02睡魔+《slEepY》=麻酔
部屋に入る。
8畳間のスペースにベッドが二つ。
当然俺と麗佳のベッド。
学校の帰り際の飯島の言葉を思い出す俺。
(……確かに、この年で兄妹同じ部屋って言うのも問題あるよな……)
朝、学校に行く為に着替えるのも同じ部屋。
夜、お風呂を上がって髪を乾かすのも同じ部屋。
俺的には三次元に興味は無いし、しかも実の妹だし。
最近までは特に何も感じては来なかったのだが…。
『最近まで』は。
(……この前も風呂上りにばったり出くわしたと時も、麗佳の奴……何か変な目で俺を見てた感じがするしなぁ……)
気持ち悪いものを見るような目……ならばすでに慣れているこの俺。何故なら激オタだから。
しかし、あの目は違う……。
美少女ゲームで言えば『フラグが立った女の子が反応する時の目』、とでも表現すれば良いのだろうか。
とにかく俺は。
……すっごい気持ちが悪かった。
(……これが二次元の世界での出来事だったらなぁ……。実の妹がフラグビンビンで顔真っ赤にしながら風呂上りの上半身裸の俺の姿を見て……)
・・・。
止めておこう……。
麗佳を二次元に変換するのは、流石に俺の良心が『駄目ぇ!絶対ぃ!』って訴えかけて来ている気がする……。
取り合えず机に鞄を置き、鞄の中に突っ込んでおいた、さっきジャンク屋で買ってきたウォークマンを取り出す。
(……これ、ホントに使えんのかよ……。でもまあ……あの値段じゃぁ、壊れてても何にも言えねぇよなぁ……)
変色したセロハンを破り捨て中身を取り出す。
青色に輝く本体と、大分大きめの黒のヘッドフォンとのセット。
(……うげぇ……これアダプター無ぇのかよ……。流石はジャンク品…。で?あー…単三が二本か…。確か余ってたのが机の引き出しに……)
俺は机の引き出しから単三電池を二本取り出しセットする。
「……あれ?……これ……中身…なんか入ってんじゃん……。」
購入した時には気付かなかったが、確かにウォークマンの本体の中にCDが一枚入っているのがチラリと見える。
俺は蓋を開け中身を確認する。
「……何も……書いてないし……」
出て来たのは銀色に輝くCDが一枚。
タイトルも無ければラベルも貼っていない、裸のCD。
「……何か……エロいのだったりして……」
淡い期待感が高まる俺。
多分、あの店が中古で買い取った時に、店員が中身を点検し忘れてしまい、そのままウォークマンに同包されたまま販売しちゃってたんだろうけど……。
……あの店の店員じゃあ、やりそうだな……そういう事……。
「……聞いて……みるか……」
でも一応覚悟はしておこう。
エロいのだったら大歓迎だが、何か怖い音声とか呪われたCDとか?
いきなりマッチョ的なイメージ万歳な男の人が『アッーーーーーー!!!』とか叫び出すかもしれないし。
念のため音量ボタンは小さめに設定して、と……。
俺は大きめのヘッドフォンを頭に付け、震える手で(震えてネェけど)再生ボタンを押した。
◆◇◆◇
何か音楽が聞こえる。
俺は音量を徐々に上げて行く。
別にエロいものでもアッーー!なものでも無かった。
普通の音楽。なんだろう…。ヒーリングミュージックって言うの?あんなやつ。
……でも、なんか、変な感じ。
ヘッドフォンの調子がおかしいのかも……。
俺はウォークマンとの接触部分を少し弄る。
それでも『違和感』は直らない。
(……なんだろうな……この右から聞こえる音と左から聞こえる音のズレは……)
いや……違うな。
音がズレてるんじゃないな。左右で微妙に『違う音』が流れてる?なんかそんな感じ。
(……ああ、あれだ、あれ。よく動画投稿サイトとかで流れてる立体音響の奴…。名前なんつったっけ…。バイ〇グラ?)
……多分違う気がするが、確かそんな感じの音響技術だった気がする……。
俺は徐々に音量を上げて行く。
これ系の音楽は音が非常に小さい気がする。
それともこの中古のヘッドフォンがイカレてて音が小さいのか。
そして俺は、ふとウォークマンのディスプレイに表示された時間を見た。
(……げぇ……この音楽……90分も再生時間があんのかよ……)
あー、あれだ。
やっぱヒーリングミュージックだから『安眠効果』とかリラックスする為の『α波』?
あんな感じのを醸し出すのに必要な時間が、これくらいの長時間だったりすんのかもな。知らんけど。
(……あ、やべ……なんか……超……ね……み、い……)
急激な睡魔に襲われる俺。
おいおい、これから宿題ささっと終わらせて美少女ゲームをやるつもりだったのに睡魔て。
今寝ちまったら、また夜目が冴えて寝付けなくなるじゃんかよ……。
んでもってモゾモゾしてたら麗佳に『お兄ちゃん?眠れないの?なら麗佳が頭ナデナデしながら絵本読んであげようか?』とか訳の分らん拷問を提案し始めちゃうだろ……。
ああ、ねみぃ……。マジ、何だよこれ……。
ヒーリングミュージック……侮れ……ね、え……。
そして俺は。
抵抗できないほどの激しい睡魔に身を委ねる……。