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戦場を離れて

いったことがない場所でも、あたかも知っているかのごとく書けるのはGoogleマップのお陰

でもモスクワはいつか行きたいです

如月四日。

さてと、と能代は大きく伸びをする。

ここは上海、ハワードジョンソン=オールスーツホテル上海。

高級ホテルだ。

彼は今、中国に密入国している。

名前と身分証を偽り、イギリス系中国人の仮面をかぶって中国各地の基地や施設を偵察していた。

「中国がベトナムに南進するって噂も嘘みたいね。もしそうならもっと緊張感があってもいいと思うのよ。でも港は汚いし、ドックは薄汚れているし、ミサイルサイロは蜘蛛はってるし…アジア人として、彼らをどう思う?」

「モンゴロイドでひとくくりにしないでくれ。JapaneseとChineseは別人種だ。DNAも七十パーセントほど違う。不幸にも距離的に近いだけの隣国だ」

「七十って..歴史的にはどうなのよ?初期日本は中国から文化を輸入したらしいじゃない」

「古代中国と今のそれもまた、別物だよ。もはや彼らから学ぶことなど何もない」

日本内務省のエージェント能代は冷蔵庫のなかのサントリー烏龍茶のペットボトルを一本彼女に放る。

器用に右足でキャッチした彼女は、それを足で挟んだままベットから起き上がって長い金髪を梳かし始めた。

「そうそう、夜半に連絡があったわ。とは言ってもキングダムはまだ夕方なんだけどね。んで、あなたたちの"星一号作戦"を…ぶっちゃけてしまえば黙認するって」

「俺もそれは聞いている。現地には明日にでも向かおう」

「そうね」


同時刻、東京。

内務省にて一人の男が一心不乱にキーボードを叩き続けていた。

(これが…最後っと。チィまだあったよ)

男、阿賀野は電子戦特化の人間だ。

そして今はペンタゴン(米国国防総省)にクラック中である。

(おけー。とりあえずここからここまでっと)

豪快にフォルダを範囲選択して機密指定ファイルをコピー。

行きがけの駄賃にアクセス履歴を偽造する。

「相変わらず悪辣非道だよお前」

「薄っぺらいセキュリティのペンタゴンが悪い」

同じくオーストラリア政府の機密情報に潜っていた同僚が淹れてくれたコーヒーでブレイク。

「どうだ?オージーは」

「在シンガポール政府は腰抜けだ。国土奪還を掲げていてもろくなプランがない。口ばかり達者で自分では何一つできない臆病者。そのくせ日本に派兵を迫る」

「国際社会って身勝手だよな」

「だな」

オーストラリアは一月二十日に全土を喪失しシンガポールへ逃れている。

同僚が潜っていたのはシドニーに遺されていたサーバー。

どうやら異星人はこっちの世界のインターネットを利用していないとか。

「周波数とか違うんだろうね。もしかしたらLANケーブルの径があってなかったり」

「..じゃ、技術的に不可能じゃないと?」

「来月は電子戦かな?」

彼は冗談めかして言うが、冗談に聞こえない。

「俺明日非番だから、一日かけてマイハニーを成長させるぜ。よかったら貸したるよん」

「そいつは助かる」

同僚は二十八歳独身。

趣味はコンピューターウイルス作成とクラッキング。

先ほどは阿賀野のことを悪逆非道と揶揄したが、よっぽど彼の方が悪逆非道なウイルスを作る。

マフィア(非合法の武装組織)やマフィア(合法の武装組織)相手に攻撃をしかけてバージョンアップを繰り返している。


ヘルベルト=ウォールファールトは悩んでいた。

(これを…俺がやっていいのか?)

辺り一面荒廃したこの大地にて、彼は今、人生最大級の選択を迫られていた。

(やるしか、ない)

しょきん。

ついに最後の一本が、心ない者によって切り取られた。

(これでよし、と)

かれはシチリア島のNATO基地にいる。

元ドイツ陸軍施設科の彼は退役後、実家の床屋に戻った。

三年してまだ見習いの四十路男、店を切り盛りする弟の手伝いでおもに経理をやっている。

ある日そんな彼に転機が。

異世界人の襲来で、兵士が駆り出されることになり、そしてそれをサポートする体制を整える必要に迫られた。

例えば料理人、カメラマン、床屋、風俗。

民間からボランティア(志願兵)を募って正規兵の手伝いをさせる。

だが異世界との戦争は不確実なとことばかりだと予想された。

よって、元軍人で民間に下りた各種技能者が求められたのだ。

民間に依頼すると金がかかるが技能者で軍人なら軍の管轄で安上がりだし、いざとなれば予備戦力として拠点防衛の兵力にもなる。

ヘルベルトはフランス空軍の司令官 (はげ)の最後の希望を無慈悲に奪い去り、次の若いドイツ海軍艦長のヒゲを剃る。

並んで椅子に座った客の後ろを一個ずつ移動しながらオーダーを聞く。

基本バリカンでなんとかなるから見習いの彼でもできるのだ。

本日十二人目の坊主頭を見送って、十三人目の坊主作業に移る。

まだ朝になったばかり。

シチリア基地唯一のヘアスタイリスト(見習い)として大忙しの一日が始まった。


「クレスター=フリンジだ」

紺のスーツを身に纏い、モスクワのホテルを夜半に訪れた男がいた。

アメリカのビジネスマンだと名乗った彼は、決して安くはないホテルの一室に通される。

コーチャードマリオット=モスクワシティセンター。

二階建ての綺麗な建物。

(ここはいつ来ても品の無い国だ)

世間一般では十分に品がよいとされるであろうホテルにて、クレスター=フリンジ、本名オーガスタ=レオポルド=キューパーは監視カメラや盗聴器が無いかを確認してから仕事道具のチェックを始めた。

グロック19という拳銃。

かの有名なグロック17の小型モデルだ。

世界中で入手可能な九ミリパラベラム弾を使うので足が付きにくいだろう。

(標的…)

取り出した写真。

目的はあるロシア人女性の暗殺。

運悪くアメリカの暗部に立ち入ってしまった償いをしてもらおう。

上司からは、女が手にした情報はアメリカの今後二十年を左右するらしい。

何としてでも、周りに情報が拡がる前に殺す。


アレスキー=アレハンゲリスキーはロシア連邦警護庁のエージェント。

今回の任務は一人のロシア人女性の保護と暗殺者の駆除。

懐にブルガリア製の短機関銃を忍ばせてモスクワのとあるホテルへと入っていった。

アララトパークハイアット=モスクワホテル。

コーチャードマリオットと遜色がないほど品がいい高級ホテルだ。

「周囲の警戒はどうなっている?」

〈現在フォーメーションチャーリーで待機中〉

「ありがとう」

ロビーのソファで目立たぬよう新聞を広げる。

紙面は月の始めにあった三つの戦闘についてのものばかりだ。

とくにセイロン沖海戦の記事が大きい。

マチュピチュ航空戦やキリマンジャロ戦車戦は戦術的勝利はあっても結局撤退しているのだ。

凄惨な被害を出しつつも勝ち残ったセイロン沖海戦の記事が一番大きいのも頷ける。

ターゲットが降りてこないことを確認しながら見開きで掲載された写真を眺める。

故意かどうか、機密に抵触しそうな装置はすべてひしゃげていて、舵輪を握る男も満身創痍だ。

(これがヤポンスキーのカロウシというやつか..)g

ロシア語って響きがかわいいですよね

いかついおっさんがかわいらしい発音をすると、おっさんまで可愛く見えます

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