一本ずつけんりゅうに詰め込まれていく。

別のクレーンでは食料を箱に詰めて渡し、ゴミなどを詰められて戻される。

渡されたパイプで洋上給油も並行。

「作業はあと一時間で完了する見込みです」

「そうか、ありがとう。出来る限り手短に済ませてくれると助かる。まだ五隻いるからな」

「了解であります」


ウェーク島、そこは大戦序盤に日本軍が占領した島だ。

駆逐艦如月が米軍戦闘機の機銃掃射で沈没しつつも、真珠湾帰りの機動部隊の助力も得て占領した。

現在、そこには比叡上級一佐の第二機動護衛艦隊が錨泊していた。

旗艦いせ。

艦長の長月一佐はでっぷりと肥えた腹をなでさすりながら本日四本めのアイスの袋をあけた。

「長月艦長、時間いいか?」

「上級一佐、すみません気づきませんで」

「影と髪が薄いのは自覚しているよ」

比叡上級一佐。

長月一佐と比較しなくとも細い。

華奢を通り越して貧弱だ。

比叡と長月を足して二で割れば標準体型の水兵が二人できるともっぱらの噂である。

海自に九人いる上級一佐でも最軽量だ。

女性である霧島よりも軽い。

よく自衛隊に入れたなと疑問に思わざるをえない彼だが、これでも有名人なのだ。

“器用貧乏”の金剛、“機雷屋”比叡、“陰険雷撃男”榛名、“狼の愛弟子”霧島といえば、世界中の海軍でも名が知れわたっている海上自衛隊の提督。

比叡の代名詞の機雷、その始まりはロシア大平洋艦隊との合同演習だ。

ベーリング海で行われた演習で比叡は機雷戦を披露。

ロシア艦隊は音もなく忍び寄る九一式機雷に甚大な被害を受けた。

残されたロシア艦隊は敵を探して右往左往する。

その間にも機雷で沈没判定を受ける船は増加。

ついに旗艦が被雷。

日本艦隊はパーフェクトゲームを納めたのだった。

ちなみにロシアはこのあと新造艦のソナーと艦底の装甲に神経質になっていく。

「比叡さん。ベーリング海のときはどこに隠れていたんですか?」

「ロシアのレーダーの有効範囲のボーダー上に」

機雷敷設はどうやって?との疑問には

「たまにレーダーに映るんだ。そうすれば仕掛けたところにおびき寄せられる」


ウェーク島、大平洋にうかぶ小さな島。

人口およそ百七十。

艦隊はその南海域に展開。

ハワイからグアムに移動するはずが、熱帯低気圧の強いやつが表れたらしく、大人しく待つことにしたのだ。

「わざわざ待たなくても、この艦隊なら楽に乗り越えられます。練度も十分です」

「パフォーマンスの話だ」

比叡は周りの兵に聞かれないように小声に変える。

ダーティーな話だ。

「ウェーク島などの大平洋の島々に艦隊を見せることで安心を与え、日本の属州とするそうだ。開発に金はかかるがお上は海底資源を狙ってる。あと、空自がこの辺りにレーダーサイトを置くための下見をやってまわっているそうだ」

そこへ艦内放送で呼び出しがかかる。

〈比叡上級一佐。海幕から通信です〉


「艦長、旗艦から通信です」

護衛艦みょうこう艦長、鞍馬一佐は通信文を受けとる。

「行き先変更。グアムのバカンスはお預けだ」

上級一佐になり損なった一佐の鞍馬。

十個目の艦隊が編制されれば彼女の昇進は確実視されている。

特に伝説は持たないが、艦隊指揮では上記の四人に次ぐと言われる。

上級一佐になれなかったのは、上級一佐の選定会議が行われている頃アメリカの日本大使館にいたからだ。

防衛駐在官、いわゆる駐在武官である。

彼女のみょうこうが旗艦でないのは、いせの方が指揮通信システムに優れていたからだ。

霧島上級一佐と同じくアラサー。

だが既婚だ。

「比叡上級一佐も機雷がない艦隊は辛いでしょうね」

「ええ。毎晩魚雷発射管をなでまわして泣いているそうです」

「うちが旗艦じゃなくて良かったわ」

うちでやられては乗員が気味悪がって仕事にならない。

「して艦長。進路は?」

「グアムまでいって比叡上級一佐を置き去りにします。そのあとは霧島上級一佐がいるスラバヤへ。低気圧を踏み越えて行くわよ」


「..!この感じ..あいつか!?」

「どうしました霧島上級一佐!中二病ですか!?メディーック!」

霧島の第一威力偵察艦隊はアットホームな雰囲気が常だ。

今はカリマンタン島の北部で錨泊中。

現在戦線は人類がインドネシアのほぼ全域を確保。

ここでは散発的に奇襲する敵との局地戦が主だ。

そしてニューギニアは敵の勢力圏。

先進国の方針としてはニューギニアの空港、港を破壊し封じ込めたあと、そのままオーストラリアを奪還するというものだ。

ちなみに人類側の攻略目標は一応G8(日米英独仏加露伊)の国々によって決定されている。

「嫌な予感がするわ」

「それより提督、時間です」

「..抜錨。進路は事前に策定した通り。目標、スラバヤ」


来週、一般曹候補生の試験を受けてきます

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