13魔女+《wItch》=***
俺は頭上を見上げる。
01:28:34
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「……さあ、行こうかアオイ。一つ目の『アトラクタの箱』を探しに……」
サキチは俺を誘導する。
でも何故サキチはこんなにも『夢の世界』について詳しいのだろう。
何度かそれとなく聞いてはみたが、上手くはぐらかされてしまって教えてくんねぇし……。
「なあ……その『アトラクタの箱』っていうやつに、俺の小さい頃の『記憶』が収まってるんだよな……」
「ああ、そうだね。『箱』はいくつもある。それこそ記憶の数ほどに、ね?」
サキチは俺を振り返りながらもそう言う。
「……なんで俺、小さい頃の記憶とかネェんだろうな……」
「……それは俺にも分らないよ。記憶を失う要因は人それぞれ。ただのド忘れかも知れないし、事故で失ったのかも知れない。俺はただ、その『記憶探し』を少しだけ手伝うってだけだし……。それに……」
「それに?」
「……いや、止めておこう。いずれ分るさ……」
「??」
……なんか怖いんすけど……。
◆◇◆◇
00:45:22
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「……なあ、まだぁ?俺もう足疲れちゃったんだけど……」
延々と続く平原。
俺も今まで何度もこの『夢の世界』を駆けずり回ったけど、それらしき『箱』みたいなのを発見出来た事なんて無かったんだけど。
「……あれだよ。見えるかい?あの少し空間が歪んだように見える所……」
サキチが指を指す先に、確かに陽炎のような物が揺らめいている。
「え?あれが?……えっと……『箱』を探してるんじゃなかったか?」
「あれが『箱』さ…。よく目を凝らして注意しながら探さないと見付からない、不確かな存在。まるで現実の『記憶』そのものだろう?」
なんか詩的な事を言ってはいるが、二次元オタクの俺にはあんまり興味が無い。悪ぃ。
「あれに触れれば……ボスが出てくんだっけ?……あー……なんつったっけ?」
「『記憶の守護者』だよ。ちなみに『ボス』っていう表現は正しくは無いかな。あれは『箱』に入っている『記憶の断片』の一部が具現化されて『守護者』として形成されるだけの存在だから」
なんか難しくなっち来た……。
要は倒せば良いんだろ?
なら『ゲームのボス』って事で俺は理解させて頂きます!
「……気を付けて、アオイ。何が出てくるかは俺にも分らないから…。そして、『何が出てきても』、その『記憶の守護者』を打ち倒し、『箱』を開くのは君自身だ。俺が手を貸せるのはここまで。……何故ならそういう風に出来てるから。この夢の世界は」
そう言い残し、サキチは少し離れた所で俺の様子を伺う模様。
なんか通信プレイしたのに『協力プレイは禁止』みたいな、縛りプレイ的な感覚に襲われるのは俺がゲームオタクだからでしょうか……。
「サンキューな。じゃあ、ちょっくらボスを倒してきますわ」
サキチを残し『ゆがみ』に向かっていく俺。
見付からん訳だよ……これ。
知らなかったら絶対に見過ごすだろ……。
そして俺は『箱』に触れる。
その瞬間、目の前が真っ白になった。
◆◇◆◇
瞬きをする。
そこは真っ白なドーム状の世界。
闘技場?
白い闘技場なんて聞いた事無いんだけど。
サキチは?……いねぇ。俺だけが飛ばされて来た?
そして俺は何気なく視線を上に向けた。
そこには真っ黒な『魔女』が不気味に微笑み掛けていた。
「ボスきたああああああああああ!!!!!!」
俺は身構える。
うっわ……気持ち悪ぃ……なんだよ、あれ……。
ドーム状の白い空間のちょうど天井の部分。
そこに手足が何本も生えている蜘蛛みたいな化物が逆さに張り付いている。
しかも長い首の先には不気味に微笑んでいる女性の顔が付いてるし。
口は耳まで裂け、ボロボロに痛んだ黒い長髪とかマジで気持ち悪い。
醜悪。
まさにこの単語がふさわしい魔女が、俺を見下ろしながらも笑っていた。
「……なんか……鳥肌……」
俺の全身の毛が逆立つ感じ。
なんだろう……怖い?……いや怖いだろそりゃあ、あんな気味悪いのを見ちまったら……。
……いや、そうじゃない……『知っている?』……あの不気味な『魔女』を―――。
―――俺は、知っている?
『キシャシャシャシャシャシャ!!!!!!!!!!』
気味悪い笑い声だか叫び声を上げた魔女が、俺目掛けて急降下して来た!
「やばっ!『氷剣フヴェルゲルミル』!!」
一瞬で俺の手に具現化される最強の大剣。
上空の目盛りを確認する暇も無い。
俺は頭の中で目盛りの計算をしながら戦う事に決めた。
『キシャアアアアアアアアアア!!!!!』
何本あるんだかわからない手足が信じられない速度で俺を四方八方から攻撃してくる。
「ちょっ!おっ!くぅ……!」
凄まじい連続攻撃に俺はフヴェルゲルミルで防ぐのが精一杯。
ていうか気持ち悪すぎて上手く身体が動かない感じ……。
恐怖?
俺結構ホラーには強い方のはずなんだけど……。
どうしてこんなに怖い?
『キシャアアアアアアアアアア!!!!!』
「うわああああ!!!!!」
女の顔が俺の肩に噛み付く。
痛みは感じないが、それよりも俺の肩を喰いちぎり、嬉しそうにバリバリと喰い始めた女の顔があまりにも怖い。
「くそ……!聖者の灯火よ!邪悪な魂に光を与えよ!《シャイン・ブレイズン》!!」
俺の身体から眩い光が放射され、すぐさまその光が炎に包まれてゆく。
『グアアアア!!!!』
目を眩まされ、炎に包まれた魔女。
これで残り17目盛り。
俺は頭の中で計算する。
すぐさま次の魔法を唱える俺。
「癒しの力よ!我が身を濡らす生命の源となれ!《ヒーリング・ウォーター》!!」
上空に瓶を持った聖女が具現化され俺の身に癒しの水を注ぐ。
喰いちぎられた俺の肩が蘇生されていくのを確認し、俺は大剣を構え魔女に突進する。
……あと14目盛り。
両手で大剣を大きく振りかぶる。
漸く炎から逃れた魔女は回避の体勢に入る。
すかさず俺は次の魔法を唱えた。
「大地の神よ!この世に災いし者に永遠の戒めを!《ストーン・プリズン》!!」
避けようとした魔女の手足を、地面から飛び出した無数の岩が押さえつける。
……あと11目盛り。
俺は身動きが取れなくなった魔女に向けて渾身の一撃を喰らわせる。
『ギャアアアアアアアアアア!!!!!!』
切られた魔女がパキン、パキンという音と共に徐々に凍ってゆく。
やったか……?
『こ、、、、ろ、、、、、、す、、、、、』
「え?」
魔女が何かを口走った。
『こ、、、ろ、、、、し、、、て、、、、や、、、るううううううう!!!!!!』
最後の言葉を言い終える間際、魔女の長い首がちぎれ、俺めがけて襲いかかってくる。
そしてそのまま俺の首元に喰らい付く。
「ぐ……!この……!まだ生きてやがんのかよ……!!」
魔女の長い黒髪に俺の顔は埋め尽くされる。
……あれ?この匂い……。
なんだろう……懐かしい匂い……?
尚も俺の首にきつく喰らい付く魔女。
このままじゃ、俺の首まで捥げちまう……。
俺はそのままの姿勢で大剣を逆手に持ち―――。
―――魔女の頭ごと自分自身を貫いた。
◆◇◆◇
目が覚めると隣にサキチが座っていた。
「お疲れ様。ほら、これが『アトラクタの鍵』だ」
俺の手に鍵を握らせるサキチ。
何だかどっと疲れたよ、俺……。
「さあ、まだ仕事は残っているよ、アオイ。この『鍵』で『アトラクタの箱』を開けるんだ。……そこに君の『記憶の断片』が眠っている」
俺はサキチに促されるように起き上がり、先程の『ゆがみ』の場所に一際大きな『箱』があるのを見付ける。
これが……?
「ほうら、しっかりしなよ?君の『記憶』だ。それが果たしてどんなものなのかは俺にも分らない。でも、それでも、『君の記憶』だ。君のものだ」
俺は『鍵』を手に『箱』を開ける。
そして、幼少期の記憶の一部を思い出す。
・・・
ああ……そうだ。
あれは、あの『魔女』は、母さんだ……。
あの髪の匂い……。
俺を産んでくれた母さんの匂い。
そして―――。
―――俺を殺そうとした、母さんの、匂い。
?……殺そうとした?
何故?どうして母さんは俺を殺そうとしたの?
……いや、それよりも、どうして今の母さんと、俺の記憶の中の母さんは、別の人なの?
どうして―――?
―――どうして、俺は、記憶を失ったの?
―――誰か、教えてくれよ……
あとがき
ここまでご読了頂き、真に有難う御座います。
本作品はライトノベルコンテスト『潜入ゲーム』の募集規定に従い、コンテスト終了後までは第一章のみの掲載となります。
読者の皆様には大変ご迷惑をお掛け致しますが、ご了承下さいます様宜しく申し上げます。
また、本コンテストに参加されている他の作者様の作品もお楽しみ頂ければ幸いで御座います。
●コンテスト参加作者様作品一覧 『小説を読もう!』トップページ→『分類検索』→『潜入ゲーム』で検索
『潜入ゲーム』×『小説家になろう』ライトノベルコンテスト公式HP
http://sennyu-game.com/contest/
※題名の暗号の答え※
《》内の大文字アルファベット(全17文字)を全て抜き出し順序を変えると二つの英単語が出来上がります。
〇ATTRACTOR【アトラクタ】(9文字)
〇HEMI SYNC【ヘミシンク】(8文字)
という遊びでした。